米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプが、魅力的な女性にはいつも強引に迫っていると自慢げに語った2005年撮影の映像が浮上したことを受け、ついにトランプを見捨てる同党幹部が続出する事態となっている。だが、多方面から聞かれているのが、「なぜいまさら?」という疑問だ。共和党員らは、これまでメキシコ人やイスラム教徒らを中傷してきたトランプを、なぜ支持し続けていたのか?

問題の映像公開後、ジョン・マケインを筆頭とした共和党員らが次々とトランプ支持撤回を表明し、一部はトランプの大統領選撤退を呼び掛けるまでに至った。このタイミングに首をかしげている人は、共和党員にとっての「内集団」と「外集団」は誰なのか、という問いを考えてみるといいだろう。

この二つの言葉は、「社会的アイデンティティー理論」からの用語だ。この理論では、人には周りの人々をカテゴリー化する強い傾向があり、その過程で自らをあるカテゴリーの一員として捉える一方で、他のカテゴリーには属さないと考えるようになるとされる。

自らを特定のカテゴリーに分類することにより、人は自分の集団が他の集団よりも優れている状態を確保したいと思うようになる。自分が下位集団に属していると感じれば、他の集団への移動を試みる場合もある。だが自分の集団が「勝ち組」だと感じれば、大半が現状を維持する。自分の集団の優位性を確保するため、集団内のルールを破る人物をグループから排除することもある。

こうした考え方は、交友関係の輪と置き換えてみるとわかりやすい。今年の大統領選では、自分たちの声だけがこだまする残響室の中にいるかのような人々が話題となってきた。仲間の輪の中に閉じこもり、外の意見に耳を傾けられない人々だ。

だが実際には、私たちのほとんどは、同心円状に重なった複数の交友関係の輪の中にいる。親交のある人々のうち、自分に一番近い輪に入るのは誰だろうか? 周りの人々を自分との近さに応じてさまざまな輪に分類するとしたら、誰をどこに配置するだろう?


もし自分がジョン・マケインのような、ここ数日の間にトランプ不支持を打ち出した共和党幹部だったら、この友好関係の輪はどうなるか想像してみてほしい。イスラム教徒やメキシコ系、そして黒人(トランプは黒人に対し自身の不動産物件への入居を拒否していたと伝えられている)といったグループは、どの輪に入るだろうか? ほとんどの場合は、中心から程遠い輪に入るだろう。

中心部の輪はおそらく、自分の妻や子供、親といった家族だ。その一歩外側には、自分と似た人々、つまり、保守派の白人男性がおり、その多くがキリスト教徒や親しい友人だろう。その次にくるのが、顔見知りではないものの、自分と同じアイデンティティー(同じ宗派や保守系キリスト教の価値観、出身地など)を持ち、感情的につながっている人々だ。

こうしたアイデンティティーとそれに伴う感情の共有により、人々はその集団に属していることによる優越感を得られる。そのため、人々は自分のアイデンティティーが持つ優位性を際立たせ、その優位性を脅かす人物を罰しようとする。優位性を保つ手段の一つとして、外集団のステレオタイプを喚起して通じてその評価をおとしめる行為に及ぶ場合もある。

トランプが限度知らずの暴言を繰り返してきたのにもかかわらず、共和党内からの支持を維持できたのは、彼の発言が共和党員のアイデンティティーやその優位性を脅かすものではなかったからだ。トランプは、共和党員らの中心部に近い輪の中に居場所を確保し、グループ結束の源となっている感情的承認を受けていた。共和党員による支持は、トランプ自身の魅力というよりは、彼の共和党指名候補としての役割や、保守主義やキリスト教の価値観を重んじるとうたう姿勢によるものが大きかった。

トランプが第2次世界大戦下での日系人の強制収容を肯定するかのような発言をした際にも、共和党幹部や熱心な支持者らが大きな反発を示さなかったのは、トランプがこうしたアイデンティティーや強い感情的つながりを保持していたからだと言える。


トランプが矛先を向けてきたイスラム教徒やメキシコ人、移民、難民、有色人種、そして女性一般といった人々は、共和党の忠実な支持者らの内集団にとって脅威とみなされる外集団だったり、内集団の代表的メンバーとはみなされなかったりする人々だった。トランプの発言はこうした外集団の人々の反感を買うものだが、内集団のメンバーを傷つけない限り問題とはみなされなかった。

ではなぜ今になって、トランプが11年前にプライベートな会話だと思い込んで行った発言が、これほどまでの怒りを生んでいるのだろうか?

問題は、この発言の対象が、トランプの性的な誘いを断った(おそらく白人の)既婚女性だったことにあった。この発言によりトランプは、グループ内に定められた暗黙のルールを破り、攻撃の矛先を同じグループのメンバー、またはそのメンバーが持つ中心的な輪の内部へと向けることによって、グループ全体の「勝ち組」としての地位を脅かしたのだ。

トランプのこれまでの女性に対する暴言は、一般的なものや、こうした内集団の外にいる女性に対するものだった。だがその対象が、不倫の誘いを拒否した白人とみられる既婚女性に及ぶと、共和党幹部らは、この女性像に当てはまる人物がごく身近にいることにすぐに気付いた。現在、または将来に男性と結婚し、不倫の誘いを受けてもきっぱりと拒絶してほしいと彼らが願う女性らは、自分に最も近い輪の中に存在していた。

かくしてトランプはようやく、共和党幹部らの逆鱗に触れた。だがその怒りは、特定の個人への攻撃に対するものではなく、既婚男性からの誘いを断る高潔な白人既婚女性という、「か弱く守るべき存在」とされる内集団のメンバーを代弁したものだった。

実際、トランプから距離を置いた共和党幹部らのツイートや声明文は、自身の家族について触れたり、保護や擁護といった言葉を使ったりしているものが多い。ジェブ・ブッシュは孫娘に言及。ポール・ライアンは、女性は「擁護され、尊敬される」べきだと主張した。マイク・ペンスは「夫として、そして父として」トランプの発言は弁護できないと言明し、ミッチ・マコーネルは自身が「3人の娘の父親」であることに言及した。


こうした声明に対しては、自分の身近に女性がいようともいなくともトランプの発言の不適切さは感じられるべきだとの批判も上がっている。この批判は、客観的にみればもっともなものだ。

だが実際には、共和党幹部らは今回の映像公開によってようやく、これまでイスラム教徒や有色人種、移民、女性一般が感じてきたトランプ拒絶の感情を共有することができた。彼らは、自分の身内を脅かすトランプという存在から内集団を守ること、そして自分たちの優位性と「勝ち組」としての地位を守る必要性を、初めて感じたのだ。

Emily Willingham