女王陛下、それは良いご質問です なぜ誰も金融危機に気づかなかったのか――フィナンシャル・タイムズ

フィナンシャル・タイムズ2008年11月17日(月)17:33
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手軽な住宅ローン騒動でアメリカ混乱 (2007年3月15日
(フィナンシャル・タイムズ 2008年11月14日初出 翻訳gooニュース) FT国際貿易デスク、アラン・ベイティー

親愛なる女王陛下、

昨今の世情は金融危機なるもので揺れていると、バッキンガム宮殿の中でもついにお聞き及びでいらっしゃいますか(悪いことばかりお知らせして恐縮ですが、実は大英帝国もとうに失われているのです)。

少なくとも私どもはそう伺っています。金融危機の知らせが陛下のお耳にも届いたと報道されていますので。それによりますと陛下は何でも、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のルイス・ガリカノ教授に面と向かってこうご質問されたとか。「そんなに大きなことだというなら、なぜみんな気づかなかったのですか」と。

まっとうなご質問だと思います。そしてどうやら陛下は、毎週のように陛下をお訪ねして、世の中の動きについてご説明申し上げるはずのあの男から、満足のいく返答を得られずにいるご様子。「あの男」とここで申し上げるのは、あの口調なめらかで人当たりのいい好男子のことではございません。彼はもうだいぶ前にいなくなりました。今の男はまるで市民集会で演説しているみたいな口ぶりで陛下に話しかける、いつも不機嫌そうなスコットランド男です。

その者がこれまで陛下に満足な答えを差し上げていなかったとしても、それはそうだろうと思われます。あのむっつり不機嫌な男はこれまで必死になって、責任逃れをしておりましたので。今回の危機はそもそもニューヨークで発生したものがいきなり突然ヨーロッパに飛び火したのだと、そういう見た目を演出しようとして忙しかったのです。まるで歴史の流れに逆らおうとして戸惑う、方向感覚の狂った渡り鳥のようなものです。

恐れながら陛下、こうした言い分に対しては、疑いのまなざしを(礼儀正しく)お向けになることが得策かと存じます。実を申しませば実際には、多くの国で大勢の者が一斉に、同じ間違いをしたのです。陛下がLSEの者からお聞きになった解説は、要点をなかなか上手にまとめたものでした。「すべての段階で、誰かが別の誰かを頼りにして、そして誰もが自分のやっていることは正しいと信じていたのです」と、ガリカノ教授は陛下にお答えしたそうですね。

この説明は、少なくとも半分は正しゅうございます。マイホームを買おうとした人たちは、誰かが金を貸してくれる限りは大丈夫だと考えておりました。住宅ローン会社は、誰かがローンを取りまとめて斬新な金融デリバティブ商品に変身させて(これを説明しようとすると長くなります、陛下)、それを商品として売れるなら、それで大丈夫だと思っておりました。さらに金融機関は、信用格付け機関がこうしたデリバティブ商品に「適格」マークを押してくれる以上、すべてはうまくいくだろうと当て推量していたのです(とは言え、格付け機関がいったいぜんたい何を考えていたのか、とうてい想像もできかねますが。連中はどうやら、競合他社がこうした資産を「OK」と評価しているのだから、自分たちもそうしなくてはと思い込んでいたようで)。

そしてさらに規制当局について申しますなら、陛下、彼らは要するに本当のことは何も分かってなかったし、分かろうともしていなかったのです。大英帝国に歯向かったかつての植民地に、ウォーレン・バフェットなる者がおります。この者は投資家としてそれなりに知られた男でございまして、このように荒唐無稽なデリバティブ商品を「大量破壊兵器」と呼んでいたのでございます。

(こうした大量破壊兵器がロンドン第二の金融街のドックランズや、金融街シティに甚大な被害をもたらしたわけですが、私の大先輩たちの中には陛下のご母堂様がその昔、やはり空襲で被災したドックランズを視察なさり、住民を激励された時のことをおぼろげに覚えている者もおります。けれども今回の大被害につきまして、陛下は母上様の真似はなさらない方がよろしいかと存じます。昔の大空襲では被害のほどははっきりしておりました。目で見て分かるものでした。今回と違い、誰が被害者で誰が加害者かもはっきりしておりましたし、「爆撃のショックで呆然として」という表現は当時は比喩ではありませんでした。対して、今回の危機で金融街の住民たちが「爆撃されたみたいにショックで呆然と」しているというのは、これは比喩なのでございます)

けれども「大量破壊兵器」という比喩は、バフェット氏の想定をあるいは超えて、いまの実情にぴったりとふさわしいものでございます。デリバティブについて、その備蓄量がいったいどれだけになるのか、誰が保有しているのか、具体的にどういう形状なのか、誰も実際には知らなかったのですから。

またデリバティブの実際の価値がどれくらいなのかも、誰もよく分かっていなかったのです。イラク戦争の比喩をさらに使い続けますなら、賢明なエコノミストたちは(ラムズフェルド前米国防長官が言うところの)「知らないと知られている、知らないもの(known unknown)」としてデリバティブを扱いました。賢明なエコノミストたちは、自分たちがデリバティブについて実はよく分かっていないということを、自覚していたのです。

しかし、分かっていなくてはならなかった政治家や規制当局者たちはどうやら、分かろうとしていなかったか、あるいは分かろうとする姿勢が不足していました。なので彼ら政治家や規制当局の担当者たちは今になって、デリバティブの問題は「そもそも存在すら知られていなかった、知らないもの(unknown unknown)」だったという、フリをしております。つまり、連中の言うことを信じてはなりません。

そんないい加減なことで、どうして政治家や規制当局者はやっていられたのか? ひとつには、いつも都合よく「心配ありません。大丈夫です」と言ってくれる御用学者ならぬ御用エコノミストが常に都合よくそばにいたからです。エコノミストたるもの本来は(社会科学の分野における)科学者であるべき存在です。なのにそうやって科学者たるべき者を、宮廷お抱えの魔術師のように扱いはじめると、危険なことになって参ります。つまり、彼らの言葉の中から自分に都合のいいことばかり選り好みして聞いているのは、危ないということです。

さらに危機が進展する中で、節目節目はございましたが、政治家が下手に実体を調べたりしないほうが身のためだという、そういう風潮もありました。たとえば陛下の愛する政府の立場になって、考えていただきとうございます。労働党が1997年に政権に着く以前は、保守党政権の下で実に18年も万年野党という荒野をさまよっていました。その間、かれらはずっと、利益を出すことを憎む旧弊な労働者の集団だとからかわれていました。彼らが前回、政権を握ったのは1974〜1979年のこと。投資家たちはストにあけくれ、国際通貨基金(IMF)から借金しろと政府に迫るありさまでした。

それから18年ぶりに労働党政権となった時、陛下のもとを訪れたのはあの人当たりのいい口達者な男でした。陛下があの者に組閣を要請され、あの者がそれを快諾した時、経済は実に好調でございました。住宅価格はうなぎのぼり。国民は前よりも金持ちになったような気になり、進んで借金をしておりました(神よ、われらが慈悲深い女王を救いたまえ。陛下、残念ながらあなたの臣下たちは借金がことのほか大得意なのです)。銀行はどんどん雇用を作り出していました。経済を助け、選挙も助けてくれる、つまり政府にとってまたとない金の卵が次々と生まれておりました。その金の卵を次々と生んでくれる金のガチョウに、誰が手出しできたでしょう。それほど勇気のある閣僚はいたでしょうか。ましてやその金のガチョウをがっちり守っていた財相というお守り役は、巨大な拳と剛腕を誇るあの男、つかみあいの内部闘争にかけては天賦の才能に恵まれた、あのむっつり不機嫌なスコットランド男だったのですから。

そして当の金融機関はそもそも、想定されるあらゆる不測の事態に備えて適切な保険をかけておかなくてはならなかった。けれども連中はそうしていなかった。なのでおかげで納税者が、その費用を負担するはめになったのです(どこかで似たようなことをお聞きになった覚えが、陛下にもおありでは? ウィンザー城とか火事とか、そのようなことで?)。

つまりはこういうことなのです。なぜ誰も、危機がやってくると気づかなかったのか。いえ、陛下。気づいた人も、いるにはいたのです。一部の人は、気づいていたのです。けれども、だからといって世間がその警告を聞き入れたかというと、それはまた別の話だったのです。それに歴史を振り返りましても、権力者が国民への責任を負わないまま巨額の借金を積み上げた挙げ句、最後には首を切られるという事例は過去に数多あります。

せめて今回のこれは、ピューリタン革命のような内戦などなくして、なんとか切り抜けたいものでございますね、陛下。

敬具、
アラン・ベイティ

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(翻訳・加藤祐子)

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