身勝手な働く母親として、身にしみる新たな罪の意識について――フィナンシャル・タイムズ

フィナンシャル・タイムズ2009年2月19日(木)08:00
ルーシー・ケラウェイとは
FTのビジネス経営担当コラムニスト。10年前から続く毎週月曜のコラムで、ビジネス界の流行や流行語をからかったり、オフィス・ライフの悲喜こもごもをクロースアップしたりと、独自の視点でつづってきた。

FT入社から約20年にわたり、エネルギー担当、ブリュッセル特派員、ビジネスコラム「Lex」などを担当したほか、「FTと昼食を」シリーズで多くのビ ジネスリーダーや著名人を取材してきた。金融経済記者としての受賞も多い。著書に「Sense and Nonsense in the Office」「Martin Lukes: Who Moved My Blackberry」など。

1959年ロンドン生まれ。オックスフォード大学卒業(専攻は政治・哲学・経済)。時評雑誌「プロスペクト」の創刊者・編集長デビッド・グッドハート氏との間に子供4人。

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(フィナンシャル・タイムズ 2009年2月9日初出 翻訳gooニュース)ルーシー・ケラウェイ

うちの息子が中学一年生のとき、学校で毎年恒例の表彰式に呼ばれたことがあるが、これはとても楽しいとは言い難い行事だった。90分間ひたすらエンドレスに、よそさまの子供を分け隔てなく拍手しまくらなくてはならないのだから。

その渦中にあって、気づいたことがあった。勉強に関する色々な賞をもらって表彰されているのは、ほとんどが中国系やインド系の子供たちで、パリッとした制服を着ていたし、そんな我が子が自慢でたまらない親たちは熱心に式典の様子をビデオ撮影していた。ユダヤ系の子供たちも何人かは賞をもらっていたけれども、WASPな白人の子供たちは(美術系の賞をちらほらもらっていた以外は)ほとんどが手ぶら。白人の少年たちはみんなして一様にヨレヨレのブレザーを着ていて、だらしない姿勢で、髪の毛もぼさぼさ長くて、のろのろと壇上に上がって、「文化的」な両親の怠惰な感じの拍手を浴びていた。

それからしばらくして、私はまた息子の学校に呼ばれた。その時の行事というのはもっと少数の選ばれた生徒とその保護者対象で。「招待客のみ」のそのイベントはつまり、「あなたの息子さんはいつも宿題を登校中に、バスの中で、学校に着くギリギリ5分前にやっつけ仕事で片付けていますね」と言われてしまう親や、「あなたの息子さんは平たく言えば実に手の焼ける厄介な生徒です」と言われてしまう親の集まりだったのだ。

この集まりに呼ばれたおかげで会社を早退する羽目になって、私も実に不愉快だった。そうして息子の学校に着いて、私は愕然としてしまった。そこに集まったほかの母親たちはみんな、異様なほど、私にそっくりだったから。ほとんど全員が白人で、キャリアをもつ中流家庭の女性たち。みんながみんな「私は仕事をわざわざ中断してまで、自分の子供に成り代わり担任教師にこてんぱんに叱られるためにこうしてやって参りました」という、なんだか追いつめられた表情をしていた。

その夜、私はひとつのことを学んだ(うちの息子がもっと、いやかなり、がんばらなくてはダメだと知ったのとは別にして)。それはつまりこのロンドン中心部にある、かなり少数精鋭の学校において、共働きの両親のいる裕福な家庭に育つ恵まれた白人少年たちは、新たな「下層階級」になりつつあるということ。けれども学校に呼ばれたこの時は、私はあまりそのことを気にしていなかった。だってアジア系の子供たちはうちの息子よりもずっと努力しているのだから、いい成績をとって高く評価されるのは当然だとその時は思った。文化の違いもあるかもね、とその時の私は気軽に思っていたのだ。アジア系の生徒の親たちは、私よりもはるかに教育熱心で、子供にがんばれがんばれと駆り立てているのだろうし。そしてその結果として、うちの息子のような子供が学校で賞をもらえず、時には「怠けている」と叱られるのだとしても、息子は全くもって幸せそうで楽しそうに日々を送っているので、別に大して構わないだろうと。そんな風に私は思っていた。

そう思うことで私はここ2年ほど心の平安を保っていたのだが、それが先週、いきなり乱暴にひっくりかえされてしまった。2月2日に英子供協会が発表した調査報告によると、英国に住む3万5000人から聞き取り調査した結果、私の息子のような境遇の子供たちは決して必ずしも幸せではないかもしれないというのだ。

この報告によると、英国の子供にとって最大のリスクは親の身勝手だという。英国の親たちは身勝手に、自分自身の成功を最優先して追及しているというのだ。今の大人が「個」の人格として自分の自己実現や満足を追及するあまり、今の子供たちは数世代前の子供に比べて、幸せではないというのだ。

この報告書は予想どおり先週、英国メディアを通じて大騒ぎを巻き起こした。社会的保守層は大喜びで大賛成。みんながみんな核家族で暮らし、女性はケーキを焼き、誰もが幸せそのものだった1950年代に時計を戻すべきだと。一方で社会的リベラルたちは激怒して、女性コラムニストたちは「子供たちは幸せだ」と(以前の私のように)力説。報告書をズタボロに批判し、説教臭いでたらめだと決めつけ、その中身に耳を閉ざした。

私だって同じくらい、この報告書の結論は嫌いだ。けれどもそうそう簡単に一蹴することもできない。普段だったら私は、働くお母さんたちを批判する内容のものは無視すると決めている。罪の意識は居心地が悪いし、無益だからだ。けれども今回の報告書が使っていたあるひとつの単語が、私の頭にこびりついて離れないのだ。その単語とは、「身勝手」。

奇妙と思われるかもしれないが、働くことが「身勝手」だなんて、私は考えたこともなかった。一生懸命に働くのは、お金をもうけるためでもあるし、自分を伸ばすためでもあるし、刺激的だから。つまり、悪いことではないはずだ。フィッシュ・フィンガー(細長い魚のフライ)を揚げるかわりにこっそりマニキュアに行くのはわがままで身勝手なことだが、パソコンを前にガリガリ働くのは決して身勝手などではない。

けれどもそこで私は、息子の学校の表彰式を思い出すのだ。賞をもらう我が子の姿をビデオで録画している、サリー姿のお母さんたちを。あのお母さんたちががんばるのは、自分自身の野心のためではなく、息子のためだ(親が子供にそういうプレッシャーをかけるのは、それはそれで問題を引き起こしそうだが、それはまた別の話だろう)。

それに比較して、学校からこてんぱんに叱られるために集められた、追いつめられた表情の母親たちは、自分自身の仕事や悩みで頭がいっぱいのまま息子の学校にやってきていた。あの集まりの母親たちにとっては、自分の息子が成績芳しくないという事態は、そのほかの厄介な諸問題とひとくくりにできることで、対処しなくてはならない懸案がひとつ増えただけに過ぎなかったのだ。

この居心地の悪い真実を認識してしまうと、女性陣はバツが悪くなる。罪の意識を感じてしまうのだ。けれども私が先週来抱えている罪の意識は、ある意味で背筋がピッと伸びるような緊張感を与えてくれるものでもあった。たとえば、オフィスの窓外の屋根にどっさり積もった朝の新雪に、ごろごろ転がってみたかのような、そんな感じのする。

企業幹部の役職に就いている友人は、くだんの報告書を読んで本当に身が引き締まる思いだったという。あまりに引き締まる思いだったので、思わず手帳をむんずと手にとって、もっと子供たちと過ごす時間を予定として書き込んでいった(本来ならただひたすらガリガリとメールを書いていただろう時間を「子供と過ごす時間」に割り当てたのだそうだ)。

友人はその日の夕方には経営セミナーに出席して、自分がいかに知的で優れた人間かみせびらかし、ほめてもらうはずだった。けれども友人はそれをキャンセルして、代わりに8歳になる娘が毎週通っている水泳教室に娘を連れて行った。公営プールの更衣室はひどいありさまだが、友人はそこに立って、娘の濡れてぐちゃぐちゃになった髪の毛をくしでとかしてあげたのだそうだ。

私自身はまだ公営プールにも行っていないし、手帳をむんずとつかんでもいない。これを読んでいるあなたに、ほら手帳を開きなさいと言いたいわけでもない。仕事をやめてケーキを焼き始めるつもりもない。人生というのは居心地の悪い妥協の連続で、それは相変わらず変わらない。けれども今回のこの報告書を読んで、私のものの考え方は少し変わった。そしてこれは実際には言うは易しなのだが、次に何かギリギリの選択をしなくてはならないときの私の行動が、この報告書で少し変化したのかもしれない。

なので。私はこの原稿を延々とチョコチョコ手直しし続けるこの楽しい時間を、ここで打ち切る。今から私はもっと難しくて、やりがいの乏しい難事業に着手しなくては。つまり今から息子を見つけ出して、説得するか強制するかワイロで釣るかやり方はともかく、何とかしてフランス語の動詞「avoir」と「être」の過去形を覚えさせられないかと思うのだ。


フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(登録が必要な場合もあります)。

(翻訳・加藤祐子)

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