ガーミン(Garmin)のクリフ・ペンブルCEOは、カンザスシティ郊外の並木路をジョギングすることを毎朝の日課にしている。51歳のペンブルは細身の体躯で1マイルを8分以内で走り抜ける。

ペンブルの片腕にはランニングウォッチ「Garmin Forerunner 235」が、もう一方の腕にはアクティビティトラッカー「Garmin Vivosmart HR+」が装着されている。Forerunner 235は距離とペースを測定し、Vivosmart HR+は心拍数とステップ数を測定する。ペンブルはかつて、音楽を聴きながら湖のマリーナで小休止をとっているときに車にはねられた経験があり、それ以来走りながら音楽を聴くことを止めた。

「常に周囲に注意を払っていなければ不意打ちを食らうことを学んだ」とペンブルは話す。

2007年のiPhone発売で大打撃

皮肉にも、ペンブルがCEOを勤めるガーミンもライバル企業の不意打ちにより、事業が大きな打撃を受けた過去がある。車載用GPS端末のパイオニアだったガーミンは、GPS事業だけで最盛期には年商の4分の3に当たる25億ドルを稼ぎ出し、2007年10月に株価はピークの120ドルを記録した。

しかし、その直前の6月にアップルがiPhoneを発売してグーグルマップを使うドライバーが増加すると、ガーミンのGPS事業の売上は3年間で10億ドルも減少し、時価総額の90%を失った。

2013年にガーミンの共同創業者でビリオネアのミン・カオからCEOの座を引き継いだペンブルは、新事業の柱としてウェアラブルに目を付けた。ウェアラブル業界では、チップの価格が劇的に下がったことで製造コストが下がり、FitbitやJawboneなどのスタートアップが脚光を浴びていた。ガーミンは、アスリート層向けにスタイリッシュで高価格帯のウェアラブルを開発し差別化を図った。

ペンプルの戦略は大当たりし、昨年のウェアラブル事業の売上高は5億6,500万ドル(約567億円)と、過去2年間で8倍に増加した。株価はかつて15.17ドルまで下げたが、この1年で33%上昇し、最近では49.08ドルを記録している。

ガーミンは、1989年にミン・カオとゲイリー・バレルによって設立された。二人はアライドシグナル社の同僚で、カンザス州オレイサにあるレッドロブスターで夕食を取りながら、会社がGPS技術を重視していないことについて文句を言い合ったことがきっかけでガーミンを創業した。

二人は貯金を取り崩し、家族や友人、投資家から資金援助を受け、合計400万ドルを集めて会社をスタートさせた。最初に雇用した社員が、二人の友人で数学オタクのペンブルだった。「私は会社設立の二日目に参画した」とペンブルは話す。

ガーミンは全てのプロダクトを自社開発する垂直統合型のビジネスモデルを強みとし、2000年にIPOを果たした。ITバブルの崩壊を何とか生き残ると、2003年には売上高が5億7,300万ドルに達し、カオとバレルは初めて「フォーブス400」に名を連ねてビリオネアの仲間入りを果たした。(当時の資産額は、カオが9億7,000万ドル、バレルが8億1,000万ドルだった)

2003年にウェアラブルに参入

同年、ガーミンは最初のウェアラブル、「Forerunner 201」をリリースした。これはGPSを搭載したポケベルサイズのランニングウォッチで、価格は160.7ドルだったが、当時は個人用GPS端末のニーズが小さかったために大きなヒットとはならなかった。ウェアラブルの売上規模は、車載用GPS端末事業とは比較にならないほど小さかった。

iPhoneの登場によってガーミンのGPS事業が大打撃を受け始めると、CEOのカオを補佐する立場にあったCOOのペンブルは、「ウェアラブルこそが会社の救世主になる」と考えた。2013年にペンブルがCEOに就任すると、ガーミンはウェアラブルへの取組みをさらに加速させ、サイクリング、ジョギング、トライアスロン、水泳、ゴルフ、ハイキングなど種目ごとに特化したウェアラブルを次々とリリースした。

ガーミン製ウェアラブルは、高価格だがユーザーのニーズをよく考えて設計されている。例えば、ゴルファー向けの「Approach S6」は価格が350ドルで、スイングスピードが計測できるほか、40,000コース以上のレイアウトが登録されている。また、トライアスロン用の「Forerunner 735XT」は450ドルで、距離や心拍数のほか、水泳のストローク数、サイクリング用の各種指標、最大酸素摂取量などを計測することができる。

「熱心なランナーたちはガーミンを選ぶ。彼らは機能性に優れたガーミンの製品に高いロイヤリティを持っている」とオッペンハイマーのアナリストであるアンドリュー・ウーカウィッツは話す。

ガーミンのウェアラブルの多くは防水仕様で、競合製品に比べてバッテリー寿命が長い。生産は全て台湾の自社工場で行なっており、倉庫やコールセンターも自社で所有している。また、マーケティングやデザイン、エンジニアリングなど全ての工程をインハウスで行っているのも、垂直統合型ビジネスを展開するガーミンならではだ。ペンブルによると、間接費は高いが、アップルやFitbitのように製造を委託する工場の生産能力に依存しないため迅速な生産体制の調節が可能だという。

「このため、ガーミンは他社に比べて代理店や小売店と良好な関係を築きやすい」とウーカウィッツは指摘する。ガーミンは、大手小売りチェーンから小さなショップまであらゆる規模のリテーラーに製品を卸している。

ガーミンはしばらくの間、アクティビティトラッカー市場には参入しなかった。アクティビティトラッカーはガーミンが得意とするスポーツウォッチよりも低価格で、機能性も低く、ユーザー層も異なる。アクティビティトラッカーのユーザーは、運動不足のカウチポテト族が多く、日々の歩数を計測する程度の用途がほとんどだ。この分野のリーダーはシリコンバレーに本拠を置くFitbitで、2009年に最初の製品を開発するとすぐに業界首位に躍り出た。Fitbit以外の主要プレーヤーには、マイクロソフトやJawboneが含まれる。

ガーミンは2年前に満を持してアクティビティトラッカーの開発に乗り出し、機能面を重視した「Vivofit」(99ドル)とより洗練された「Vivosmart」(219ドル)をリリースした。

競合のFitbitを追撃開始

「我々はアクティビティトラッカー市場に新たな価値を提供できると感じた。顧客には、アクティビティトラッカーからよりハイエンドなランニングウォッチまで幅広い製品を提供することができる」とペンブルは語る。この結果、ガーミンの2015年におけるウェアラブル出荷量は前年対比で60%増加し、売上高も倍増した。

ガーミンのユーザーは、専用アプリをダウンロードすることで、自身のデータにアクセスすることができる。アプリは2011年にリリースされ、累計ダウンロード数が1,500万を超える大ヒットとなったが、その3分の1は2015年にダウンロードされている。垂直統合型ビジネスを標ぼうするガーミンは、アプリに関しても自前のアプリストア「ConnectIQ」を2014年にスタートし、サードパーティによる専用アプリも提供している。これはFitbitにはない大きな強みだ。ConnectIQ向けにはこれまでに2,000以上のアプリが開発され、累計ダウンロード数は1,000万DLを超える。

「いまだにガーミンの経営は下り坂だと言う人がいるが、彼らは我々には成長エンジンがあることを忘れている」とペンブルは話す。中年を過ぎてからジョギングを始めたペンブルは、プライベートでもビジネスでも新しいことに果敢にチャレンジすることを大切にしている。「変化の激しいこの時代に一番重要なのは、常に自己改善に努めることだ」と彼は言う。

Alex Knapp