米Forbesが選定した「世界で最もイノベーティブな企業ランキング2016」。昨年に続く1位にはテスラモーターズが輝いた。”真に破壊的”な起業家イーロン・マスクの現在地は。

指数関数的に進化する最新の「エクスポネンシャル・テクノロジー」を駆使した、次世代の自動車・交通機関像−。

米電気自動車(EV)メーカー、テスラモーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が今年7月に発表した10年ぶりの「マスタープラン」には、そんな表現がぴったりだ。

自動運転機能のさらなる開発、自家用車にとどまらず、トラックやバスといった輸送車両の生産、使っていないときのテスラ車を共有するカーシェアリングサービス・プログラム、そして、目玉は、米太陽光発電ベンチャー企業、ソーラーシティの買収による太陽光エネルギーとEV事業の合体だ。

8月1日、テスラは、マスクが最大の株主でもあるソーラーシティと、約26億ドル(約2,642億円)での買収合意に達したと発表。EVと電池の生産規模拡大をにらみ、ネバダ州北西部に蓄電池製造工場「ギガファクトリー」を建設中だ。太陽光パネルを製造するソーラーシティとのコラボレーションの下で再生エネルギーを進め、100%環境に優しい電気自動車の製造を目指す。

技術革新と起業論を専門とするトロント大学ロットマン経営大学院のジョシュア・S・ガンズ教授によれば、マスクの「究極の目標」は化石燃料の使用削減だ。

「太陽光発電を自前で行い、蓄電池と併せて販売する。野心的で大胆な計画だ」(ガンズ教授)。『ディスラプション・ジレマ』(破壊のジレンマ/未邦訳)の著者でもある同教授は、「2産業の合体がさらなるイノベーションを生むと、マスクは考えている」と指摘する。

アリゾナ州立大学リスクイノベーション・ラボの責任者で、技術革新や責任のあるイノベーションなどを専門とするアンドリュー・メイナード教授も「先見性と洗練さに富んだプランだ」と評価する。

「新テクノロジーにとどまらず、インフラごと構築する。社会の機能のし方まで変えうるプランだ」(同教授)

メイナード教授いわく、テスラのマスタープランは、自動運転やA(I 人工知能)、運転支援機能「オートパイロット」の向上を可能にするクラウドソース型データ分析、シェアリングエコノミーなど、最新テクノロジーを「自然融合」させた”宝箱のようなプラン”だ。

「太陽光テクノロジーにシェアリングエコノミーのような社会的テクノロジーを融合させることで、本物のイノベーションが始まる」(メイナード教授)

車の「所有」という従来の概念を覆しうるテスラのカーシェアリング・プログラムは、詳細までは明らかでないものの、さながら自動運転EVのウーバー版といったところか。使わない車を止めておく駐車場スペースなど、資源のムダを解消でき、購買の投資対効果もアップする。

「既存の自動車市場という概念を超え、都市やエネルギーシステム、環境への影響までも再構成するような計画だ」(ガンズ教授)。テスラは、日本車や韓国車に後塵を拝してきた米自動車産業に再び世界の耳目を引き付けた点でも、評価できる。通常、「破壊者」は、まずローエンド層を対象にするものだが、ハイエンドから始めたという意味で従来の「破壊」という概念と異なる点も、注目に値する。

シンギュラリティ大学のロブ・ネイルCEOも、マスクを高く買う一人だ。「卓越したエンジニアであり、未来に対する揺るぎない独自の視点を持った、極めてイノベーティブな起業家だ」(ネイル)。赤字企業同士の合併を冷ややかに見る投資家も多いが、ソーラーシティの買収を断行した点が、周りの批判などをものともせず自分の信念を貫いたスティーブ・ジョブズを彷彿させると、ネイルは語る。

ネイルが分析するマスクの最大のスキルセットは、「総合的思想家」であること。ある領域で掘り下げた斬新な見方を他領域に持ち込み、誰も思いつかないような考えに転化させる─。「本物のイノベーションは、そこから生まれる」とネイルは言う。「自説を曲げない意志力、高度な専門性に裏づけられたビジョン、分野の枠を超えた思考法。これがマスクだ」。

壮大な目標をいくつも掲げすぎると、計画倒れに終わるリスクもあるが、最も厄介なのが「微妙な課題」だ。たとえば、カーシェアリングサービスが「自動車の所有権」という概念を脅かすリスク。車社会の米国では、マイカーは「文化的アイコン」なだけに、人に貸したくないなどと消費者が思いかねない。自動運転への信頼感の醸成も急務だ。社会的など、多角的にリスクを考える際の展望図「『リスク・ランドスケープ』を認識することが、マスクの最大の課題の一つだ」とメイナード教授は言う。

「『真に破壊的』であるためのハードルは多い」(同教授)。だが、マスクなら、それに打ち勝つチャンスは十分ある。

イーロン・マスク◎1971年南アフリカ共和国生まれ。99年、インターネット決済のペイパルの前身企業を創業。2002年にスペースXを起業、04年創業期のテスラモーターズに出資して、08年から同社CEOも兼任。

テスラモーターズ◎2003年、シリコンバレーで創業した米電気自動車(EV)メーカー。リチウムイオン電池搭載のスポーツカー「ロードスター」や価格を下げたセダン「モデル3」などを販売(モデル3は来年後半販売開始予定)。ソーラーシティ買収で再生エネルギー発電とEV事業の合体にも乗り出す。

Forbes JAPAN 編集部