全く東京的ではないあらゆるものが それこそが大阪の魅力――フィナンシャル・タイムズ(2)
(1から続き)
大阪とは何か。大阪はこのテーマにずいぶん長いこと取り組んできた。7世紀の時点ですでに主要都市だった大阪は、近くの奈良や京都が首都だった間は何百年にわたって日本の商業の中心だった。そして今では、地域としての総生産量がカナダやインドをしのぐ、関西という地域の中心都市だ。
かつて国内を流通する物品は全て、商都・大阪をいったん経由してから、国内に再配分されていった。この中世日本のハブ・アンド・スポーク方式によって、大阪は巨額の税収を得ていた。常に革新的で新しいもの好きな大阪は、世界初の先物取引市場を発明。1730年に堂島米会所を開設したのがそれ。デリバティブもなければ、不良債権のバンドリングが登場する、はるか昔のことだ。大阪企業家ミュージアムによると、郊外もカーキも映画館も、電気洗濯機も保険も、そして何より大事なカップラーメンも、全て大阪で発明された。
少し前に大阪を訪れたとき、私は有名な道頓堀通りに立っていた。歌舞伎を上演する松竹座から少し離れたところにいた。ここは、禅の静けさを世界に与えてくれた国と同じなのだが、この道頓堀は「騒音」というテーマの生きた記念碑的な場所だ。何層にも重なる音が、人間の耳に聴こえる周波数を奪い合っている。最新のJ-POPヒット曲が高音で歌い上げる。メガホン越しの歪んだ声が、ストッキング安いよ安いよなくなっちゃうよと誘いかける。店先ではそれぞれてんでバラバラの客寄せ音楽が、ケーキやCDやたこ焼きを宣伝。そして松竹座の奥からは、歌舞伎につきものの伝統的なつけ打ちの音がもれ聴こえて、バタバタバタと速く大きくなっている。
近くではたくさんの人がグリコマンの近くに集まっていた。アスリートがこちらに向かって走ってくる、ビルぐらいに巨大なネオン看板。1920年代からずっとグリコのシンボルで、今や有名な大阪名物のひとつだ。その近くにかかる戎橋は、架け替え工事中だった。大阪が愛する阪神タイガースの優勝を祝って、かつて何千人というファンが道頓堀の真黒な水に飛び込んだとき、溺死者が出たせいだ(訳注・11月22日に「新えびす橋」が竣工・お披露目された)。
2003年に優勝するまで、タイガースはいわゆる「カーネルおじさんの呪い」に苦しんでいると言われていた。いわく1985年のリーグ優勝が決まった夜、熱狂するファンが近くにあったケンタッキー・フライド・チキンからカーネル・サンダースの人形を盗み、興奮のあまり道頓堀に投げ込んだせいで、タイガースはこのカーネルの呪いにかかって優勝できないのだと。以来、定期的な浚渫(しゅんせつ)が何度も行われているにもかかわらず、カーネル人形は見つからない。道頓堀の底がいかにドロドロか、分かろうというものだ。
東京に帰る列車に乗る前、私はラーメン屋台に立ち寄った。ちょっとした小上がりのような畳の上に小さなテーブルがいくつか置いてある。自販機で650円のチャーシュー麺の食券を買って、従業員に手渡すと、プラスチックのどんぶりに濃厚なスープを入れてくれた。水とキムチを自分でとってから(大阪は、朝鮮文化の影響を強く受けている)、靴を脱いで畳にひざをついて、テーブルに向かった。間もなく、隣のテーブルの人が、缶ビールを勧めてくれた。こういう、何気ない自発的な好意は、大阪のあちこちにあふれている。
問題はここからだ。まさに私にとってのこれぞ大阪的な瞬間が、すぐにやってきた。小さなネズミが登場して、小上がりと調理場カウンターの間をチョロチョロッと行ったりきたりしたのだ。東京のレストランでは一度も、ネズミにお目にかかったことなどない。もし東京の店でそんなことがあったら、ネズミ出現にいったいどんな阿鼻叫喚の事態が出来するのか、想像するしかない。
しかしここは大阪。まわりの人たちは、可愛い犬でも見る目つきでネズミにちらりと目をやると、食べるという大事な作業に戻っていった。私の前にあるラーメンも、実においしそうだ。なので私も、食べることに専念することにした。店を出るとき、念のため靴の中を確かめたが、ネズミはもういなかった。
大阪とは何か。大阪はこのテーマにずいぶん長いこと取り組んできた。7世紀の時点ですでに主要都市だった大阪は、近くの奈良や京都が首都だった間は何百年にわたって日本の商業の中心だった。そして今では、地域としての総生産量がカナダやインドをしのぐ、関西という地域の中心都市だ。
かつて国内を流通する物品は全て、商都・大阪をいったん経由してから、国内に再配分されていった。この中世日本のハブ・アンド・スポーク方式によって、大阪は巨額の税収を得ていた。常に革新的で新しいもの好きな大阪は、世界初の先物取引市場を発明。1730年に堂島米会所を開設したのがそれ。デリバティブもなければ、不良債権のバンドリングが登場する、はるか昔のことだ。大阪企業家ミュージアムによると、郊外もカーキも映画館も、電気洗濯機も保険も、そして何より大事なカップラーメンも、全て大阪で発明された。
少し前に大阪を訪れたとき、私は有名な道頓堀通りに立っていた。歌舞伎を上演する松竹座から少し離れたところにいた。ここは、禅の静けさを世界に与えてくれた国と同じなのだが、この道頓堀は「騒音」というテーマの生きた記念碑的な場所だ。何層にも重なる音が、人間の耳に聴こえる周波数を奪い合っている。最新のJ-POPヒット曲が高音で歌い上げる。メガホン越しの歪んだ声が、ストッキング安いよ安いよなくなっちゃうよと誘いかける。店先ではそれぞれてんでバラバラの客寄せ音楽が、ケーキやCDやたこ焼きを宣伝。そして松竹座の奥からは、歌舞伎につきものの伝統的なつけ打ちの音がもれ聴こえて、バタバタバタと速く大きくなっている。
近くではたくさんの人がグリコマンの近くに集まっていた。アスリートがこちらに向かって走ってくる、ビルぐらいに巨大なネオン看板。1920年代からずっとグリコのシンボルで、今や有名な大阪名物のひとつだ。その近くにかかる戎橋は、架け替え工事中だった。大阪が愛する阪神タイガースの優勝を祝って、かつて何千人というファンが道頓堀の真黒な水に飛び込んだとき、溺死者が出たせいだ(訳注・11月22日に「新えびす橋」が竣工・お披露目された)。
2003年に優勝するまで、タイガースはいわゆる「カーネルおじさんの呪い」に苦しんでいると言われていた。いわく1985年のリーグ優勝が決まった夜、熱狂するファンが近くにあったケンタッキー・フライド・チキンからカーネル・サンダースの人形を盗み、興奮のあまり道頓堀に投げ込んだせいで、タイガースはこのカーネルの呪いにかかって優勝できないのだと。以来、定期的な浚渫(しゅんせつ)が何度も行われているにもかかわらず、カーネル人形は見つからない。道頓堀の底がいかにドロドロか、分かろうというものだ。
東京に帰る列車に乗る前、私はラーメン屋台に立ち寄った。ちょっとした小上がりのような畳の上に小さなテーブルがいくつか置いてある。自販機で650円のチャーシュー麺の食券を買って、従業員に手渡すと、プラスチックのどんぶりに濃厚なスープを入れてくれた。水とキムチを自分でとってから(大阪は、朝鮮文化の影響を強く受けている)、靴を脱いで畳にひざをついて、テーブルに向かった。間もなく、隣のテーブルの人が、缶ビールを勧めてくれた。こういう、何気ない自発的な好意は、大阪のあちこちにあふれている。
問題はここからだ。まさに私にとってのこれぞ大阪的な瞬間が、すぐにやってきた。小さなネズミが登場して、小上がりと調理場カウンターの間をチョロチョロッと行ったりきたりしたのだ。東京のレストランでは一度も、ネズミにお目にかかったことなどない。もし東京の店でそんなことがあったら、ネズミ出現にいったいどんな阿鼻叫喚の事態が出来するのか、想像するしかない。
しかしここは大阪。まわりの人たちは、可愛い犬でも見る目つきでネズミにちらりと目をやると、食べるという大事な作業に戻っていった。私の前にあるラーメンも、実においしそうだ。なので私も、食べることに専念することにした。店を出るとき、念のため靴の中を確かめたが、ネズミはもういなかった。
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