長寿を誇る日本だが、一方で3分診療、介護難民、破綻寸前の医療財政など課題は山積み。誰もが長い人生を健康で送るために、進行中のプロジェクトを紹介する。Part.1は、スギ花粉米の話。

特別なコシヒカリを食べ続けることでスギ花粉症が治るー。実は、遺伝子組み換え技術を駆使した「スギ花粉米」がすでに誕生している。臨床研究で人体への安全性と効果が確認され、現在、医薬品として実用化する取り組みが行われているところだ。

「スギ花粉米」は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の高野誠博士らのグループが開発を進めている。

スギ花粉症の主な症状であるくしゃみや鼻水は、花粉を鼻の外へ押し出そうとする体の免疫反応の表れだ。スギ花粉などの異物(アレルゲン)が体に入ってくると、白血球がそれを排除するための物質、「抗体」を用意する。抗体は生体防衛に重要な役割を果たす肥満細胞にくっつき、異物の侵入に対応できるようにスタンバイする。体の中に入ったアレルゲンがこの抗体に捕まると、肥満細胞がアレルゲンを排除するためにヒスタミンなどさまざまな刺激物質を放出する。この刺激物質がくしゃみや鼻水を起こすのだ。

現在、花粉症の根本的な治療には、アレルゲンそのものを注射などで少しずつ投与し、アレルゲンを体が異物と認識しなくなるようにするという方法がある。しかし、この治療は3〜5年と長期にわたり、治癒率も6〜7割と低い。

高野博士らは、この方法を毎日の食事に取り入れてはどうかと考えた。選んだのは日本人の主食であるコメ。アレルゲンの構造を変えて安全性を高めた抗原をコメに蓄積する遺伝子をつくって稲に導入した。「スギ花粉米」は通常のコメと外見はなんら変わらない。

「毎日一定量、この治療米を食べてアレルゲンを摂取し続ければ、アレルギー反応は起きなくなると期待されます」(高野博士)

すでに動物で、効果と安全性は確認されている。ラットにスギ花粉米を3週間食べさせた後にスギ花粉を与えると、血中のヒスタミン量は半分以下に減り、くしゃみの回数も4分の1に減った。また淡路島モンキーセンターでスギ花粉症のニホンザルにスギ花粉米を混ぜた餌を与えたところ、アレルギー反応は大きく抑えられていた。人に対する安全性と有効性の試験でも今のところ有害事象は観察されず、アレルギー反応の抑制傾向が認められた。

ただし、スギ花粉米は「抗原を主成分とするもの」として厚生労働省から医薬品扱いになるとの指摘を受けた。そのため現在は、医薬品として実用化するための協力製薬会社を探しているところだ。

ちなみに高野博士らの遺伝子組み換え技術を使えば、各種アレルギーの治療はもちろん、血中コレステロールや中性脂肪、血圧が調整できる治療米も開発できるという。

Forbes JAPAN 編集部