中年男の作り方――フィナンシャル・タイムズ(1)

フィナンシャル・タイムズ2007年8月19日(日)20:38
(フィナンシャル・タイムズ 2007年8月11日初出 翻訳gooニュース)ピーター・アスプデン

世界は中年男が動かしている。

とは言ってみたものの、もしあなたが中年男なら、自分が世界を動かしているという実感はないはずだ。社会を構成する人口グループのなかで、中年男ほどとことんバカにされ、見下され、足蹴にされている集団はいない。中年男というのはやることなすこと、ともかく何かしら滑稽で笑える、そういう存在らしい。我が家の庭という安心地帯でバーベキューを計画している時でも。エベレスト登頂を計画している時でも。

中年男はつまらない退屈な生き物だ。あるいは中年男はどうしようもない悪者だ。中年男はさっさと早死にしようとしているか、むやみに若さにしがみつこうとしている。恋する中年男など、バカバカしさの極みだ。スポーツカーに乗りたがるのは、自分の存在について自信がないから。中年男がジーンズを履くのは、いつまでもオトナになりたくないから。ガタのきたレコードプレーヤーで、自分が若い頃のヒット曲をかけ続けるのは、切ないノスタルジア。買ったばかりのiPodでヒップホップ・ラッパー50 Centを聴くのは、50セント足りないからか、実年齢にふさわしい中身がないから。

にもかかわらず人間は中年期になると、弱くなるし、もろくなる。中年ほど弱くてもろい者はない。これまでの人生経験を頼みにする一方で、新しい挑戦に前向きに取り組まなくてはと思っている。そして、両方の衝動を慎重にバランスしなくてはならないのだ。色々な経験をしてその分だけ賢くなってはいるが、新しい冒険を望んでいる。当然ながら、たくさんの重圧や喪失、悲しみをくぐり抜けては、立ち直ってきた。未来は希望に満ちているが、現実は厳しい。希望と現実が譲り合ったところから生まれるのが、未来だ。それは十分わかっている。それでもなお中年男は、未来に希望をつなごうとしている。ということは、人生の皮肉というものをそれなりに理解した上で、それなりの勇気をもちあわせていなければならないわけだ。中年とはそういう生き物だ。

男たちは、あらゆる中年ジョークで笑い者にされるのは仕方がないことだと、笑って受け入れている。それは正しい、あるべき姿だ。なぜなら中年男は世界を動かしているから。なぜなら世界覇権というのは、傲岸不遜と卑屈をかけあわせた心持ちにとても近いものだから。強大な権力者が苦境に立たされている姿ほど、面白いものはない。権力者の権力が強大であればあるほど、窮地に立つ姿は面白いのだ。

世界中のマスコミはかつて、クリントン前米大統領と若い研修生の不幸な関係をとことん報道した。これは2人の関係そのものが重要だったからではなく、ただとてつもなく笑える話だったからだ。全ての細かなディテールがどうしようもなく通俗的な、笑えるストーリーだったからだ。そればかりか、中年男というのはこんなにどうしようもない生き物だという一般論の中で最も一般的で通俗的なバージョンを、これでもかというくらい補強してみせたからだ。要するにつまり、中年男というのは欲求不満な生き物で、不埒な情欲を若い女性相手に発散したがる生き物だという、そういうイメージのことだが。

中年期にさしかかった人間がどういうひどい目に遭うか。これは人間である限り逃れようのない普遍的なジレンマであると同時に、かなり時代限定的なものでもある。どの時代にもそれぞれの時代特有の不安要因がある。そして、それぞれの時代の中年男はそれぞれに時代特有の激しい不安を抱えている。1950年代に中年になった人は、戦争の記憶を抱えていて、戦争がその後どうなったかも分かっていて、そのことが良心の呵責となっていた。それは決して些細なことではなく、当時の人たちがどう行動するかを決定づけたもので、当時の人たちはそれに基づいて、落ち着いて行動し、与えられた時間に感謝しつつ、品位のある振る舞いをしていた。

しかし今のこの時代の中年男たちは、戦争のように強力な社会共通の同時代体験に振り回されることもなく、実に自己中心的でわがままな世代に生まれ育った。「団塊の世代」。英語でいうと「ベビーブームの世代」。これほどご大層な呼び名もそうそうないわけだが、ともかくもこの世代の男たちは、社会の変化と一緒になって10代から20代そして30代前半と年をとり、そして社会変化の恩恵をこれでもかと受けてきた。社会の規律・規範が緩んでかつてないほど自由になり、文化の大革命がおこり、家の値段がぐんと安くなったのだ。セックス、ドラッグ、ロックンロール、そして何とか払える住宅ローン。欲望を享楽的に楽しみつつ、将来のために堅実に計画する。両方が一気に可能となって、片方のためにもう片方を犠牲にする必要はなくなったのだ。なんでもできた。なんでも手に入った。だからこそ、その「なんでも」(それはつまり、人生がもたらしてくれるはずのあらゆる喜びのことだが)が指の間からこぼれ落ち始めたとたん、私たちは困惑し、混乱し始めてしまったのだ。

中年とは何か。どう定義するか。何歳から何歳までという、年齢の枠にこだわるのはやめよう。1960年代〜70年代の激しい社会変化に影響を受けて育った人なら誰でも、今は中年だ。実際に何歳かということではない。考え方・感じ方の違いの問題だ。今の世界は当時とはまるで違う場所だ。だから、あなたは世界に違和感を感じている。疎外感を感じているのだ。あなたとは全く違う価値観で生きている新世代が台頭しつつある。あなたにはよく理解できない。あなたは中年なのだ。クリントン大統領は何かまずいことがバレるとバツが悪そうに、ああだこうだと言い逃れしようとした。「彼女と性的関係はなかった」と言ってみたり、「(若いころ大麻を)ふかしたことはあるが、吸い込んでない」といってみたり。ウソをついて良識の合間をすり抜けようとすればするほど、バカにされるしかないという、彼はまさに中年男の典型だった。今のこの時代、セックスとドラッグに関しては、中途半端な曖昧は許されない。離脱治療用の中間施設はあっても、道義的な中間地点はないのだ。少なくとも、気楽に腰を落ち着けていられるような中間地点はない。

中年男は自分が若かったころに謳歌した社会の価値観と、今の社会秩序が求める行動規範の間を、上手に渡り歩かなくてはならない。若いころの価値観と今の規範は両立できるのか、それとも若いころから大事にしてきた信念をいくつか修正、もしくは完全に放棄しなくてはならないのか。中年男は判断しなくてはならない。見た目が全てで、たわいもないことばかりを重視する今の世の中にあって、どうやったら年齢相応な振る舞いができるのか、中年男は学ばなくてはならない。これは言うほど簡単なことではない。自分の父親たちの振る舞いを手本にするわけにはいかない。今の自分は当時の父親と、根本的に違ってしまっているからだ。

今のこの時代、64歳のロックスターが未だに「満足できない、女の子にもてない」と歌っているのを、私たちは苦笑いしながら聴いている。それは 64歳になった彼がもう女の子にもてるわけがないから苦笑するのではなく、64歳になっても彼が未だにもててもててもてすぎているのを知っているからだ。確かに、ローリングストーンズは今でも現役だ。ほぼ全員が。そして恐ろしいことにストーンズは今でも、最高のコンサートで私たちを楽しませてくれる。  (2へ続く

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