日本は硬直的かもしれない しかし非効率ではない――フィナンシャル・タイムズ

フィナンシャル・タイムズ2008年4月30日(水)10:36
デビッド・ピリングの記事
「出島」思考にとらわれる日本

日中関係の「毒性」やわらぐ

全く東京的ではないあらゆるものが それこそが大阪の魅力

福田首相に聞く 解散時期は、テロ支援国家は 一問一答

日本の新首相、国と党の進む道を見据える

日本経済と小泉神話

福田氏、自民党に警告する

変わらなければ日本は取り残されると福田氏は

総理がいなくてもやっていける日本

党の魂をめぐる戦い 自民党総裁選

安倍政権1年、ひどい1年は辞任で幕

日本の政局、膠着状態に直面

日本は絶対に原子力を手放さない

FTと昼食を 安倍昭恵さんとランチ

G8で2位の自殺率 助けを求める声に日本政府も

それでも昔の日本には戻れない それはなぜ

日本の軍隊、役割拡大に備える

FTと昼食を 「国家の品格」藤原正彦さんと

安倍首相、日本の国際的地位確立を目指す─フィナンシャル・タイムズ単独インタビュー

・日本にまだ潜むデフレの危険

小泉の跡継ぎ 人気が隠すよろいのヒビ

・陽も息子もまた昇る 長州から安保そして安倍家二代

・日本の主要な政策決定者が辞任表明

・「危険」な愛国主義の波が日
(フィナンシャル・タイムズ 2008年4月23日初出 翻訳gooニュース) FT東京支局長デビッド・ピリング

特に見下されているのが、赤く輝くダース・ベイダー風ライトセイバーだ。日本では、道路工事など工事現場で、警備員が赤い誘導灯を振っている。建築会社が雇い、歩行者や車両が危険な目に遭わないように誘導しているのだ。あまりになくてはならない大事な存在なので、時にはプラスチックの人形が代わりを務めることもあるほどだ。

ほかにはたとえば、エレベーター・ガールの存在もそうだ。人形のような身振り手振りでエレベーターのボタンを押す彼女たち。あるいは2人1組で働く店員たち。さらにあるいは、あまりに手持ち無沙汰すぎるのか、トイレやシガーバーの入り口までわざわざゲストを連れて行ってくれるホテル・スタッフ。

日本のサービス部門がいかに欠陥だらけかを示す証拠として、どれもよく引き合いに出される例だ。日本の製造業は世界トップクラスと常に称賛されているが、国内総生産の7割を占めるサービス産業については、常に欧米と比較しては批判されっぱなしだ。米国はおろか、古臭い欧州でさえかなりの効率性を実現したのに比べると、日本のサービス産業は非効率そのものだ、とよく言われる。

経済協力開発機構(OECD)が日本について4月発表した最新の政策勧告も、同じような論調だ。いわく、現役世代が高齢化し減少するに伴い、「サービス部門の生産性を向上させることが、長期的成長を促進させるための最優先事項だ」と。同報告書によると、日本の製造業の1時間ごとの労働生産性は1999年〜2004年の間に毎年4%ずつ改善し、米国と同レベルだったものの、サービス部門の生産性向上率は0.9%に留まり、米国に大きく遅れをとったのだという。

しかしこうした分析には問題がある。たとえば日本の運輸システムは米国に比べて3割も効率性が悪いと結論するような以前のOECD政策勧告を読めば、何かが怪しいと感づくだろう。常識的に考えて両国を比べれば、旅客輸送システムは日本の方がはるかに優れていると分かるはずだ。日本では連日、何千万もの乗客が適正価格で移動している。たとえば東京〜大阪間の新幹線は連日約300本も運行していて、552キロの距離を2時間半で移動。そして遅延は通常、秒単位にとどまっている。

日本の医療制度もやはり、非効率的だと繰り返し批判されている。入院患者の入院期間が米国と比べてずっと長いからだというのだ。しかし政府統計によると、日本の医療費は国内総生産(GDP)の7.9%。対して米国では15.2%だ。(医療制度の品質を判断する基準として単純すぎるかもしれないが)日本の平均寿命は男性が79歳、女性が86歳。米国は男性が75歳、女性が80歳だ。

この分析手法は明らかにどこかが間違っている。そして一橋大学経済研究所の深尾京司教授も同じ意見だ。深尾教授の研究チームは、こうした国際比較で使われる日本に関するデータの大半を提供している。そしてその深尾教授が、サービス部門の効率を測るのに通常使っている指標(工数あたりの付加価値や、資本と労働のアウトプットも含めて測る全要素生産性)は、大雑把なもので、国境を超えた比較が難しいのだ。

深尾教授は、やはり効率が悪いといつも批判される日本の小売部門を例に挙げる。小売部門の生産性を測る基本的な指標は、従業員が1時間あたりどれだけの商品を販売できるかだ。この指標を使うと、ドイツの成績はとてもいい。これがなぜかというと、営業時間が短いからだ。店が開いている時間が限られているので、客はやむを得ず短時間でたくさんを買うことになる。一方でこの測り方をすると、日本は成績が良くない。巨大でガラガラな米国のスーパーが、狭くて小さい日本のラーメン店や豆腐屋よりずっと成績がよいということになる。加えて日本にはあらゆる街角に24時間営業の店舗が立ち並ぶ、非常に密度の濃いコンビニ・ネットワークが存在し、おかげで消費者はいつでも好きな時間に買い物ができる。よって購買量は時間単位で集中しないため、効率が悪いということになってしまう。

加えて、日本の小売店がほとんどの場合は徒歩圏内あるいは遠くても自転車圏内にあるという点も、プラス材料として評価されていない。使われている統計データでは、小売店にたどり着くための移動の不便や、遠くの店で買い物することに伴う要素(交通事故の危険性、公害、道路維持管理費)などを考慮に入れていない。

さらに複雑なことに、欧州委員会出資のプロジェクト「EU KLEMS」による生産性の国際比較では、もっと妙な結果が出てくる。日本の卸売部門、小売部門、流通部門の生産性について2007年3月に公表されたデータによると、1995年〜2004年にかけて労働生産性は年率0.5%しか上昇していない。一方で1年後に公表された同じ調査によると、1995年〜2005年の労働生産性は年率2.1%と好調で、欧州よりもかなり良かった。

だからといって、日本のサービス部門に問題がないわけではない。労働市場が硬直的なので、生産性の低い産業から生産性の高い産業へ労働力が移動するのが、欧米に比べて困難だ。たとえば、赤い誘導灯を振っている警備員たちは、人手不足が深刻な病院で看護師をやったほうがいいのではないだろうか? あるいは情報通信技術に関して言うなら、米国企業は新しいコンピューター・プログラムにあわせて仕事の仕方を変える。そして多くの場合、これに合わせて人員を削減する。しかしこれに対して日本企業は、既存の仕事慣習や従業員数に合わせたプログラムの開発を求めるのだ。

日本のサービスには高すぎるものもある。消費者よりも生産者を大切にする慣習は、誰の得にもならない。日本の港湾使用料が高いせいで、日本を中継していた船舶貨物はもっと安い中国の港を使うようになってしまった。空港の着陸料も高すぎるため、格安航空会社が日本で運航するのはほとんど不可能だ。またOECD加盟国中4位と高い電力料金も、日本のビジネスコストを押し上げている。

日本は生産者重視から消費者重視に振り子を戻すべきだ。そしてこれには競争育成と対日投資の促進、新規参入者への障壁撤廃などが必要だ。今よりも安いサービスが手に入るようになれば、内需拡大につながり、日本の輸出依存度を減らすことができるようになる。こうした指摘はどれも正しい。しかしそれと、生産性についての無意味な比較は、全く別の話だ。日本の運輸システムは効率が悪い、と誰かが言うのを聞いたら、米国の「アムトラック」を思い起こしてみるといい。


ソーシャルブックマークに追加: gooブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに追加 はてなブックマークに追加 Buzzurlに追加 livedoorクリップに追加 FC2ブックマークに追加 newsingに追加 イザ!に追加 deliciousに追加


フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(登録が必要な場合もあります)。

(翻訳・加藤祐子)

From the Financial Times © The Financial Times Limited [2012]. All Rights Reserved. Users may not copy, email, redistribute, modify, edit, abstract, archive or create derivative works of this article. NTT Resonant is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

最新のフィナンシャル・タイムズ翻訳記事

ブログCheck   

注目のトップニュース
天皇陛下、18日に冠動脈の手術へ
団結権侵害…労組が大阪市提訴へ
勝手な電力値上げ許さず…仙谷氏
警戒区域一時帰宅、久々の墓参り
警官に現金?サン紙幹部また逮捕
若者に増加…胸痛む逆流性食道炎
ホイットニーさん…事件性なし
武井咲が初手作りチョコ、相手は

東日本大震災におけるNTTグループの取り組み


gooニュースのおすすめ
BizFAX
インターネットFAXソリューション「BizFAX」 FAXの進化系!従来のFAXの悩みを解決し、仕事の効率も高める 「インターネットFAX」とは
ロイター銘柄レポート ・株式投資の初心者からプロ級の方までしっかりサポート
・上場全銘柄の最新詳細データを掲載
東日本大震災情報
東日本大震災情報 東日本大震災情報震災・原発事故、被災者の方への最新情報はこちらから
ニュース畑復興へ、あなたの提言をニュースを議論する場「ニュース畑」では、復興へ向けたさまざまな提言を募集します。
ピックアップ写真

すべてのメガピクチャーを見る

 
投票

注目の1月スタートドラマは?

  • 平清盛/松山ケンイチ
  • ラッキーセブン/松本潤
  • ストロベリーナイト/竹内結子
  • ハングリー!/向井理
  • ダーティ・ママ!/永作博美
  • 最後から二番目の恋/小泉今日子
  • 最高の人生の終り方/山下智久
  • 聖なる怪物たち/岡田将生
  • 恋愛ニート/仲間由紀恵
  • デカ黒川鈴木/板尾創路
  • 理想の息子/鈴木京香
  • 運命の人/本木雅弘
  • 早海さんと呼ばれる日/松下奈緒
  • ステップファザー・ステップ/上川隆也
  • 13歳のハローワーク/松岡昌宏
  • ティーンコート/剛力彩芽
  • 数学=女子学園/道重さゆみ
  • 白戸修の事件簿/千葉雄大
注目の経済ニュース
大王製紙、出向役員解任で対立も
外食自粛で?サントリー最高益
核燃容器審議「中立性に疑念」か
「もんじゅ」耐性評価に9億円
機能性ヨーグルト、品薄理由は
周波数変換所の増設、国が助成へ
キンドル、今春にも日本販売へ
掃除機購入 ロボットと2台持ちも
写真ギャラリー
写真ギャラリー
写真で見る経済
世界経済はいま、日本市場は?
おすすめ動画 - gooブロードバンドナビ
毎週水曜更新!大前研一ライブ大前研一が世界の1週間を動画で解説する人気番組
毎月更新 戦略家の心得新サービス、新規事業を立ち上げる時に求められる「戦略を構想する力」を学ぶ
「高速×安全×便利」でgooへのアクセスがさらに快適に
おすすめコンテンツ
gooのお知らせ
goo電子書籍特集ダウンロード不要の電子書籍サービス。立ち読み無料♪無料会員登録はこちらから
gooトップページ「アクエリオンEVOL」の声優さんらのサイン入りレアグッズが当たるキャンペーン実施中!
gooサンプリング特集謝礼や購入金額の100%キャッシュバックも!お買い物モニターで得しちゃおう♪
IE9.0goo版「Internet Explorer 9.0」「高速×安全×便利」でgooへのアクセスがさらに快適に
教えて!オフィスICTまるごと相談事業所のお客様のICTに関するお困りごとについて、お気軽にご相談ください
gooニュースサービス説明