なぜまだ円に避難するのか――フィナンシャル・タイムズ
(フィナンシャル・タイムズ 2009年1月23日初出 翻訳gooニュース) 東京=リンゼー・ウィップ、ロンドン=ピーター・ガーナム、香港=デビッド・ピリング
最近では経済がどんなに弱くても、通貨は強いままでいられる。本当だ。日本に聞いてみるといい。
1月の第3週、円相場は「何年来の」という大台をいくつも突破し、急騰した。対ドルでは13年半ぶりの円高となり、対ユーロでは7年ぶり、そして対ポンドでは史上最高値をつけた。
その一方で輸出依存型の日本経済は、世界的な景気後退に痛めつけられて苦しんでいることに変わりはない。日本銀行はこのほど日本経済の見通しについて、3月31日に終わる今年度と来年度にわたりマイナス成長を続けると予測しているのだ。
昨年12月の輸出額が最大の下落率を示し、多くの輸出企業が大幅赤字を予想するなど、日本の経済指標は急速に悪化している。にもかかわらず、日本の通貨はまったく値下げの兆しを見せていない。
世界市場が極端な不安感に覆われ、米国やユーロ圏や英国、あるいはその全部が景気後退に突入しているか景気後退に向かっているという状況にあって、円は安全な避難場所とみなされている。これが、円高の理由のひとつだ。
信用収縮の余波が金融システム全体に打撃を与えていることに、懸念が高まっている。このため欧州や米国の株価はまたしても続落。こういう状況が、円高に寄与しているのだとアナリストたちは言う。
UBS銀行外国為替部の東川宗照氏は、日本の銀行もサブプライムローンの損失で打撃を受けたが、欧米銀行が受けた打撃の巨大さには比べようもないと話す。
日本の銀行は不良債権も抱えていないし、サブプライムローンも抱えていない。だから円は安全な為替だとして選ばれているのだと東川は言う。
確かに、このところの円相場は株価と全く正反対の動きを見せている。昨年9月のリーマン破綻直後の円急騰と、よく似た動きだ。
さらに円高に寄与しているのは、金融危機がますます激しくなるに伴い世界中で行われているデレバレッジ(レバレッジ解消)だ。
リスク回避がさかんになるに伴い、海外投資家のキャリートレードのポジション解消が進んでいる(円キャリートレードは、超低金利の円を借りて、より高金利で高リスクな資産を運用するというもの)。
国内投資家によるデレバレッジも、やはり円相場の押し上げ要因となっている。日本はもうずっと超低金利を維持してきたので、国内の投資家もこれまでは、もっと利回りの良い外国資産を投資対象としてきた。
しかし国際的に資産市場が下落し、各国で中央銀行が金利を日本なみの超低金利に引き下げるに伴い、日本の民間投資家は急いで海外での投資を引き上げて、円建てのものに切り替えている。
実際、東京市場の時間内にこうした小口投資家によって行われる円対ドルや対ユーロの信用取引は、全体の10%以上にも相当すると言われ、いわゆる「デイトレーダー」の重要性を裏付けることになっている。
しかしこの円高は、日本の輸出産業を最悪のタイミングで襲っている。海外需要が停滞する中、円高によって日本製品の価格は上昇し、収益は目減り。そのせいで、トヨタ自動車が70年来初の赤字に転落するなど、世界中に衝撃が走っている。
ドルが21日、13年半ぶりの円高ドル安水準となる1ドル=87円10銭台まで急落した歳には、財務省による介入の可能性がさかんに取りざたされた。
中川昭一財務相は23日、記者団に対して、為替動向を注視しており必要があれば対応するつもりだと述べている。
トレーダーの多くは、為替変動が極端に不安定でなければ政府介入はせいぜいが発言によるものにとどまるだろうが、急激な乱高下や変動となれば具体的な措置をとるかもしれないと確信している。日本政府による為替介入は、5年前が最後だ。
三菱東京UFJ銀行のデレック・ハルペニー氏は、1ドル=85円を割り込んだら日本政府はドル買い介入をするだろうと見ている。
「特に円急騰によるデフレ圧力について当局の懸念が高まっているという、危険が強くなっているに違いない」
かつて世界中で「ミスター円」と呼ばれた元大蔵省財務官の榊原英資氏(現・早稲田大学客員教授)はフィナンシャル・タイムズに対して、介入もありうると話している。
榊原氏は、日本政府は米財務省の合意を得た上で3月末までに介入するだろうと言う。介入ラインは1ドル=85〜80円だという見解だ。
これには異論もある。
仏ソシエテ・ジェネラル銀行のアジア主任エコノミスト、グレン・マグアイア氏は「経済情勢は世界中であまりにも均等に、あまりにもひどい状態にある。そのため、大多数が合意していると思い込んで一方的に円安を招いて、ひとつの国をほかの国よりも優遇するべきではないと思う」と話す。
しかしアメリカの新政権は円高のペースを加速化させるかもしれないと指摘するアナリストもいる。
オバマ大統領が財務長官に指名しているティム・ガイトナー氏は22日、中国が自国通貨を「操作している」と批判し、新政権は中国政府に変化を求めるため「あらゆる外交手段」を活用するとの意向を書簡で明らかにした。
CMCマーケッツのアシュラフ・ライディ氏は、オバマ政権が中国政府に今まで以上に人民元切り上げを求めて行くとすると、ドル円レートは今後も安値を更新していくだろうと見ている。
「ドル円レートは『下落』から『値崩れ』に移ってしまうだろう」
フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(登録が必要な場合もあります)。
(翻訳・加藤祐子)
最近では経済がどんなに弱くても、通貨は強いままでいられる。本当だ。日本に聞いてみるといい。
1月の第3週、円相場は「何年来の」という大台をいくつも突破し、急騰した。対ドルでは13年半ぶりの円高となり、対ユーロでは7年ぶり、そして対ポンドでは史上最高値をつけた。
その一方で輸出依存型の日本経済は、世界的な景気後退に痛めつけられて苦しんでいることに変わりはない。日本銀行はこのほど日本経済の見通しについて、3月31日に終わる今年度と来年度にわたりマイナス成長を続けると予測しているのだ。
昨年12月の輸出額が最大の下落率を示し、多くの輸出企業が大幅赤字を予想するなど、日本の経済指標は急速に悪化している。にもかかわらず、日本の通貨はまったく値下げの兆しを見せていない。
世界市場が極端な不安感に覆われ、米国やユーロ圏や英国、あるいはその全部が景気後退に突入しているか景気後退に向かっているという状況にあって、円は安全な避難場所とみなされている。これが、円高の理由のひとつだ。
信用収縮の余波が金融システム全体に打撃を与えていることに、懸念が高まっている。このため欧州や米国の株価はまたしても続落。こういう状況が、円高に寄与しているのだとアナリストたちは言う。
UBS銀行外国為替部の東川宗照氏は、日本の銀行もサブプライムローンの損失で打撃を受けたが、欧米銀行が受けた打撃の巨大さには比べようもないと話す。
日本の銀行は不良債権も抱えていないし、サブプライムローンも抱えていない。だから円は安全な為替だとして選ばれているのだと東川は言う。
確かに、このところの円相場は株価と全く正反対の動きを見せている。昨年9月のリーマン破綻直後の円急騰と、よく似た動きだ。
さらに円高に寄与しているのは、金融危機がますます激しくなるに伴い世界中で行われているデレバレッジ(レバレッジ解消)だ。
リスク回避がさかんになるに伴い、海外投資家のキャリートレードのポジション解消が進んでいる(円キャリートレードは、超低金利の円を借りて、より高金利で高リスクな資産を運用するというもの)。
国内投資家によるデレバレッジも、やはり円相場の押し上げ要因となっている。日本はもうずっと超低金利を維持してきたので、国内の投資家もこれまでは、もっと利回りの良い外国資産を投資対象としてきた。
しかし国際的に資産市場が下落し、各国で中央銀行が金利を日本なみの超低金利に引き下げるに伴い、日本の民間投資家は急いで海外での投資を引き上げて、円建てのものに切り替えている。
実際、東京市場の時間内にこうした小口投資家によって行われる円対ドルや対ユーロの信用取引は、全体の10%以上にも相当すると言われ、いわゆる「デイトレーダー」の重要性を裏付けることになっている。
しかしこの円高は、日本の輸出産業を最悪のタイミングで襲っている。海外需要が停滞する中、円高によって日本製品の価格は上昇し、収益は目減り。そのせいで、トヨタ自動車が70年来初の赤字に転落するなど、世界中に衝撃が走っている。
ドルが21日、13年半ぶりの円高ドル安水準となる1ドル=87円10銭台まで急落した歳には、財務省による介入の可能性がさかんに取りざたされた。
中川昭一財務相は23日、記者団に対して、為替動向を注視しており必要があれば対応するつもりだと述べている。
トレーダーの多くは、為替変動が極端に不安定でなければ政府介入はせいぜいが発言によるものにとどまるだろうが、急激な乱高下や変動となれば具体的な措置をとるかもしれないと確信している。日本政府による為替介入は、5年前が最後だ。
三菱東京UFJ銀行のデレック・ハルペニー氏は、1ドル=85円を割り込んだら日本政府はドル買い介入をするだろうと見ている。
「特に円急騰によるデフレ圧力について当局の懸念が高まっているという、危険が強くなっているに違いない」
かつて世界中で「ミスター円」と呼ばれた元大蔵省財務官の榊原英資氏(現・早稲田大学客員教授)はフィナンシャル・タイムズに対して、介入もありうると話している。
榊原氏は、日本政府は米財務省の合意を得た上で3月末までに介入するだろうと言う。介入ラインは1ドル=85〜80円だという見解だ。
これには異論もある。
仏ソシエテ・ジェネラル銀行のアジア主任エコノミスト、グレン・マグアイア氏は「経済情勢は世界中であまりにも均等に、あまりにもひどい状態にある。そのため、大多数が合意していると思い込んで一方的に円安を招いて、ひとつの国をほかの国よりも優遇するべきではないと思う」と話す。
しかしアメリカの新政権は円高のペースを加速化させるかもしれないと指摘するアナリストもいる。
オバマ大統領が財務長官に指名しているティム・ガイトナー氏は22日、中国が自国通貨を「操作している」と批判し、新政権は中国政府に変化を求めるため「あらゆる外交手段」を活用するとの意向を書簡で明らかにした。
CMCマーケッツのアシュラフ・ライディ氏は、オバマ政権が中国政府に今まで以上に人民元切り上げを求めて行くとすると、ドル円レートは今後も安値を更新していくだろうと見ている。
「ドル円レートは『下落』から『値崩れ』に移ってしまうだろう」
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(翻訳・加藤祐子)
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