「かつて確かだったものが、全て消え去った」――米紙ニューヨーク・タイムズに先ごろ掲載された論説記事に引用されたこの言葉は、世界中の多くの人々が不安に襲われている理由をよく示している。これは、変化を食い止める、あるいは逆行させることに集中的に力を注ぐ多大な政治的エネルギーにも表れているが、その力はまだまだ大量に残されている。

私たちは、変わらなければならない。望もうとそうでなかろうと、いずれにしてもデジタル化は進行している。デジタル化によって消える仕事がある一方で、新たな仕事も生まれている。

9月上旬に発表されたデータによると、米国の世帯収入は2015年、前年比5.2%の大きな伸びを示している。その背景には、時間当たり賃金の上昇と全く新しい雇用の創出がある。こうした状況は、製造、物流、小売の各業界でみられる。そして、いずれの業界においても個人とサプライチェーン設計の両面で、敏しょう性(アジリティー)が要求されている。

雇用に生まれる変化

サプライチェーン人材開発を手掛けるSCMワールドはここ数年、サプライチェーン戦略の視点からデジタル技術の動向を追ってきた。デジタルが持つ破壊力は、eコマースが伝統的な店舗ベースの小売業に革命をもたらした時点で、すでに暗示されていた。最近ではインターネットに接続されたハードウェアやより高性能で安価なオートメーション技術が、サプライチェーンの構造と仕事そのものの定義を変えつつある。

振り返ってみると、新しい破壊的技術は3年前から大量に生まれ続けている。ハードオートメションやERPの実装における最近の技術進歩と違い、この新たな動きはすぐに終わりを迎えることはないだろう。20世紀初頭に電化が進んだ時のように、デジタル化は仕事がどこでどのように、いつ行われるかを変えているのだ。

雇用の創出という面でいえば、これらはサービスの提供地域を拡大しているアマゾンなどのラストワンマイル物流や、オンデマンドで1時間100ドル(約1万円)の料金で便利屋を派遣するホームセンター大手ロウズのサービスに雇用機会の拡大がみられることを示している。非熟練労働者を最低賃金で大量に雇用していた小売業では、雇用人数を絞って給与水準を引き上げる方向に向かっている。


デジタル化への適応による変化

デジタル化されたサプライチェーンとは、データ分析、クラウドコンピューティング、機械学習を駆使して需要をより的確に把握し、3Dプリンティングや先進ロボット工学、デジタル・サプライチェーンを活用した、より迅速でカスタマイズされた供給を意味する。まるでSFのように聞こえるかもしれないが、これこそナイキやジョンソン・エンド・ジョンソン、ゼネラル・エレクトリック、ハーレーダビッドソンなどが今まさに取り組んでいることだ。

ラルフローレンは先ごろ、ニューヨークのマディソン・アベニューにある店舗の前でランウェイショーを行った。「See now, Buy now(ショーで見てすぐ買える)」と名付けたこの戦略は、半年後ではなく今すぐ買える商品を重視するものだ。この戦略には、同社のステファン・ラーソン最高経営責任者(CEO)がファストファッションのH&Mで培ったサプライチェーンに関する経験が生かされている。このアプローチは、敏しょう性(アジリティー)が全てだ。

バーバリーのロベルト・カネバリ最高サプライチェーン責任者(CSCO)は昨秋に行われたSCMワールドのイベントでこう述べている。

「ウェブ、店舗、サプライチェーンのアップストリーム、製品設計に使用されるデジタル技術の組み合わせにかかっている」

変化が進む中、敏しょうに行動することができれば、うまく生き残っていくことができる。かつて”確かだったもの”は忘れるべき時なのかも知れない。

Kevin O'Marah