米Forbesが選ぶ「世界で最もイノベーティブな企業ランキング2016」。日本トップは、楽天だ。世界17位と昨年19位から上昇した。世界的革新企業を率いるのは、日本を代表する起業家・三木谷浩史だ。

「イーロン・マスクとは仲がいいので、よく会いますが、彼なんか『アントレプレナーは国家に立ち向かえ』と言う。従来の枠組みで考えるのではなく、"こうなる"と仮説を立て、そこに向かって進んでいく。起業家のパワーは先を読む力と挑戦する力にる」

「そういう意味では、楽天は自分たちの仮説の中で、グーグルやテスラとは異なる、独自のイノベーションを次々と起こしてきた。これからはインターネット・サービスに限らず、自分たちのイノベーティビティをもっと広げていこうと」

2017年に創業20周年を迎える楽天が、ミッションステートメントをこのほど変更した。「イノベーションを通じて、人々と社会を”エンパワーメント”する」。創業以来掲げてきた「インターネット・サービス」から「イノベーション」への改訂は、経営者にとって重大な意思決定だったに違いない─。そう考える周囲をよそに、楽天創業者で会長兼社長の三木谷浩史は冒頭のように自然体だ。

三木谷がつくりあげた「楽天経済圏」拡大の足跡を振り返ると、米国ビジネスモデルの後追いでないがゆえの、さまざま"世界初"がある。「ネットで人はモノを買わない」と言われた時代にB2B2C型ビジネスモデルを立ち上げ、ネット上でのポイントプログラムを本格導入、フルラインのネット金融とeコマースを結びつけるなど、オリジナリティあるインターネット・サービスを構築してきた。そして、グローバルでも様々なビジネスを展開中だ。15年度の流通総額は9.1兆円(前年同期比22.8%増)にも及ぶ。

また、直近では、無料メッセージアプリ「Viber(バイバー)」(14年、約9億ドル)、ネット通販関連サービス「Ebates(イーベイツ)」(14年、約10億ドル)、データ解析の「Slice Technologies(スライステクノロジーズ)」をはじめ、海外有力ベンチャーを相次いで買収。さらに、15年に新設した楽天技術研究所ボストン拠点は深層学習(ディープラーニング)を含めた人工知能(AI)分野専門だ。

これからのデータ時代を見据え、一日何十億データポイントという収集能力を生かし、次の成長へ向けて、舵を切っている。「アクセル、ブレーキで考えると、日本人はブレーキが強すぎ。僕はブレーキが壊れているのか、あるいはブレーキを踏むセンサーが人と違うのか」
 
そう笑いながら自らを表現する三木谷だが、起業家がイノベーティブであることと、企業がそうであることは異なる。それに対する三木谷の答えは「ビジョンを示し、イノベーティブであり続けることを経営陣が示し続ける」。すでに中期戦略「Vison2020」に落とし込まれているという。

「官僚的な組織をつくりたい経営者はいない。だけど組織の歴史を紐解くと、そうなっていく。ではどうするか─。各ビジネスを『ストロング』『スマート』『スピード』の3つに分けポートフォリオマネジメントをしていこう、と」

ストロング領域は、マーケットシェア・ナンバーワンを狙い、10〜30%の成長率を目指す。スマート領域は、ニッチでユニークなサービスで一定のマーケットシェアを狙い、成長率25〜70%のビジネス展開を見据える。スピード領域では、破壊的なビジネスモデルにより成長率70%以上の超高成長を狙う。

大きな枠組みを策定する一方、新規事業の企画、立案を6人1組で行う取り組み「プロジェクト6」も推進させている。楽天市場の立ち上げと同じ人数の「6人」という小さなユニットで新規サービスの開発を目論む。代表的な成功例のひとつは、スマホ決済サービス「楽天スマートペイ」。業界2位以下を10倍引き離す、圧倒的トップという成果を出している。

「イノベーションの起こりやすい定型フォーマットを作ろうと。そして、どんどんやれ、と。これはガバナンスのノベーションだ」

現在、三木谷は毎月シリコンバレーに足を運び、イーロン・マスクやシェリル・サンドバーグら多くの起業家と交流を深めている。その中でも、三木谷はテスラモーターズの技術力に注目する。

「なぜ、彼らが世界最高水準を実現できているのか。それはグローバルタレントが集まっているから。我々がグローバルを重視する理由はそこだ。日本人だけでは難しい。現在、楽天は世界中から人材確保ができ、企業の買収もできている。シンプルだが、社内公用語英語化の効果は大きい」

東京をアジアのインテリジェント・ハブにしたいと考え、本社移転した二子玉川をチャレンジ精神あふれる”シリコンリバー”にしたいと壮大な目標を掲げる三木谷に、最後、改めてイノベーションに大切なことを聞いた。彼の答えはシンプルだった。

「それは、日和らない”根性”ですね」

三木谷浩史◎1965年神戸市生まれ。88年一橋大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。93年ハーバード大学にてMBA取得。97年楽天を設立、代表取締役社長就任。新経済連盟の代表理事を務める。

土橋 克寿