マイナス心理のしっくりこないこの感じ――フィナンシャル・タイムズ
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(フィナンシャル・タイムズ 2007年1月25日初出 翻訳gooニュース) FT投資デスク ジョン・オーサーズ
なぜ市場がいま動いたのか、市場担当の記者が説明できないとき、便利な言い逃れがひとつある。市場心理のせいにする、というやつだ。
短期的には、買いだとか売りだとかの判断をするのは人間だ。「行動ファイナンス理論」という新しい研究分野で証拠がどんどん積み上がっているように、「常識」のもつ直観力というのは本物のようだ。投資においても、人は往々にして、合理的に判断を下しているのではなく、心理や直感に頼って決めているのだ。
ということは、市場心理の変化を察知できるようになれば、市場の変化も察知できるというわけだ。しかし、本質的に計測不可能なものをどうやって測ったらいいのか。
今年に入って、市場心理ははっきりと急激に悲観的になった。それが世界中の株式市場で売り相場を作り、米国債や金などの逃避買いがさかんになった。
投資家たちは数週間前よりも、米経済が不況に陥りつつあるのではないかと心配している。そしてそんなことになれば、世界のいろいろなところで影響が出るのではないかと。この投資家心理の潮目の変化を、どうやったら事前に予測できたのだろう?
ひとつのやり方はまず、新聞を読むことだ。英国でも米国でも、最近の研究者は市場心理を測る道具として新聞を使っている。
米国の著名経済コンサルタントが発行する「リシオ・リポート(TLR)」は、心配レベルを測る方法として、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストに「不況」「不景気」という言葉がどれだけ登場するかをウォッチしている。これは従来、きわめて有効な指標だった。TLRは新聞両紙が「不況」に言及する平均回数の基準値を「100」に設定しているが、最近の平均回数は一気に「200」まで跳ね上がったそうだ。これは前回の不況直前よりも、多いのだという。
ロンドンのアブソルート・ストラテジー・リサーチ(ASR)はさらに精緻な調査を実施して、同じような結果を得ている。前向きな内容と後ろ向きな内容の記事の差を探して、いくつかポイントとなるフレーズを探すというやり方で、同社は現在のニュースの論調は2001年と同じくらいに後ろ向きだと判断する。現在の論調を測るのにさらに参考になるのは1998年。このときは市場不安による不況の危険があったものの、実際には不況は回避された。そしてこの時よりも現在の方が、報道の論調はネガティブだというのだ。
ASRによるポジティブ記事とネガティブ記事の対比、そして株式や債券のパフォーマンスは、同調しすぎていて怖いくらいだ。
私もお粗末ながら同じように記事の比較をしみてみた。ニュース検索サービス「FACTIVA」のデータベースを使って。対象は、市場で働く人たちの心理状態に最も端的に影響を受ける経済紙2紙、フィナンシャル・タイムズと米国の敬愛なるライバル紙ウォールストリート・ジャーナルに限定した。
結果は、劇的なものだった。1月23日までの1週間にわがFTは「recession (不況、景気後退、不景気)」という単語を含む記事を実に174本も発表していた。WSJは118本だった。
一方で昨年同期を調べると、「recession」を含んだFT記事はわずか7本。WSJに至っては1本もなかった。昨年のこの時期にも、米住宅市場の破綻が不景気を呼び込むと懸念していた、悲観論者はいくらでもいた。にもかかわらず、去年と今をこうして比べると、市場心理は今のほうがはるかに悲観的だというのが一目瞭然だ。
こういう手法が、あまりにいい加減で古臭いものだと思うなら、安心していい。ヘッジファンドはもっとハイテクなツールを使っているから。ヘッジファンド10社は昨年、ブログから規制申請にいたるまで4000万ものネット上リソースを検索できるようになるシステムを試していると発表していたので。
要するに、市場心理を測ろうというのが発想だ。たとえば新製品の発表を控えた企業があって、発表の1週間前からすでにウエブ上で何千ものエントリーがあるのなら、それはその企業が事前に「バズ」を掻き立てていることの表れになる。
米フィナンシャル・アナリスト・ジャーナル(FAJ)が昨年発表した研究報告も、これを部分的に裏付ける内容だった。
FAJが複数の企業について、どう報道されているかを調べたところ、雑誌表紙に好意的な記事の見出しが躍った瞬間にその企業の株を売るべきだというのは、特に裏づけられなかったという。しかし逆に、雑誌にネガティブな記事が載るころには、その後ろにある投資家心理はすでに市場に反映済みなので、ネガティブ記事の掲載はその会社の株の「売り持ち」を止めてもいいという合図にはなるという。
反発が間近だという合図ではないが、最悪の情報はもう表に出切ったという合図にはなるという。
感情や直感で反応するのではなく、事態を合理的に判断するとなると、どういう結論が出るだろう? 米国が不況に向かっていると示す証拠は、ここ数週間の間にますます積み上がってきた。ネガティブなマクロ指標がなかったとしても、米企業から出てくるひどい決算報告や信用収縮につながるだろう金融業界の損失、企業幹部からの弱気発言がこれだけあれば、悲観的な見方はやむを得ないように思える。
しかし米国が不況に陥るおそれはまだ100%とは言えない。雇用は増えているようだし、企業景況感や消費者マインドは曖昧だ。
米経済への様々な刺激策はどれも、効果が出るにしても時間がかかるものだけに、不況が始まったとしても不況の悪影響を緩和することも、あるかもしれない。1月半ばの市場の乱高下は、後ろ向きな市場心理は行き過ぎていたという正しい見方の表れでもあった。
とすると翻れば、市場心理はまったく予断を許さないものだということになる。市場はこれからも今しばらくは、新しいデータが出てくることに過剰に反応することだろう。
なぜ市場がいま動いたのか、市場担当の記者が説明できないとき、便利な言い逃れがひとつある。市場心理のせいにする、というやつだ。
短期的には、買いだとか売りだとかの判断をするのは人間だ。「行動ファイナンス理論」という新しい研究分野で証拠がどんどん積み上がっているように、「常識」のもつ直観力というのは本物のようだ。投資においても、人は往々にして、合理的に判断を下しているのではなく、心理や直感に頼って決めているのだ。
ということは、市場心理の変化を察知できるようになれば、市場の変化も察知できるというわけだ。しかし、本質的に計測不可能なものをどうやって測ったらいいのか。
今年に入って、市場心理ははっきりと急激に悲観的になった。それが世界中の株式市場で売り相場を作り、米国債や金などの逃避買いがさかんになった。
投資家たちは数週間前よりも、米経済が不況に陥りつつあるのではないかと心配している。そしてそんなことになれば、世界のいろいろなところで影響が出るのではないかと。この投資家心理の潮目の変化を、どうやったら事前に予測できたのだろう?
ひとつのやり方はまず、新聞を読むことだ。英国でも米国でも、最近の研究者は市場心理を測る道具として新聞を使っている。
米国の著名経済コンサルタントが発行する「リシオ・リポート(TLR)」は、心配レベルを測る方法として、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストに「不況」「不景気」という言葉がどれだけ登場するかをウォッチしている。これは従来、きわめて有効な指標だった。TLRは新聞両紙が「不況」に言及する平均回数の基準値を「100」に設定しているが、最近の平均回数は一気に「200」まで跳ね上がったそうだ。これは前回の不況直前よりも、多いのだという。
ロンドンのアブソルート・ストラテジー・リサーチ(ASR)はさらに精緻な調査を実施して、同じような結果を得ている。前向きな内容と後ろ向きな内容の記事の差を探して、いくつかポイントとなるフレーズを探すというやり方で、同社は現在のニュースの論調は2001年と同じくらいに後ろ向きだと判断する。現在の論調を測るのにさらに参考になるのは1998年。このときは市場不安による不況の危険があったものの、実際には不況は回避された。そしてこの時よりも現在の方が、報道の論調はネガティブだというのだ。
ASRによるポジティブ記事とネガティブ記事の対比、そして株式や債券のパフォーマンスは、同調しすぎていて怖いくらいだ。
私もお粗末ながら同じように記事の比較をしみてみた。ニュース検索サービス「FACTIVA」のデータベースを使って。対象は、市場で働く人たちの心理状態に最も端的に影響を受ける経済紙2紙、フィナンシャル・タイムズと米国の敬愛なるライバル紙ウォールストリート・ジャーナルに限定した。
結果は、劇的なものだった。1月23日までの1週間にわがFTは「recession (不況、景気後退、不景気)」という単語を含む記事を実に174本も発表していた。WSJは118本だった。
一方で昨年同期を調べると、「recession」を含んだFT記事はわずか7本。WSJに至っては1本もなかった。昨年のこの時期にも、米住宅市場の破綻が不景気を呼び込むと懸念していた、悲観論者はいくらでもいた。にもかかわらず、去年と今をこうして比べると、市場心理は今のほうがはるかに悲観的だというのが一目瞭然だ。
こういう手法が、あまりにいい加減で古臭いものだと思うなら、安心していい。ヘッジファンドはもっとハイテクなツールを使っているから。ヘッジファンド10社は昨年、ブログから規制申請にいたるまで4000万ものネット上リソースを検索できるようになるシステムを試していると発表していたので。
要するに、市場心理を測ろうというのが発想だ。たとえば新製品の発表を控えた企業があって、発表の1週間前からすでにウエブ上で何千ものエントリーがあるのなら、それはその企業が事前に「バズ」を掻き立てていることの表れになる。
米フィナンシャル・アナリスト・ジャーナル(FAJ)が昨年発表した研究報告も、これを部分的に裏付ける内容だった。
FAJが複数の企業について、どう報道されているかを調べたところ、雑誌表紙に好意的な記事の見出しが躍った瞬間にその企業の株を売るべきだというのは、特に裏づけられなかったという。しかし逆に、雑誌にネガティブな記事が載るころには、その後ろにある投資家心理はすでに市場に反映済みなので、ネガティブ記事の掲載はその会社の株の「売り持ち」を止めてもいいという合図にはなるという。
反発が間近だという合図ではないが、最悪の情報はもう表に出切ったという合図にはなるという。
感情や直感で反応するのではなく、事態を合理的に判断するとなると、どういう結論が出るだろう? 米国が不況に向かっていると示す証拠は、ここ数週間の間にますます積み上がってきた。ネガティブなマクロ指標がなかったとしても、米企業から出てくるひどい決算報告や信用収縮につながるだろう金融業界の損失、企業幹部からの弱気発言がこれだけあれば、悲観的な見方はやむを得ないように思える。
しかし米国が不況に陥るおそれはまだ100%とは言えない。雇用は増えているようだし、企業景況感や消費者マインドは曖昧だ。
米経済への様々な刺激策はどれも、効果が出るにしても時間がかかるものだけに、不況が始まったとしても不況の悪影響を緩和することも、あるかもしれない。1月半ばの市場の乱高下は、後ろ向きな市場心理は行き過ぎていたという正しい見方の表れでもあった。
とすると翻れば、市場心理はまったく予断を許さないものだということになる。市場はこれからも今しばらくは、新しいデータが出てくることに過剰に反応することだろう。
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