ハリル、異例のGK合宿で掲げた理想像

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、17日から19日にかけてGKのみの候補合宿を行っている。ハリルホジッチ監督は理想のGK像のひとつに「190cm以上あること」を挙げているが、代表正守護神を務める183cmの西川周作の他、いまだA代表出場歴のない195cmの林彰洋や候補合宿初招集となった196cmのシュミット・ダニエルは静かに意欲を燃やしている。ハリルJの代表正守護神奪取に向けて、190cmを持つ者と持たざる者の戦いが繰り広げられることになりそうだ。(取材・文:河治良幸)

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 ハリルJのGK合宿は17日から西川周作(浦和レッズ)、東口順昭(ガンバ大阪)、林彰洋(サガン鳥栖)、櫛引政敏(鹿島アントラーズ)、候補合宿初招集となる中村航輔(柏レイソル)とシュミット・ダニエル(松本山雅)の6人を集めて行われている。

「A代表で合宿する時間は少ない。クラブでのトレーニングがかなり重要になってきます」とヴァイッド・ハリルホジッチ監督。8月から新しく加わったルグシッチGKコーチが指揮官とともに、19日の午前まで4回のトレーニングと宿舎でのミーティングで選手たちを指導し、クラブに持ち帰るためのメッセージを伝えていく。

「キーパーは本当に色んなトレーニングが必要になってきて、現代フットボールがそれを要求していますよね」

 そう語るハリルホジッチは取材陣の「理想のGKは?」という質問に対し、「現代フットボールでは、まず190cmないといいキーパーとは言えない」と切り出し、マヌエル・ノイアーの名前を挙げた。ブラジルW杯でハリルホジッチ監督率いるアルジェリアと対戦し、120分間に渡り世界王者を苦しめたチームの前に敢然と立ちはだかったドイツ代表の守護神だ。

 サイズが大きいだけでなく、技術、反射神経、メンタルをハイレベルに備える。そして「リベロの様なポジションを取って、背後のボールを彼が全てコントロールしている。ただしっかりコントロールしたあと、組み立てにも参加できる」(ハリルホジッチ監督)など、総合的に優れた世界最高レベルのGKであることは間違いないが、まずサイズの話が出たことはハリルホジッチがスタンダードとして基準に達しているGKを求めていると見て間違いない。

190cmに満たない西川。低身長をカバーするステップワーク

 その基準を満たす選手は今回のメンバーでは195cmの林と196cmのシュミットで、現在の正GKと第二GKである183cmの西川と184cmの東口はもちろん、リオ五輪を経験した186cmの櫛引と184cmの中村も満たしていない。

「180cmのキーパーもハイレベルには行けると思うが、ただ困難はかなりある」とストレートに表現するハリルホジッチ監督からすれば、林やシュミットの様な長身選手が台頭して、西川や東口を追い越す様な存在になれば理想的かもしれない。

 だがしかし、そうした流れを従順に受け入れるほど現在の守護神はやわではない。西川は「僕は本当に身長的にも低いですし、そこは自分でも分かっている」と前置きしながら「190cmの選手に無いもので勝負していかないといけないと思っていますし、世界を見てもデカいだけではいけないというのはある」と語る。

「足を動かすところ、ステップワークは自分が自信をもってできるところですし、そういうアジリティ的なところでカバーしていかなければ身長はカバーできないと思う。そこはもう無いものは無いので、割り切ってやっています」

 その特徴をより押し出すためにも「自分が出るからにはもっと後ろからつなぎたいですし、つなげる環境を自分からも味方に対してもっともっと要求したい」と主張する。実際、イラク戦で日本のラインが全体的に低くなってしまったことを指揮官に指摘し、練習メニューに取り入れることを相談したという。

「監督もそこは思っていたことですし、ラインが下がり過ぎたからディフェンスも競りにくかったというのは話してくれていた」と西川は語るが、思ったことを遠慮なく監督や仲間に話して改善の方向を探っていけるのは“ハリルJ”の立ち上げから信頼を築いてきた選手のアドバンテージだ。

195cmの林。西川と東口からポジションを奪えず…「自分の常識をぶっ壊す」

「デカい選手はデカい選手なりにリーチがあるので、ボールを楽に取れたり触れたりしてりしている。でも自分たちは予測だったり足の運びだったり、飛ぶ方向だったり、間合いだったり。いろいろ細かいことがあって奥の深いポジションですけど、いろんなことを経験しながらもっと成長しないと通用しない」(西川)

 もともと上背の不利が言われる中でここまでの地位を勝ち取った守護神は「若い選手が出て来たり、高い選手が出てきたり、いい刺激になるので、この時間を大事にしたい」と語る。彼にとっては“逆境”も成長の糧であり、だからこそ目標のロシアまで簡単にポジションを明け渡す気は全く無い様だ。

 その西川や東口とは反対に、ハリルホジッチ監督が求める身体的な基準を満たしながら彼らからポジションを奪えていないのが林だ。「実際問題、使ってもらえてないというのは、1〜2個足りてないということは監督の中でも思っているだろうし、僕の中でも自覚している」と語る林は生活を含めた全ての面で改善をはかり、指揮官に認めさせるべく努めてきた。

「食事もそうですし、サッカーに向き合う時間も劇的に変えてきている。試合で明らかに『こいつ変わったな』『あの2人より1つ頭抜け始めたね』という状況になる様にしたい。今までの状況で殻を被ったままだと頭1個抜け出すのは無理なので、自分の常識をぶっ壊して前に進みたい」

シュミット「ノイアーみたいになれれば」。静かに燃やす意欲

 そう意気込む林を身長で1cm上回るシュミットは「細かい1つ1つのプレーをミス無く確実にやる部分は皆さんが自分よりたぶん優れている部分だと思う」と認めるものの、「(身長を)監督が求める以上はチャンスだと思っているし、今より実力を付けて早く使いたくなる様なキーパーに成長できれば」と静かに意欲を燃やしている。

 そんなシュミットは恵まれた体格だけでなく、色々な面でまさしくノイアーの様な存在感を示そうとしている。その1つがラインコントロールだ。「攻め込まれている試合状況によって、ディフェンスの心理状況によってそこは変わると思う」と言うが、そこに大きな影響を与えうるのがGKであることを強く意識している・

「キーパーが存在感を出してディフェンスが勇気を出してガッと上がれる様な、裏をがっぽり空けても大丈夫と思われる様なキーパーだったら、ノイアーみたいにディフェンスラインを後押しできるので、そういう意味では存在感あるキーパーになれればいいなと思います」

 この3日間で彼らの能力が劇的に変わることはないだろうが、GKだけにフォーカスした合宿の中で6人が刺激し合うことで、一体感と競争意識が同時的に高まっていくことは期待できる。

 サイズはもちろんのこと、パーソナリティの部分も含めて日本サッカーの“弱点”ともされるポジションだけに、良い競争の中で最終予選を勝ち抜き、ロシアでゴールマウスを守る選手が決まっていく。そうした流れに期待したいところだ。

(取材・文:河治良幸)