トヨタ車がアメリカの道を走らない
(フィナンシャル・タイムズ 2010年1月29日初出 翻訳gooニュース) ジョナサン・ソーブル、バーナード・サイモン
愛車のカムリやカローラを停止させようと思ったら、ブレーキを両足で全力で踏み込まなくては。そんなことを考えるトヨタ車オーナーなどいないはずだ。しかし日本のトヨタ自動車はこのほど、まさにそうしてくださいとアメリカやカナダの顧客に呼びかけた。もし万が一アクセルがいきなり固まってしまったら、ブレーキを「しっかりと一定の力で」踏みこむようにと。
トヨタはさらに、もしアクセルが動かなくなったら「最寄りの安全な場所まで車を移動させた後、エンジンを切って、トヨタ販売店に連絡してください」とも呼びかけている。トヨタはこうして何とか、悪夢のようなリコール問題の拡大を阻止しようとしている。トヨタは今、かつてデトロイトの米自動車大手を襲ったようなひどい事態に直面しているのだ。
アメリカで昨年9月に始まった問題は、このほど発表されたリコールと対象車種の販売・生産一時停止でさらに悪化した。トヨタは2008年、ゼネラル・モーターズ(GM)から「世界最大の自動車メーカ−」の地位を奪いとったのだが、それにしてもこのリコールの規模は巨大だ。しかも「トヨタ」の名前はこれまで「品質」や「信頼性」とほぼ同義語だっただけに、今回の大規模リコールは驚きだ。
昨年11月以来、トヨタはアクセルペダル不具合のため回収・修理が必要な乗用車、トラック、SUV(スポーツ用多目的車)を計約600万台特定した。問題は、アクセルペダルがフロアマットにひっかかり動かなくなる、あるいは結露で動かなくなる、もしくはフロアマットと結露の両方が原因で動かなくなる——というもの。リコール対象600万台というのは、昨年のトヨタ北米販売台数の3倍以上。同社通年の世界販売台数780万台の約75%に相当する。アメリカにおける10-12月期販売台数の65%に相当する製品が、影響を受けていることになる。欧州では180万台がリコール対象となる予定。中国でも近く、リコール台数が発表されるだろう。
トヨタはこの危機をなんとか沈静化させようとしている。1月26日に発表された販売停止というきわめて異例な措置によって、結露関連の問題を抱えるカムリやカローラ、その他6車種が販売されなくなった。欠陥は、インディアナ州に本社を置く部品製造の「CTS」のカナダ工場で発生したものとされており、1月28日には設計を修正したアクセルペダルの出荷を開始したとトヨタは発表している。
トヨタにとって心配なのは、リコール対象となる台数の多さに留まらない。トヨタの名前に傷が付いたことの、長期的な影響はどうなるか。フロアマット問題と数件の死亡事故を関連づける報告もある(昨年末にカリフォルニア州で、高速警察官と家族3人が死亡した激突事故など)。連邦議会は公聴会開催を決定しており、各地のトヨタ販売店には心配するドライバーたちの電話が鳴り続けている。
「トヨタは信頼できるのかと。こんなことが問われるのは、初めてだ」 ワシントンにある危機管理コンサルタント会社「レヴィック・ストラテジック・コミュニケーションズ」のジーン・グラボウスキー氏は言う。トヨタ・グループの市場価値は1月21日のリコール以来16パーセント縮小し、反対にフォードやホンダ、ヒュンダイが株価を伸ばしている。
今回のトヨタ問題は、1980年代にアメリカで起きたアウディ問題を連想させる。当時(トヨタと同じように)、走行中に「いきなり加速する」と報告され、米国内でのドイツ車アウディの評判はボロボロになってしまった。評判悪化のダメージは大きく、どんなにリコールを繰り返したり車種の名前を変えたり、大幅値引きを敢行しても、アウディ車は十年近く、北米では全く売れなくなってしまったのだ。アウディの当時の北米シェアはそもそも現在のトヨタには遠く及ばなかったため、今のトヨタと単純比較はできないかもしれないが。
対してトヨタを好感する消費者心理は根強く、米国市場のシェアは17%にもなるだけに、トヨタが北米から消えてしまうと考える人は少ない。しかしトヨタが安全問題に直面している今この時、デトロイトのフォードとGMは、自動車専門メディアが両社史上最高と絶賛する新型車を発表したばかりなのだ。今月のデトロイト・モーターショーでは、フォードのセダン型「フュージョン・ハイブリッド」が北米カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。そしてGMのビュイック・アンクレイブSUVやシボレ・マリブ・セダンなどのモデルは、破綻したばかりのGMではなくトヨタのエンブレムが付いていればベストセラーになるはずなのに——というのが、多くの専門家評だ。
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