10年前のインターネットを思い出してみよう。iPhoneはまだ存在せず、ネットはPCで見るものだった。フェイスブックはあったがユーザーは大学生に限られ、それ以外の人はマイスペースなどで交流していた。そしてファッション誌の公式サイトの多くは、読者を紙の雑誌へと誘導するためだけに存在していた。

その頃、雑誌「ELLE」の西海岸エディターだったキャサリン・パワーは、紙媒体が発信するようなファッション情報がネットでは見つからないことに歯がゆさを感じていたという。同時に、Net-A-Porterなどのファッション通販サイトの台頭を目の当たりにし、ネットの可能性に注目していた。

そんなパワーはある日、ゲスト審査員として出演したリアリティ番組「プロジェクト・ランウェイ」の収録現場で、番組取材に訪れていた「ELLE」出身のファッションジャーナリスト、ヒラリー・カーと出会う。二人は意気投合し、2006年にセレブのファッションや最新のトレンドを紹介するサイト「Who What Wear」を立ち上げた。

同サイトは今や膨大な数の記事に加えてショッピング機能も備える大手だが、当初のコンテンツは1日に1記事のニュースレターのみ。だが、他のセレブ情報サイトの多くが下世話なゴシップやファッション批判で埋め尽くされていたのに対し、Who What Wearはセレブのファッションを親しみやすい語り口でポジティブに紹介していたため読者数が急増、さらにはセレブの間でも支持を集めるようになった。

「上から目線」を廃除したメディアを

「ファッションを身近に感じてもらいたかった」とパワーは振り返る。「ネットの発達により、誰もが素晴らしいブランドの商品や、素敵な画像・映像の数々にアクセスできるようになりました。従来のファッション誌は読者に対して上から物申すスタンスですが、私たちはファッションを親しみやすいものとして紹介したかったのです」

サイトを運営するにあたり、パワーとカーの二人は2007年初頭に親族や友人から少額の資金援助を受け、2012年に初めて投資家からの大口の資金調達を行なった。不況の影響で業界再編が激しかった2008-2009年頃は出資を募ることは得策ではないと考え、広告収入で乗り切ったそうだ。類似の人気サイトが他になかったため、ネットマーケティングに注力し始めた多くの企業の注目を独占することができたという。

2016年現在、パワーとカーが率いるClique Media Groupは、Who What Wearをはじめ、美容サイトのByrdie、ライフスタイルサイトのMyDomaine、そして12〜22歳のジェネレーションZの女性を対象としたObsesseeなど複数のブランドを擁する一大メディア企業に成長した。

その中で最も新しいブランドであるObsesseeには、通常のホームページは存在しない。obsessee.comに行くと、スナップチャット、インスタグラム、ツイッター、フェイスブックなどのSNSアイコンが並んだ画面が出てくるだけだ。パワーはターゲット層を周到にリサーチした結果、上の世代とのさまざまな違いを見つけたと語る。


「生の情報」こそが価値を生む

「この世代は加工されたイメージや華美なイメージを好みません。私たちが憧れた『VOGUE』の写真のような、お金をかけて作り込まれたイメージには見向きもしない。彼女たちには、スナップチャットの生(なま)の画像や映像のほうが価値が高いのです」

ジェネレーションZの動向は、各ブランドのマーケティング担当者が今最も知りたがっている情報である。パワーらは今年の夏、ロサンゼルスの人気スポットである野外ショッピングモールThe Groveで、3日間限定のポップアップストアを開店した。そこでは現金やクレジットカードは使えず、来場した少女たちはSNSに投稿することで得たソーシャル・カレンシーで商品を獲得した。

「この試みは今後も続けたいと思っています。私たちは彼女たちが何を欲しがっているか、いくらまで出すか、といったことを把握しています。その強みを生かし、Obsesseeでは小売も試してみるつもりです」

本インタビューのロングバージョンはフォーブスが女性起業家をゲストに迎えるポッドキャスト番組「Millions$」としてiTunesで配信中だ。

Clare O'Connor