中年男の作り方――フィナンシャル・タイムズ(2)

フィナンシャル・タイムズ2007年8月19日(日)20:39
1から続き

つまり、今のこの世界はそういう場所だというわけだ。年寄りは若々しく、白いものは黒い。自分はどう行動すべきか示してくれる、新しいルールが必要だ。独身の若い女性や、退屈しきった独身男には、便利なマニュアル本がいくらでもある。浮気も不倫もしないのになぜか恋人は次々と新しく変わるという人にも、同性愛者にも、遊び人にも、アドバイス本はたくさんある。しかし中年男にはない。ブリジット・ジョーンズは切ない。ブリジット・ジョーンズに共感する人はたくさんいる。しかし中年男の混乱を象徴するボブ・ディランの「ミスター・ジョーンズ(何かが起きてるのに、あんたには分からない)」に共感する人はいない。なので以下は、中年男に捧げる人生のアドバイスだ。

中年男が中年男として存在するにはどうしたらいいか。どうやったら生き生きと元気に、かつ堂々と品格をもって、この中年期を過ごせるか。厄介な問題について、いくつかアドバイスさせていただきたい。つまり、中年男にふさわしいファッションやアート、ライフスタイルについて。かつては自分のファッション・センスやライフスタイルのセンスに絶大な自信をもっていたはずの中年期のみなさんに、以下を捧げます。


・ジーンズは履いていい?

履いてもいい。ジーンズは私たちのものだから。もちろんジーンズの起源はもっと昔にさかのぼるが、ジーンズが今のジーンズになったのは、私たちのおかげだ。私たちのおかげで、ジーンズはカウンターカルチャーの象徴となった。ゆったりダラダラするのはクールでカッコいい、平等はヒップでイケテル、ズボンは堅苦しい——というカウンターカルチャーの価値観を作ったのは、私たちだ。ジャクソン・ポロックはジーンズを履いて絵の具を流して絵を描き、オールマン・ブラザース・バンドはジーンズを履いて汗を流して演奏した。ジーンズはまさに、ありったけの情熱をアートに捧げた込めた私たちのカルチャー・ムーブメントの制服だった。ジーンズは、私たちの品位と誠意の象徴だった。そういうものを最近では「ブランド力」と呼ぶのでそうさせてもらうと、「ジーンズ」というもののブランド力を侮ってはならない、ということになる。1本2万円以上もする「デザイナージーンズ」とかいうあのひどい代物は、そんなのは25歳にまかせておけばいい。ジーンズは平等の象徴なのだ。ならば私たちのジーンズは、チェーン店の安物でなくてはならない。あなたの体型はもう完璧とは言い難いだろうから、色は黒か濃紺。ゆったり目がいいだろう。


・フェースブック(SNS)をやるべき?


いいえ。ジーンズが私たちのものだというなら、ネットを使った仲間作りは彼らのものだ。ルールの基本理念というのがあって、それはつまり、どの世代もそれぞれに自分たちのものだと言える何かが必要なのだ。若いときに、上の世代のスタイルを真似るのは構わない。そんなのはしょっちゅうあることだ。しかし上の世代のスタイルに口出しするのは許されない。中年の人間として、あなたは自分の跡を継ぐだろう人々の特性やライフスタイルがどういうものか知っておく必要があるが、彼らの流行の中でも特に目立つ流行に安易に乗っかってはならない。大雑把に言えば、文化革命は私たちのもので、技術革命は彼らのものだ。しかしもちろん、だからといって、コンピューター音痴でいていいというわけではない。社会が繰り出してくる技術革新の波に、あなたもしっかり乗る必要はある。ただその時、真赤なサーファーショーツ姿でやたらと目立つのは、控えるべきだ。


・整形手術を考えたほうがいい?


絶対ダメ。男は女より合理的な生き物だという思い込みはすでにとことん論破されていて、それにいまさらこだわる理由はほとんど全くないが、「因幡の白兎みたいな赤むけ状態になるために(つまりピーリングに)わざわざ何十万円も払ったりしない」というのは、男の合理性を主張したい時に使える、数少ない言い分のひとつだ。髪の毛の問題も同様。髪がだんだん薄くなっていくのは、確かに辛い。しかし頼むから、受け入れよう。いい加減。ある日いきなり白いバンダナを額に巻いて現れた、あのシルビオ・ベルルスコーニ前イタリア首相の姿を思い出せばいい。あれと同じ方向に自分も行きたいのかどうか。答えは明らかだろう。


・パーティーで踊ってもいい?

ダメ。ミック・ジャガーのことは忘れて。ミックはミックひとりしかいない。はやりの音楽に合わせて踊るのは、西欧の若者の求愛行動なので、若者にまかせておけばいい。「ただ音に合わせて体を動かす」のは、バースデーパーティの子どもたちがやることだ。


・年をとるにつれて考え方はしっかりしてくるべき?

いいえ。「しっかりしてくる」を英語で「コンクリートのようになる」と言うけれど、その表現そのものがまさにズバリ言い当てている。コンクリートのようになるのは、避けるべきだ。もっさり灰色で鈍重なかたまりみたいな考え方をしたいと、そういうことだろうか? どういう姿勢で人生を過ごすか。そこが硬直してしまうと、加齢は逃れようがない。思考回路が閉じてしまうということだからだ。もちろん、今までの旅路の最中に確信してきたことは、いろいろあるだろう。しかしそういうものはできるだけ、少なめにしておくべきだ。今の世の中はめまぐるしいスピードで変化しているのだから、こちらも頭の中を柔軟にしておく必要がある。イタリアの哲学者ジャンニ・ヴァッティモはこれを、「弱い思考」と呼んだ。トップクラスのクリケット選手やテニス選手がふわっと軽くグリップをもっているあの感じを思い出して、それを自分の考え方にも応用してみるといい。


・あー、スポーツね…。運動したほうがいい?

もちろん。考えるまでもなく(文字通り)。歯を磨くくらい自然で当たり前なこととして、運動すべきです。健康のためにもなるし、観念的には、現実世界での作業を、脳内世界での作業と一致させるというプロセスでもある。相手のいるスポーツもいい。ただし「運動している」と言うからには、それなりの基準がある。つまり「自分は○○のスポーツをしている」と言うからには、その「○○」の最高水準の形に多少なりとも似通った形で、参加していなくてはならない。つまり「日曜サッカーリーグでプレーしている」と言うなら、あなたは90分間ぶっ通しで走れて、シュートができて、ボールをもってターンできて、ヘディングもタックルもできるという、そういうレベルに達してなくてはならない。「テニスをしている」と言うのも、サーブしてすぐにネットまで走りこんでリターンをボレーで返すことができるとか、ドロップショットを返すことができるとか、そういうことなら大変に結構だ。ベースラインに立ったまま、役に立たないラケットを振り回してるだけというなら、そろそろゴルフを始めるべきだ。


・たまには酔っ払ってもいい?

もちろん。ただし、愛する人と一緒のとき限定。仲間と一緒にはダメ。同僚と一緒にもダメ。自分ひとりで酔っ払うのもダメだ。何事もホドホドにするという、そのホドホドさ加減も、ホドホドにしておくのがいい。


・音楽の最新トレンドを追いかけるべき?

これは難問だ。「音楽について言えば、君たちは最高の時代を逃してしまったんだよ。これは本当にどうしようもないことだね」と、そういう残酷な真実を伝えてしまうと、若い人たちは本当に傷ついて腹を立ててしまう。自分の時代の音楽は何か。音楽を通じて、自分の時代を語るにしても、それがデュランデュランだったり、オアシスだったり、アークティック・モンキーズだったりするのは、相当につらいことのはずだ。だからといって私たちは、あまり自分の幸運を鼻にかけない方がいい。彼らの音楽にも関心があるフリをしたらいい。しかし自分のプレイリストを、若い連中に教えてやるのは、絶対にダメだ。彼らもそのうち自分で、自然と見つけるはずだから。過去25年の間に「これはなかなか面白い」と言えた新しい音楽は、ヒップホップだけだった。だからヒップホップを聴くのはいい。すごいな、素晴らしいなと思うことも時々ある。ただし、窓を開け放った車中で聴くのは禁止。


・スポーツカーに乗ってもいい?

もちろん。スピードは喜びだ。20世紀の「美」というものを作り上げたモダン芸術家たちはみんな「速度」を愛した。彼らは速度を感じて、その感覚の純粋さを愛したし、速い車の美しい流線型や見事なエンジンを愛した。「速さ」は私たちの生活の一部になっているし、であるがゆえに、私たちは生活に速さを取り入れるべきだ。「実用的」だからといって、ごてごてとごたいそうで醜い乗り物を受け入れるなんていう、そんな誘惑に屈してはならない。スポーツカーらしいスポーツカーというのは、黒か、チャコールグレーであるべきだ。もっともフェラーリの中には、赤でなければ意味がないというものもあるが。いずれにしろ、くれぐれもご注意を(あらゆる意味で)。


・自分の娘と同じぐらいの歳の女性と関係をもっていい?

えーと、いいえ。この話題に答えるつもりはない。恋の天使をしばるルールはないのだから。そんなこともまだ分かってないのだとしたら、あなたには「中年男」を名乗る資格はありません。


・遺書を用意すべき?

自分はまだまだ元気いっぱいのつもりかもしれないけれども、生と死のことは、今のうちに考えておいた方がいい。ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーは、死とは「最も広義においては生命現象」だと書いた。死を受け入れる準備はまだできていないが、死はそこここに潜んでいる。なので、死と向き合う必要はある。冷静でビジネスライクな態度をお勧めする。身辺整理はしておくべきだ。あとはブルーベリーをたくさん食べるといい。


・自分の給料・年金の心配をすべき?

あなたはフィナンシャル・タイムズ読者だ。給料と年金のことを心配するのは当たり前だ。ただし、あなたの具体的な経済状態をもっと上手に解説してくれる記事は、FTの中にほかにいくらでもある。私がここで触れるべき問題は、いくらあったらこれで十分だと言えるのか。人は中年になると、自分というものの存在に対する不安を昇華させる手段として、自分の将来に対して強迫観念じみたものを抱くようになる。思うようになるかならないか分からない将来を、異常なまでに細かく点検するようになるのだ。頭の中を整理した方がいい。銀行口座の残高が増えているからといって、それを中年期の安心毛布にしてはならない。

これからのことを考えるべきだが、今の自分を取り巻く「今この時」にも対応する必要がある。自分に与えられた「今」をみすみす逃してはならない。たまにはその場の勢いで思い切りぜいたくをしてみたり、思い切り他人のためになることをしてみるといい。世界的に有名なレストランで食事したり。1カ月間たっぷりかけて、チャリティーのためにボランティアしたり。「あのときは!」と言える一生の思い出となる経験を、あなたはまだ求めているからだ。モノから得られる満足感はそんなに長続きしないということくらい、あなたはもう分かっている。だから自分の生活をそれなりに切り替えていくべきだ。自宅にいても楽しくすごせるように。死ぬまでにしておきたいステキなことは1001もある。とはいえ「死ぬまでにしておきたい1001個のステキなこと」という本を買うのは、数の内に入っていない。想像力を働かせて。


・家の中で靴ではなくスリッパを履くべき?

絶対にダメ。スリッパ自体は無害だが、「家でスリッパを履く=年寄り」という強力過ぎるイメージは抗いがたいものだ。時には、象徴的なものの象徴としての威力に負けを認める必要もある。夏にはビーサン、冬にはハイキング用の遠赤外線あったか靴下がおすすめだ。


・教会に行くべき?

信仰のことほどプライベートなものはない。ややもすると唯我独尊的になりがちな考えに、連帯という側面が与えられるのは、とても心強いことだ。そして組織化された宗教の力というのは、そういうものだ。あなたがなぜそこにいるのか、目的を明確に、はっきりとした確信をもって、その場にいるようにするといい。ただ習慣だから? 世間体がいいから? 次に教会に行くとき、たっぷり5分はかけて自分に容赦なく自問自答してみるといい。自分のそれまでの思い込みを根底から揺さぶられるような気づきがあるかもしれない。それはいいしるしだ。その調子で続けるように。人生の核心的な真理とは、矛盾に満ちている。つまり年を取るごとに人生は楽になるし、同時に難しくなる。そういうものなのだ。あなたが信じる神様に、どうしてそうなのか、そうじゃなくてはならないのか、尋ねてみて。答えてもらえないかもしれないが。


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