どうして職場でみじめになるのか――フィナンシャル・タイムズ
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(フィナンシャル・タイムズ 2007年11月11日初出 翻訳gooニュース) ルーシー・ケラウェイのコラム
幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。しかし不幸な勤め人はどれも似たような形で不幸を味わっている。
最初のセンテンスは、世界で最も偉大かもしれない小説家レオ・トルストイが残したものだが、一般論としての信ぴょう性はやや疑わしい。2つめのセンテンスは、偉大でもなんでもない小説家によるものだが、一般論としてはまあまああり得る。この偉大でもなんでもない作家とは、経営コンサルタントのパトリック・レンシオーニ氏。彼は最近、「The Three Signs of a Miserable Job(みじめな仕事の3つのしるし」というビジネス寓話を発表。文学的には何の価値もないが、現在Amazonで「アンナ・カレニナ」の100倍は売れに売れている。
この本によると、私たちが職場でみじめな気分になる理由は3つ。第1に、自分は何者でもないから。つまり、自分がそこにいてもいなくても、誰も気にかけていないと感じるから。第2に、自分の仕事ぶりがいいのか悪いのか、測れないから。第3に、無意味だと感じるから。つまり自分が何をどう働いても、結局は大差ないんじゃないかと感じるから。
レンシオーニ氏は、この3理由が今や職場で猛威を振るっていると主張。おかげで、全ての勤め人の4分の3が自分の仕事が大嫌いだという、「みじめな気分が集団感染」しているのだという。しかし絶望するにはまだ早い。レンシオーニ氏が言うに、労働者がみじめな気分に陥っているのは、ほとんどが管理職 の責任であって、自分たちが一般社員だったときにどういうみじめな気分で働いていたか、この管理職たちが思い出せば、問題は解決されるというのだ。
この人が言うほど、職場の気分はそこまで落ち込んでいないと私は思う。まずそれが一点。私はビジネス悩み相談の受付係として常日頃、職場での悩みごとを積極的に探し回っている人間だ。その私のところに悩みを送ってくる人たちというのは、世間一般の平均からはかなりずれていると思う。しかしそれでさえ、職場で本当に本当にみじめな思いをしている人は、相談者の半数にしかならないと思う。
そして仮に本当に、レンシオーニ氏が言うほどたくさんの人が職場でみじめな思いをしているとしても、その理由が間違っている。私は先週、旧友と夕食を食べながら、2人して数時間たっぷりかけて「何がみじめで辛いか」をじっくり話し合った。この友人はありとあらゆる仕事をしてきて、かなり頻繁にみじめな思いを経験している。私だって仕事をしていて、お気楽極楽とは言えない時期が何度かあった。その上で私たちは、今までで最もみじめで辛い思いをしたのは、就職してからではなくて、就職する前だったと二人とも一致したのだ。
何がひたすらみじめだったといって、大学生活の1年目ほど辛かったものはない。レンシオーニ氏が挙げた3つの理由はどれも、私たちが新入生として経験した1978年のオックスフォード大学にぴったりあてはまった。
私たちは全く何者でもなくて、私たちがどこで何をしていようと誰も気にかけてくれなかった。おかげで私たちはひどくみじめだった。私たちは、自分の勉強の仕方が正しいか分からなかったし、分かりようもなかった。毎週レポートを書いては、退屈してあくびを隠そうともしない指導教官の前で読み上げるだけ。聴いている同級生たちは、居心地わるそうにモゾモゾするだけ。そういう中で、私たちはひどくみじめだった。さらに私たちは、それまで学校では何それをやりなさいと指示されていたのに対して、大学ではいきなりその強制から解放されて、自分たちの学問に自分なりの意味や目的を見つけようとしていたけれども、それが見つけられなかった。だからひどくみじめだった(おまけに私は、彼氏と別れたばかりというのもあって、みじめだったと思うのだが、それはまた別の話だ)。
でもそれから、私たちは大人になった。意味とか目的とか計測可能な評価とか、そういうものをもう期待しなくなっていた。あるいは少なくとも、そういうものは少しでもあればいい方だと、割り切るようになった。初めて就職してオフィスで働くようになった時、これはなかなか悪くないと私たちは思った。まず何より、お給料がもらえる。お金がもらえるというそのこと自体もステキだが、それに加えて労働にそれなりの目的が生まれる。しかもお金という、決してつまらなくない目的だ。
しかしその後、これ以上にもっと深い意味や目的を探し始めるのは、危険なことだ。働くことに意味を見出そうとすればするほど、見つけにくくなるものだ。こういうコラムを書くことの意味は? そんなのないに決まっている。 それでも、読んでまあまあ面白いと思ってくれる人がいて、私も書いていてまあまあ楽しいなら、それだけでも意義は十分あると思うのだ。
自分が何者でもないというその悩みについては、お給料をもらっているというそのことだけでも、あなたがそこにいることを誰かが気にかけているという証拠になる。さもなければ、誰もあなたに金を払ってまで出社させようとはしない。さらに、自分の働きぶりがいいか悪いか分からないという点は、もはやほとんどの会社ではあてはまらないだろう。評価に次ぐ評価の導入で、企業で働く人間はむしろ、自分の働きぶりがいいか悪いか言われすぎているくらいだ。
それよりも、働く人間がみじめになる3つの理由は、もっと根本的なものだと私は思う。それはつまり、仕事と、周りの人たちと、職場環境全般だ。み じめになる原因が仕事なら、それはあなたにとって仕事が多過ぎるか少な過ぎるか、つまらなさすぎるか難し過ぎるか、あるいは簡単すぎるのだ。
周りの人たちのせいだという場合もいくつかある。周りの人たちが怠け者だったり、意地悪だったり、横暴だったり、その人たち自身がみじめすぎて鬱に陥ってるせいで周りが楽しくなれるはずもなかったり。職場環境も、やる気を失わせる環境だったり、不健康だったり、社内政治が激しすぎたりと、色々な問題があり得る。
レンシオーニ氏によると、管理職が部下の気持ちを盛り上げるのが下手なのは、自分が新人だった頃の気持ちを忘れてしまったからだという。
本当の理由はほかにあると私は思う。管理職ほど本質的にみじめな仕事はあまりない、というのがそれだ。管理職は部下を幸せになどできない。なぜなら当の自分たちがあまりにもみじめで辛い気持ちで働いているからだ。
人がやりたくもないことをやるように仕向ける。これが管理職の全てだ。ゆえに管理職というのは、不可能とは言わないまでも、困難きわまりない仕事なのだ。出社は早く、帰宅は遅い。管理職の仕事はいつまでも終わらない。やるべきことは次から次へ、そしてまた次へと押し寄せてくる。管理職とは、嫌われることを嫌がってはならない。管理職とは、孤独な仕事だ。愚痴を言う相手が社内に誰もいない、それが管理職なのだ。
レンシオーニ氏は広い意味では正しいかもしれないが、それ以上のものはない。広い意味とはつまり、職場でのみじめな気分を解消するには、管理職をもっとよくする必要があるという、それだけ。こう言ってみると、当たり前のように聞こえる。ではどうやったら実際に管理職はもっときちんと管理できるのか。これは難問だ。私に答えが分かるなら、ここでコラムを書いたりしていない。オフィスで働くみんなが幸せになれるよう、そういう世界を作るために一肌脱いでいるところだ。
フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(有料購読が必要な場合もあります)。
(翻訳 加藤祐子)
幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。しかし不幸な勤め人はどれも似たような形で不幸を味わっている。
最初のセンテンスは、世界で最も偉大かもしれない小説家レオ・トルストイが残したものだが、一般論としての信ぴょう性はやや疑わしい。2つめのセンテンスは、偉大でもなんでもない小説家によるものだが、一般論としてはまあまああり得る。この偉大でもなんでもない作家とは、経営コンサルタントのパトリック・レンシオーニ氏。彼は最近、「The Three Signs of a Miserable Job(みじめな仕事の3つのしるし」というビジネス寓話を発表。文学的には何の価値もないが、現在Amazonで「アンナ・カレニナ」の100倍は売れに売れている。
この本によると、私たちが職場でみじめな気分になる理由は3つ。第1に、自分は何者でもないから。つまり、自分がそこにいてもいなくても、誰も気にかけていないと感じるから。第2に、自分の仕事ぶりがいいのか悪いのか、測れないから。第3に、無意味だと感じるから。つまり自分が何をどう働いても、結局は大差ないんじゃないかと感じるから。
レンシオーニ氏は、この3理由が今や職場で猛威を振るっていると主張。おかげで、全ての勤め人の4分の3が自分の仕事が大嫌いだという、「みじめな気分が集団感染」しているのだという。しかし絶望するにはまだ早い。レンシオーニ氏が言うに、労働者がみじめな気分に陥っているのは、ほとんどが管理職 の責任であって、自分たちが一般社員だったときにどういうみじめな気分で働いていたか、この管理職たちが思い出せば、問題は解決されるというのだ。
この人が言うほど、職場の気分はそこまで落ち込んでいないと私は思う。まずそれが一点。私はビジネス悩み相談の受付係として常日頃、職場での悩みごとを積極的に探し回っている人間だ。その私のところに悩みを送ってくる人たちというのは、世間一般の平均からはかなりずれていると思う。しかしそれでさえ、職場で本当に本当にみじめな思いをしている人は、相談者の半数にしかならないと思う。
そして仮に本当に、レンシオーニ氏が言うほどたくさんの人が職場でみじめな思いをしているとしても、その理由が間違っている。私は先週、旧友と夕食を食べながら、2人して数時間たっぷりかけて「何がみじめで辛いか」をじっくり話し合った。この友人はありとあらゆる仕事をしてきて、かなり頻繁にみじめな思いを経験している。私だって仕事をしていて、お気楽極楽とは言えない時期が何度かあった。その上で私たちは、今までで最もみじめで辛い思いをしたのは、就職してからではなくて、就職する前だったと二人とも一致したのだ。
何がひたすらみじめだったといって、大学生活の1年目ほど辛かったものはない。レンシオーニ氏が挙げた3つの理由はどれも、私たちが新入生として経験した1978年のオックスフォード大学にぴったりあてはまった。
私たちは全く何者でもなくて、私たちがどこで何をしていようと誰も気にかけてくれなかった。おかげで私たちはひどくみじめだった。私たちは、自分の勉強の仕方が正しいか分からなかったし、分かりようもなかった。毎週レポートを書いては、退屈してあくびを隠そうともしない指導教官の前で読み上げるだけ。聴いている同級生たちは、居心地わるそうにモゾモゾするだけ。そういう中で、私たちはひどくみじめだった。さらに私たちは、それまで学校では何それをやりなさいと指示されていたのに対して、大学ではいきなりその強制から解放されて、自分たちの学問に自分なりの意味や目的を見つけようとしていたけれども、それが見つけられなかった。だからひどくみじめだった(おまけに私は、彼氏と別れたばかりというのもあって、みじめだったと思うのだが、それはまた別の話だ)。
でもそれから、私たちは大人になった。意味とか目的とか計測可能な評価とか、そういうものをもう期待しなくなっていた。あるいは少なくとも、そういうものは少しでもあればいい方だと、割り切るようになった。初めて就職してオフィスで働くようになった時、これはなかなか悪くないと私たちは思った。まず何より、お給料がもらえる。お金がもらえるというそのこと自体もステキだが、それに加えて労働にそれなりの目的が生まれる。しかもお金という、決してつまらなくない目的だ。
しかしその後、これ以上にもっと深い意味や目的を探し始めるのは、危険なことだ。働くことに意味を見出そうとすればするほど、見つけにくくなるものだ。こういうコラムを書くことの意味は? そんなのないに決まっている。 それでも、読んでまあまあ面白いと思ってくれる人がいて、私も書いていてまあまあ楽しいなら、それだけでも意義は十分あると思うのだ。
自分が何者でもないというその悩みについては、お給料をもらっているというそのことだけでも、あなたがそこにいることを誰かが気にかけているという証拠になる。さもなければ、誰もあなたに金を払ってまで出社させようとはしない。さらに、自分の働きぶりがいいか悪いか分からないという点は、もはやほとんどの会社ではあてはまらないだろう。評価に次ぐ評価の導入で、企業で働く人間はむしろ、自分の働きぶりがいいか悪いか言われすぎているくらいだ。
それよりも、働く人間がみじめになる3つの理由は、もっと根本的なものだと私は思う。それはつまり、仕事と、周りの人たちと、職場環境全般だ。み じめになる原因が仕事なら、それはあなたにとって仕事が多過ぎるか少な過ぎるか、つまらなさすぎるか難し過ぎるか、あるいは簡単すぎるのだ。
周りの人たちのせいだという場合もいくつかある。周りの人たちが怠け者だったり、意地悪だったり、横暴だったり、その人たち自身がみじめすぎて鬱に陥ってるせいで周りが楽しくなれるはずもなかったり。職場環境も、やる気を失わせる環境だったり、不健康だったり、社内政治が激しすぎたりと、色々な問題があり得る。
レンシオーニ氏によると、管理職が部下の気持ちを盛り上げるのが下手なのは、自分が新人だった頃の気持ちを忘れてしまったからだという。
本当の理由はほかにあると私は思う。管理職ほど本質的にみじめな仕事はあまりない、というのがそれだ。管理職は部下を幸せになどできない。なぜなら当の自分たちがあまりにもみじめで辛い気持ちで働いているからだ。
人がやりたくもないことをやるように仕向ける。これが管理職の全てだ。ゆえに管理職というのは、不可能とは言わないまでも、困難きわまりない仕事なのだ。出社は早く、帰宅は遅い。管理職の仕事はいつまでも終わらない。やるべきことは次から次へ、そしてまた次へと押し寄せてくる。管理職とは、嫌われることを嫌がってはならない。管理職とは、孤独な仕事だ。愚痴を言う相手が社内に誰もいない、それが管理職なのだ。
レンシオーニ氏は広い意味では正しいかもしれないが、それ以上のものはない。広い意味とはつまり、職場でのみじめな気分を解消するには、管理職をもっとよくする必要があるという、それだけ。こう言ってみると、当たり前のように聞こえる。ではどうやったら実際に管理職はもっときちんと管理できるのか。これは難問だ。私に答えが分かるなら、ここでコラムを書いたりしていない。オフィスで働くみんなが幸せになれるよう、そういう世界を作るために一肌脱いでいるところだ。
フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(有料購読が必要な場合もあります)。
(翻訳 加藤祐子)
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