菅氏が選挙で敗れた本当の理由

フィナンシャル・タイムズ2010年7月16日(金)09:30
(フィナンシャル・タイムズ 2010年7月14日初出 翻訳gooニュース) ミュア・ディッキー東京支局長

一見すると、政治家にとって典型的な教訓話のように読める。理想主義的な新首相が、厳しい参院選の直前に消費増税の必要性を公言したところ、有権者は当然のように与党にきつい敗北を食らわせたという物語だ。この教訓は、「正直こそ、選挙前にベストな税金政策だなどと考えるのは愚か者だけ」ということ。

日本の民主党は先週末の参院選で打撃を受けた。その意味をこうして皮肉に解釈すると、イギリスでの最近の出来事にも呼応しているように思える。イギリスでは、保守党と自民党の新連立政権は選挙後にさっさと付加価値税を税率20%に上げると発表。どちらの党も選挙戦中は、増税などするつもりはないと公言していたのだが。

日本の菅直人首相は、消費税話の危険性を充分に承知している。消費税の再開が最初に取り沙汰された1970年代後半からというもの、この税金の話はずっと政治にとっては毒薬だった。1993年からこちら、消費税を上げようとした総理大臣2人がそのせいもあって失脚してきた。しかしもし一部で言われるように民主党敗北の結果として、1年ともたない総理大臣の5人目に菅首相がなるのだとしたら、消費税だけがその原因というわけでは決してない。

民主党が敗北したのは、昨年の選挙で自民党の長期支配を終わらせた同党に対して、有権者がつくづく落胆しているせいでもある。民主党は参院選に向けた文書で、政治資金スキャンダルや米軍基地移設計画をめぐり「混乱と不信」を招いたことをお詫びしている。日本の財政問題をなんとかしなければいずれギリシャのような危機に陥ると、菅氏が本心から心配していることを疑う必要はない。しかし市民運動出身の総理大臣は、税金を論点にすれば有権者の注目を民主党の失敗からそらす機会になることも承知していたはずだ。

残念なことに、今回の選挙結果によって財政再建の手はずがますます遅れるのは確実のようだ。これは大事なことだ。日本には経常黒字と巨額の国内貯蓄があるので、早々に危機に陥る危険は少ない。しかし長期的な危険が立ちはだかっているのだ。公的債務の総額は国内総生産(GDP)の200%近くに達している。そして今年度は2年連続して、税収より新規借入金の方が多い年になると見られている。

高齢化に伴い社会保障の医療費が増えつつある以上、どんな解決策でも消費税が大きな役割を果たすことになるのだろう。比較的、徴収しやすいし、脱税しにくいし、効果のほどは均一だ。5%という今の日本の消費税率は多くの先進諸国よりもはるかに低い。その税率が1%増すごとに、2兆円の税収増になるのだ。

反対する人たちは、消費税が逆進性で、収入のほとんどを支出に回さなくてはならない低所得層に最も重い税負担をかけるものだと指摘する。しかし、消費税の不公平性を抑制する方法は色々とある。

消費増税はただでさえ低調な内需をさらに弱くするかもしれないと、一部のエコノミストは心配する。1997年に3%から5%に上げた際には、すぐに厳しい景気後退が続いた。しかし消費増税派は、この時の経済停滞の最大要因はアジア金融危機に伴う輸出減だったと主張する。期間をはっきり定めた間に徐々に増税していけば、別に買い物を控える必要はないのだと消費者を納得させられて、むしろ消費を促進するかもしれないというのが、増税派の意見だ。

多くの一般市民はこの説明を受け入れている様子だ。ゆえにここから、消費税議論のみが菅首相敗北の原因だったとする単純な説明は成立しなくなる。

総理大臣がわざわざ強調したように、今や日本の最大野党となった自民党は、マニフェストで消費税率倍増を公約している。消費税に関する両党協議を提案するにあたって、首相は自民党のこの提案を「参考としたい」と述べているのだ。

ゆえに11日の選挙で自民党が勝ったからといって、別に有権者が変化を拒否したことにはならない。読売新聞の出口調査によると、有権者の61%が消費増税は必要だと答えており、必要ないと答えたのは23%にすぎなかったという。増税を公約すれば選挙に勝てるかもしれない、日本は珍しい国なのかもしれないのだ。

菅首相の問題は、日本が必要とする税金・経済・金融のデリケートな諸政策を彼なら上手にさばけるだろうと、有権者を説得できなかった点にある。低所得層に対する消費税還元策は年収いくらからにするのかについて、首相は一貫していなかった。次の衆院選まで「消費税は1円も上げない」というその約束は、ほかの問題でもぐらぐら揺れた民主党を思い出させた。

結局のところ、菅首相と後継者たちにとっての本当の教訓は次のようなものかもしれない。増税を話題にするのはいいが、それなら説得力のある話し方をしなくてはならないのだ——と。


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(翻訳・加藤祐子)

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