”フェラーリ”と聞いて、なにやら特別な響きを感じる人がほとんどだろう。

例え、クルマ好きでなくても、スーパー・スポーツカー・メーカーだと知っているはずだし、普通の人が乗りこなすことなどできないと思っている人も少なくないだろう。実際、”特別”なのは真実だ。

そのなかでも、さらに特別なフェラーリが日本に届いた。東京・港区にある国立新美術館というエクスクルーシブな場所で発表されたのは、わずか10台のみという限られた数だけが生産される「Ferrari J50」である。車名の由来は、フェラーリが日本に正規輸入されて50年が経つことを記念したという、いたってシンプルなものだ。

これまでにも、数々のフェラーリの名作を世に送り出した鬼才のデザイナー、セルジオ・ピニンファリーナへの追悼の意を込めた「セルジオ」や、アメリカへの進出を記念した「F60アメリカ」といった記念モデルがあったが、今回、日本市場に限って発売するのは初めてだ。

Fuori Serieと呼ばれる限定モデルは通常250〜300万ユーロのプライスタグを掲げるが、生産台数の限られるフェラーリの価値を知る人なら、その値付けにも頷けるはずだ。実際、発表時にすでに完売していたほどだ。

「488スパイダー」をベースに、過去の名車である「308GTS」からインスピレーションを得たというスタイリングが与えられており、ルーフにはカーボン複合材製のデタッチャブルトップをオン。+20psの690psまでスープアップを施した3.9リッターV8エンジンをミッドに搭載する。エンジン・フードをポリカーボネート製のスケルトンとすることにより、極上の心臓部を目で楽しむこともできる。

この記念すべきモデルの発表にあわせて来日したのが、コマーシャル&マーケティング部門 シニア・バイスプレジデント を務めるエンリコ・ガリエラ氏だ。アジア・パシフィックのマーケットに精通しており、日本のフェラーリ・オーナーとも親交が深い彼に、まずフェラーリを買うことの意味を訊ねた。

「美しくもあり、アートのようでもある、それがフェラーリです。たとえば、ポテンシャル・カスタマーに対してクルマを積極的に販売するというように、われわれはむやみに販売台数を追いません。それよりも、フェラーリの魂に共感し、高性能のスーパー・スポーツカーの運転を楽しめる、そんな方たちとフェラーリというブランドがつながることを重要と考えています」

『なぜ、フェラーリが特別か?』という疑問が湧くだろう。誰もがフェラーリの名を知っているというのに、積極的に販売しないという特殊なポジションをとっていることはわかったが、その由来にはこのブランドが放つ強烈な個性の源が必ずあるはずだ。

「伝統、レースにおける長い歴史があります。フェラーリを好む、あるいは夢見る人たちがいて、情熱を持って行動を起こすこと、それが最も重視する点です。

創業者のエンツォ・フェラーリは、元々、レーシングカーの政策とレースの活動のために公道で走れるスーパー・スポーツカーを製品化しました。世界最高峰のF1で戦うために、ハイパフォーマンスのロードゴーイングカーを作るという戦略は、今もフェラーリに連綿と受け継がれています。

限定モデルに関しては、そうしたモデルにアクセスしていただける方々の長いリストがあり、例え、著名人であってもお待ちいただくことがあります」

フェラーリを手に入れることは、すなわち、フェラーリ・ファミリーの一員になることを意味する。そのなかでも、発売前のフェラーリを目にすることができる人は、ほんの一握りだ。フェラーリでは生まれたばかりの赤ちゃんを親戚に披露するかのように、スペチアーレと呼ばれる限定モデルに関しても、最初に親しいファミリーから目にすることになっている。

「フェラーリでは、決して、顧客をクラスタで分けたりしません。私たちにとっては、ひとりひとりが、個別の顧客だからです。それゆえ、パーソナリゼーション、テーラーメイドといったプログラムを設けて、一台一台のクルマを個性あるフェラーリに仕上げています。その究極の形が、スペチアーレといえます。スペチアーレにおいては発表の1年前に顧客を本拠地マラネロに招き、ご覧いただいています」

すでに発表されたスペチアーレが完売となると、気になるのは次は何か?だろう。

「創立70周年にあわせて、フェラーリの歴代オープンカー最強モデル「ラ フェラーリ アペルタ」を209台の限定で発表しています。秋のパリサロンで発表したこともあって、2017年に手元に届くのを待ち望む人たちの長いリストがあります。もちろん、こちらも発表時には完売しています。スペチアーレの発表予定はありませんが、9月にマラネロでイベントを企画しています。

また、歴代フェラーリで最も価値の高い歴史的なスペチアーレ、「250GTO」の55周年でもあります。顧客がマラネロに集まり、数日間を過ごす計画を立てています。オークションなどでは5,000万ユーロで落札されることもあるため、並んだ状態では”ビリオン”の価値になると想定して、保険の準備をしています(笑)」

最後に、SUVの可能性を訊いてみた。近年、どのスーパー・スポーツカー・メーカーも、SUVの分野に乗り出しているからだ。

「非常にクリアな答えがあります。スポーツSUVを作ることはできても、それは決して、ピュアなスポーツカーではありません。アップライトに座り、2トン級のボディ重量を持つと想定すると、サーキットをスポーティに走るものではないでしょう。私たちは、エモーションを提供するために、ハイパフォーマンスのスポーツカーを生産しているのであって、その確固たるポリシーに変化はありません」

ガリエラ氏いわく、「フェラーリは日々をスペシャルにする」という。特別なクルマで日常から逃げるのではなく、フェラーリを手に入れることで、毎日がみずみずしく、特別な日になるのであれば、その価値は非常に高いと感じられるだろう。

青山 鼓