【FT】これぞ究極の就活? 自己PR極めた学生こそ企業の理想では (1)─フィナンシャル・タイムズ
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金融街のあちこちでこのところ、投資銀行マンたちは実は大笑いしていた。格好のネタになってしまったのは、「アレクセイ・ヴェイナー(Aleksey Vayner)」という若者。大真面目な顔をした、米イェール大の学生だ。就職活動中の彼は数週間前、UBS銀行に応募して、11ページにわたる履歴書と一緒に、自分がいかに特別な人間かを説明する短いビデオクリップを提出していた。
それから数日もしないうちに、「Impossible is Nothing」という(アディダスCMからとった)タイトルのこのビデオは世界中にメールされまくり、YouTubeにも張られ、ものすごい大人気コンテンツになってしまった。
英米ビジネス界をかけめぐったこの流出ビデオを、まだ観てないという一部の方々に念のためご説明しましょう。主人公がひっきりなしに衣装替えをするという意味では、このビデオは、私が先週観た映画(同じく「仕事」がテーマだ)『プラダを着た悪魔』といい勝負だった。『プラダを着た悪魔』は「まあまあ笑える」程度のコメディだったのに対して、ヴェイナーさんのビデオは大爆笑ものだ。さらに言えば、作り話のはずの『プラダを着た悪魔』に出てくるウルトラ最悪な鬼婆上司には「まあ、ああいう人はいるかもな」と思えるリアリティがあったが、作り話ではない本物の就活学生ヴェイナーさんは逆に、こういう人が実在するとはにわかには信じがたいありえなさだ。
ビデオの中で彼はまず、グレーのスーツ姿で現れる。次にショーツ姿で、巨大なバーベルを上げ下げ。次には白いテニスウェアで、強烈なサーブを披露。さらにはタキシード姿で、キラキラなビキニトップの女性とダンス。しまいには空手衣で登場し、うずたかく積まれたレンガの山を素手でカチ割ってみせるのだ。
自分のこうした「技」を次々と披露する傍ら、ヴェイナーさんは「成功するには」と自らの哲学をトウトウと語る。「そんなことダメだという連中がいても、負け犬の言うことなんか無視すべきだ」 淡々と語るその口調は恐ろしげとも言えるほど。「失敗という選択肢はありえない。つらいと思うところまで自分を追い込むんだ」
ビデオは素晴らしく面白い。しかしビデオそのものよりも、銀行マンたちの大受けぶりのほうが、実はかなりおかしかった。これだけやる気満々の学生が目の前にいるのに、企業側の争奪戦がないというのも、かなり笑える現象だ。
あっという間に採用が決まるどころか、ヴェイナーさんはあっという間にインターネットの被害者となり、世界中の笑い者になってしまった。本人は今どこかの穴に隠れて、「プライバシー…」とか「訴訟…」とかブツブツつぶやいているらしい。
気の毒に……と同情するには、彼はちょっとひどすぎるので、そういう気にもなれない。
しかし、彼の「ひどさ」というのは、大手企業がこれまで「こういう人材が欲しい」と求めてきた資質にほかならないのだ。「Impossible is Nothing」(不可能は何もない)という言葉は(表現として矛盾しているが)、多くの会社が掲げる思想そのものだ。食品会社キャドバリー・シュエップスは最近出した社内ハンドブックで、不可能なことを毎日何かひとつでも実現するよう社員に求めているほどだ。よく働きよく遊び、自分の体はとことん鍛えるというヴェイナーさんのポリシーは、「一流」企業人にとっては、スタンダードともいうべき考え方のはずだ。
UBSのウエブサイトに行くと、思わず体がこわばってしまうような、あちこちがむずがゆくなってしまような「You & Us」というイメージキャンペーンがある。若い美男美女が、美しい雪山をバックに座っている。出てくるメッセージは「自由とは、自分の夢を実現する可能性です」「私は何事も優秀にこなします」など。
ヴェイナーさんは明らかに、自分の夢実現にかけて優秀な人材だ。なのにどうしてUBSは彼を採用しないのか、おかしな話だ。
ヴェイナーさんは、あるいはむしろJPモルガンに向いているのかもしれない。あの銀行は数年前、従業員ひとりひとりがいかに飛びぬけて優れているかをテーマにした連続CMを流していた。私のお気に入りは、「ナターシャ・スアカノーヴァ」という若い美女が出てくるもの。彼女は自分の「ミッション」について「ベストが手に入るのなら、ベターで満足したことはありません。まあまあ程度のものには一切関心がありません。シニカルで後ろ向きな人は、私にイラ立つのです。私は火をつける人間。私はJPモルガンで働いています」と語っていた。ナターシャとアレクセイ。なんと見事なベストカップルではないか。 (2に続く)
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gooニュース編集部より: 就職のための応募書類・ビデオ流出の被害者であり、公人ではない一個人でもある学生の実名を出すかどうかの是非については、本人が実名・写真つきで、ニューヨークタイムズ紙などのメディア取材に応じていることから、実名報道に問題はないと判断しました。
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