音楽系スタートアップ企業の動向をチェックしている人なら、Qrates(クレイツ)と聞けばピンとくるだろう。クレイツはメディアの注目を浴び、英国のアビー・ロード・スタジオが設立したインキュベーション機関「アビー・ロード・レッド」にも選ばれた。

アナログレコードのプレス製造から販売まで、レコードビジネスに関わる様々な工程をワンストップで提供するのがクレイツのサービス。ファンからの事前予約を受け付けるクラウドファンディングのプラットフォームも用意。

製造は100枚から受け付け、デザインを発想するためのツールや売上をシミュレートできる機能も装備。アーティスト本人が総合的にビジネスをコントロールできる。

10月17日からサンフランシスコで開催のSFミュージック・テック・サミット(SF MusicTech Summit)でプレゼンを行う同社の未来について、同社の福山泰史CMO(最高マーケティング責任者)に話を聞いた。

──クレイツが海外のプログラムに参加することの意義は。

福山:本社が東京にあり、英国やアメリカには拠点が無いため、サービスを知ってもらうために大切なチャンスだと考えている。厳しい資金繰りのなか米英での成長を目指すスタートアップとして、限られたリソースで最大限の効果を得ようとしている。

──なぜクレイツは業界の注目を得ているのか。

福山:レコードの人気が上がってきていることはよく知られている。レコードはストリーミングとは違いすべてのミュージシャンにとって公平に利益を得られる媒体で、ファンたちにユニークな体験を提供できる。我々は音楽ビジネスの中でもクラウドファンディングやファンと直接かかわり合う分野に位置しており、オンデマンドのレコード生産のイノベーションに関するより広い視野も持っている。

──海外のコンペティションやアクセラレータープログラムへの参加で得られるものは。

福山:SFミュージック・テック・サミットへの参加は、ベイエリアのテックシーンに入り込むのに効果的な手段だ。現地に拠点を置くプラットフォームや投資家、起業家たちとダイレクトに関係を築くことを期待している。

──これまでの経験を通じて学んだことは。

福山:プログラムに選ばれたり参加したりするというニュースは音楽テックコミュニティーでは広まるが、ニュース自体が企業の成長を加速させると考えるのは甘い。プログラムに参加して結果を出すためには積極的に戦略を推し進める必要がある。


──音楽に特化したスタートアップとして最も厳しかったことは?

福山:まず音楽業界は排他的であること。業界に溶け込み知名度を上げるには戦略が必要だ。コンテンツ・オーナーとの関係の構築には、ふさわしい人物をどれだけ知っているかによって時間のかかり方が違う。次に音楽テックの観点からみると、幸運なことにストリーミングサービスとは違って我々にはライセンシングの問題が発生しない。しかし、従来のレコードの発注・生産・発送のビジネスモデルと衝突しかねないとは考えている。出資者を探すことはどんな分野のスタートアップにとってもすでに難しい状況になっているが、音楽スタートアップにとってはより厳しいと感じる。

──メディアに取り上げられることにより、ビジネスは追い風を受けているか。

福山:大手メディアに取り上げられるたびに、我々がうまく発信できているかどうかを見ることができている。vinylize.it(サウンドクラウド上の楽曲をレコード化するプロジェクト)に関しては多数のフィードバックがあった。強調しておきたいのが、我々はアーティストの同意なしに何かを進めることはないという点だ。

──ここ1年ほどでどれぐらいビジネスは成長したか。

福山:クレイツでは世界各国のアーティストによるおよそ2,000のプロジェクトが実施された。我々の3大マーケットは売上の多い順にアメリカ、イギリス、日本だ。

我々はプロジェクト・オーナーが自らのキャンペーンを成功させられるように支援するにあたり、アーティストがクレイツでキャンペーンを始める前にvinylize.itでレコードの需要を高められるようにした。これはオンデマンドのレコード生産に関する長期的なビジョンの一環だ。

──クレイツの次の一手は。

福山:コンテンツ・オーナーと密接に連携して既存のプロダクトを改善していくこと。さらにオンデマンドのレコード生産の未来に関するビジョンを推し進め、デジタル版と同時にアナログをオンデマンドで用意できるようなツールを開発している。存在しているすべての録音のデジタル版にオンデマンドでアクセスできる世界を実現できるのであれば、レコードでも同じことができるはずだと思っている。

Hugh McIntyre