成人のワクチン接種率は、未成年者に比べてかなり低い水準になっている。米医学誌「ヘルス・アフェアーズ(Health Affairs)」に10月12日に掲載された論文によると、米国がワクチン接種で予防可能な病気よって2015年に被った経済的損失は、およそ90億ドル(約9,340億円)に上ったことが分かった。損失のうち80%は、ワクチンを接種していなかった成人(18歳以上)の感染が原因だったという。

ノースカロライナ大学のオザワ・サチ博士のほか各大学、非営利団体、米製薬大手メルク・アンド・カンパニーの研究者たちからなる研究チームは、全米規模のさまざまなデータベースを基に経済モデルを開発。医療費と生産性の損失について評価を行った。対象とした感染症は、以下の通りだ。

A型肝炎、B型肝炎、帯状疱疹、インフルエンザ、麻疹(はしか)、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、風疹、破傷風、ジフテリア、百日咳、水痘、髄膜炎、肺炎球菌疾患、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染

研究の結果、最大の損失をもたらしたのはインフルエンザ(57億9,000万ドル)だったことが確認された。次いで肺炎球菌疾患(18億6,000万ドル)、帯状疱疹(7億8,200万ドル)となった。論文の主著者であるオザワ博士は、「これらの結果は、診察料や薬代、入院費用などの支払いの回避につながるワクチン接種の価値を強調するものだ」と説明している。

一方、米疾病対策センター(CDC)の調査でも、成人(19歳以上)のワクチン接種率が未成年者を大きく下回っていることが明らかになっている。2014年にTdap(破傷風・ジフテリア・百日咳)ワクチンを接種したのは成人の20.1%、インフルエンザとA型肝炎、B型肝炎の接種率はそれぞれ、43.2%、9.0%、24.5%だった。肺炎球菌の感染の危険性が高いとされる19〜64歳の人たちの間でも、肺炎球菌ワクチンを受けた人は20.3%にとどまっている。

これに対し、はしかとおたふく風邪、風疹の新3種混合(MMR)ワクチン、ポリオ、B型肝炎、水痘のワクチンを摂取している未成年の割合は90%を超えている。恐らく大人たちは、この点においては子どもたちを見習うべきだろう。


社会が負う経済的な負担とは

成人がワクチン接種で予防可能な病気にかかることが、米社会に年間90億ドルの経済的負担をもたらすとは、どういうことだろうか。感染した人には薬や治療、検査、診察、場合によっては入院が必要だ。それらの費用は、自己負担分以外は医療保険で賄われる。多くの人が保険料を支払って加入している医療保険は、医療費を互いに分担し合うものだ。

また、感染して発症した人たちは、仕事を休むことになる。その間に滞ることになる仕事は、誰かが代わりに担当しなければならない。そうしたケースがあまりに多くなれば、企業にとっての問題にもなり得る。勤め先の経営に影響が出れば、従業員の給料にも影響が出る。

仕事が滞ったことで生じたコストは誰が負担するのだろうか。まずは、その会社が負担する。だが、従業員たちの多くが病気になって仕事が円滑に進まなくなり、さらに企業自体がうまく機能しなくなれば、その企業を税金によって支援することにもなり得る。

立場が経営者も従業員でも、あるいは納税者でも、大人が病気になるということは、何らかの形で私たち全員に影響を及ぼすということだ。

Bruce Y. Lee