ミズーリ州スプリングフィールドに住む31歳のマーカスは、1か月前に自宅のスマートホーム化を思い立った。熱烈なアップルマニアのマーカスは、さっそく「HomeKit」 対応製品を買い集めた。HomeKitとは、サードパーティ製のスマートホーム機器をiOS 端末と連携させ、Siri による音声操作を可能にするアップルのスマートホーム規格だ。マーカスは数千ドルを費やしてフィリップス製のLED照明「Hue」を30個、Ecobee製のサーモスタットを2台、室温センサーを8個、August製のスマートロック1台を購入した。

彼が帰宅するとスマートロックがiPhoneに反応して自動的に開錠したり、朝目覚めると部屋の明かりが徐々に明るくなるなど、当初は全てがマーカスの望んだ通りに機能した。「仕事から疲れて帰宅したときに自宅の設備が自動化されていると快適だ。最初の1か月は最高だった」とマーカスは話す。彼はフルネームを伏せることを条件に、その後彼に起きたトラブルについて電話インタビューで語ってくれた。

「スマートホーム」化の落とし穴

マーカスは、リビングルームに置いたiPad Proをスマートホームのハブとして使い「Siri、照明を薄暗くして」などと指示を出して、家中の設備を思い通りに操作した(HomeKitでは、iPadとアップルTVがハブとして機能する)。家の鍵も、AugustのスマートロックとiPhoneをBluetoothで通信させることで鍵を持たずに開錠・施錠をすることができた。すっかり満足したマーカスは、近所に住む友人のマイクを自宅に招待して自慢のスマートホームを披露した。

ある金曜日、マイクが台所用品を借りようとマーカスの家にやってきた。ちょうど出かけようとしていたマーカスが車を降りようとすると、マイクが「大丈夫、自分で鍵を開けられるよ」と言って「Siri、玄関の鍵を開けて」と大声で叫んだ。

すると、驚いたことにリビングルームのiPad Proがマイクの声に反応し、鍵が開いたのだ。マーカスも試しに家の外から指示を出してみると、それほど大声を出さなくても開錠できることがわかった。

「最初はキツネにつままれたようだった。でも、よくよく考えてみればこうした事態を想定しておくべきだった」とマーカスは話す。マーカスがこのことを掲示板サイトのRedditに投稿したところ、瞬く間に話題を呼んでインターネット上に拡散した。Redditユーザーの多くは、マーカスがiPadにパスコードを設定しなかったことを批判した。アップルもこの事態に反応し、「全てのアップルユーザーは、端末にパスコードを設定することを推奨する」とのコメントを発表した。しかし、それではいちいちiPadにパスコードを入力する必要があり、マーカスが望むようにリモートでスマートデバイスをコントロールすることができなくなってしまう。

「僕はアップルが宣伝していた通りにiPadを使っていただけだ。Siriに話しかけた後にPINコードを入力するなんてゴメンだ」とマーカスは言う。迷った挙句、マーカスはiPadにパスコードを設定せず、スマートロックの使用を諦めた。これまでのように仕事で家を離れている際に、犬の散歩をしてくれる人を家に入れることができなくなったが、安全性は高まった。


「Alexa」の場合、声で解錠は不能

誤解のないよう書くと、鍵が開いた責任はAugustにある訳ではなく、HomeKitに対応している全てのスマートロックで同じことが起こり得る。Augustはアマゾンの音声アシスタント機能「Alexa」にも対応しているが、アマゾンはこうしたトラブルを予期していたのか、ユーザーはAlexaを使って施錠はできるが、開錠はできないようになっている。

「HomeKitではデバイスのきめ細かい管理ができない。照明やサーモスタットでは可能かもしれないが、スマートロックでは無理だ」とスマートロックメーカー「Lockitron」の共同創業者、ポール・ゲルハルトはツイッターに投稿している。

HomeKitは2014年のリリース以降、徐々にではあるが確実に普及している。先日行われたiPhone 7の発表イベントでは、アップルCEOのティム・クックが年内にスマートロックやサーモスタット、電球、セキュリティカメラなど、100種類ものHomeKit対応デバイスがリリースされることを明らかにした。それら全てがSiriの音声コントロールに対応するという。また、iOS10では、HomeKit対応デバイスを一元管理できる「Home」アプリが用意されている。

これまで、スマートホーム業界は全般的にセキュリティ対策に無頓着であったが、アップルはHomeKitのパートナー企業に厳格なセキュリティ要件を課して改善を図っている。それでも、今回の一件によって浮き彫りになったように、現状のHomeKitは消費者のニーズよりもデベロッパーの囲い込みを優先させている感が否めない。今後、アップルがスマートホームのビジョンを実現させるためには、解決すべき課題が残されているのは明らかだ。

Aaron Tilley