唯一の基軸通貨=ドルの時代はそろそろ最終ラップに――フィナンシャル・タイムズ
(フィナンシャル・タイムズ 2007年11月25日初出 翻訳gooニュース) ウォルフガング・ムンヒャウ
グローバル化のこの時代における為替レートについて、非常に大きな影響力をもった理論がある。しかしそれが今や、水の泡と消えようとしている。
2003年に、経済学者マイケル・ドゥーリー、ダビッド・フォルカーツ=ランダウ、ピーター・ガーバーの3氏が提唱したものは、その後「ブレトン・ウッズ2」理論として知られるようになった。これは、新興工業国は輸出主導型成長を求めて、自国通貨を安めにドルに連動(ペグ)させ、ドル・ペグで得られた収益を米国に投資しがちだという、実際の動きにもとづいた理論。後発工業国にとって米国は、よりどころであると同時に、自国製品の頼みの市場というわけだ。
米国は2006年、国内総生産(GDP)の6%以上にもなる経常赤字を記録した。これは通常ならば、過剰とされる水準だ。しかし「ブレトン・ウッズ2」理論によると、これは望ましくかつ持続可能な状態ということになる。この理論は万人に支持されているわけではない——などと言ったら、それは控えめな表現にすぎる。今になってみれば、アメリカの経常赤字拡大というこの状態は、望ましいと思っても思わなくてもどちらにしても、おそらく持続不可能だからだ。
「ブレトン・ウッズ2」理論はダメだろうという裏づけになる統計データがひとつある(もちろん、決定的なものではないが)。それはつまり、国際的な資金フローだ。今年の夏いきなり、米国に資金が還流しなくなったようなのだ。米財務省のTIC(対米証券投資状況)統計によると、今年6月末以降、外国から米国への長期証券投資ががっくり落ち込んでいる。
これがどれだけ大きな問題か把握するために、数字を並べてみる。外国の対米証券投資と、米国の対外証券投資の差は、2005年では毎月平均700億ドル程度で、2006年にはもう少し増えていた。今年6月の時点でも、米国への証券投資の方が999億ドルも多かったのだが、7月になるとこれが急にプラス195億ドルに激減。8月にはマイナス706億ドルにまで落ち込み、9月にプラス264億ドルにまで回復した。
米国の経常赤字を2006年レベルで維持するには少なくとも2005年や2006年並みの証券投資差額が必要だということになると(数十億ドル程度の幅はあったとしても)、そういう視点から見ると、この急激な対米証券投資の減少は、大きな構造的シフトに見えてくる。
米国の資本黒字が減っているということは、つまり理論的には、経常赤字が減っているはずだ。しかしそれはつまり、「ブレトン・ウッズ2」システムが本来あるべき形で機能していないということになる。
「ブレトン・ウッズ2」は時には、巨大な資金洗浄カルテルに見えなくもない。君が僕の商品を買ってくれれば、代わりに僕は君に融資の形でその代金を返すよ——という仕組みと似ている。マクロ経済レベルで詐欺が行われていたわけで、どうりで信用市場が暴落すると同時に、この仕組みも破綻したわけだ。
とすると次は何がくるのか? 世界的な通貨レジームというのは、長期的サイクルでめぐってくるものだ。固定相場制と変動相場制はこれまでも、驚くほど規則的に、交互に入れ替わってきた。
ブレトン・ウッズ体制が終了した後、しばらくは変動相場制が続いた。欧州はその中で、為替相場メカニズムを経由して、通貨統合への長い道のりを歩み、その結果30年後には、自由に変動する単一通貨を実現した。ということは、ブレトン・ウッズ2の後には何が続くのだろう?
2つのシナリオが思いつく。1つは、ドルの世界的な独占状態はこれからドルとユーロの2本だてになるという展開だ。この転換がいつになるのか、タイミングを予測するのは不可能だ。各国が次第次第にドル・ペグから通貨バスケット制に乗り換えるに伴い、外貨準備のポートフォリオを同時に変更していくだろう。
各国がドル・ペグからの乗り換えを希望するのは、何よりも、インフレの輸入を恐れるからだ。ドル切り下げのおかげですでに中国や湾岸協力会議(GCC)の6カ国では、これが現実の問題となっている。最近では、たとえばアラブ首長国連邦などがドル・ペグを廃止しそうだという兆候が、複数の国で相次いでいる。
もちろん実際にそういう事態になれば、ドルは確実にさらに下落するし、それを機に次々とドル・ペグを止める国が出るかもしれない。「ブレトン・ウッズ2」がバラバラと無秩序に、ガタガタに崩れて行く状況を想像するのは、決して難しくない。
もう1つのシナリオ、少なくとも論理的に可能な展開は、地域的な為替レート・レジームの発生だ。これはたとえば、最初のブレトン・ウッズ体制の後に欧州で展開したことと同じだ。これまでも既に長いこと、アジア通貨統合が話題にされてはきたが、具体的な前進はほとんどない。
いずれにしても、ドルが世界唯一の基軸通貨だった時代は、そろそろ最終ラップに入りつつある。新時代がどうなるか、まだ良くは分かっていない。しかし「ブレトン・ウッズ3」にはならないだろうということくらいは、言ってもいいのかもしれない。
フィナンシャル・タイムズの本サイトFT.comの英文記事はこちら(登録が必要な場合もあります)。
グローバル化のこの時代における為替レートについて、非常に大きな影響力をもった理論がある。しかしそれが今や、水の泡と消えようとしている。
2003年に、経済学者マイケル・ドゥーリー、ダビッド・フォルカーツ=ランダウ、ピーター・ガーバーの3氏が提唱したものは、その後「ブレトン・ウッズ2」理論として知られるようになった。これは、新興工業国は輸出主導型成長を求めて、自国通貨を安めにドルに連動(ペグ)させ、ドル・ペグで得られた収益を米国に投資しがちだという、実際の動きにもとづいた理論。後発工業国にとって米国は、よりどころであると同時に、自国製品の頼みの市場というわけだ。
米国は2006年、国内総生産(GDP)の6%以上にもなる経常赤字を記録した。これは通常ならば、過剰とされる水準だ。しかし「ブレトン・ウッズ2」理論によると、これは望ましくかつ持続可能な状態ということになる。この理論は万人に支持されているわけではない——などと言ったら、それは控えめな表現にすぎる。今になってみれば、アメリカの経常赤字拡大というこの状態は、望ましいと思っても思わなくてもどちらにしても、おそらく持続不可能だからだ。
「ブレトン・ウッズ2」理論はダメだろうという裏づけになる統計データがひとつある(もちろん、決定的なものではないが)。それはつまり、国際的な資金フローだ。今年の夏いきなり、米国に資金が還流しなくなったようなのだ。米財務省のTIC(対米証券投資状況)統計によると、今年6月末以降、外国から米国への長期証券投資ががっくり落ち込んでいる。
これがどれだけ大きな問題か把握するために、数字を並べてみる。外国の対米証券投資と、米国の対外証券投資の差は、2005年では毎月平均700億ドル程度で、2006年にはもう少し増えていた。今年6月の時点でも、米国への証券投資の方が999億ドルも多かったのだが、7月になるとこれが急にプラス195億ドルに激減。8月にはマイナス706億ドルにまで落ち込み、9月にプラス264億ドルにまで回復した。
米国の経常赤字を2006年レベルで維持するには少なくとも2005年や2006年並みの証券投資差額が必要だということになると(数十億ドル程度の幅はあったとしても)、そういう視点から見ると、この急激な対米証券投資の減少は、大きな構造的シフトに見えてくる。
米国の資本黒字が減っているということは、つまり理論的には、経常赤字が減っているはずだ。しかしそれはつまり、「ブレトン・ウッズ2」システムが本来あるべき形で機能していないということになる。
「ブレトン・ウッズ2」は時には、巨大な資金洗浄カルテルに見えなくもない。君が僕の商品を買ってくれれば、代わりに僕は君に融資の形でその代金を返すよ——という仕組みと似ている。マクロ経済レベルで詐欺が行われていたわけで、どうりで信用市場が暴落すると同時に、この仕組みも破綻したわけだ。
とすると次は何がくるのか? 世界的な通貨レジームというのは、長期的サイクルでめぐってくるものだ。固定相場制と変動相場制はこれまでも、驚くほど規則的に、交互に入れ替わってきた。
ブレトン・ウッズ体制が終了した後、しばらくは変動相場制が続いた。欧州はその中で、為替相場メカニズムを経由して、通貨統合への長い道のりを歩み、その結果30年後には、自由に変動する単一通貨を実現した。ということは、ブレトン・ウッズ2の後には何が続くのだろう?
2つのシナリオが思いつく。1つは、ドルの世界的な独占状態はこれからドルとユーロの2本だてになるという展開だ。この転換がいつになるのか、タイミングを予測するのは不可能だ。各国が次第次第にドル・ペグから通貨バスケット制に乗り換えるに伴い、外貨準備のポートフォリオを同時に変更していくだろう。
各国がドル・ペグからの乗り換えを希望するのは、何よりも、インフレの輸入を恐れるからだ。ドル切り下げのおかげですでに中国や湾岸協力会議(GCC)の6カ国では、これが現実の問題となっている。最近では、たとえばアラブ首長国連邦などがドル・ペグを廃止しそうだという兆候が、複数の国で相次いでいる。
もちろん実際にそういう事態になれば、ドルは確実にさらに下落するし、それを機に次々とドル・ペグを止める国が出るかもしれない。「ブレトン・ウッズ2」がバラバラと無秩序に、ガタガタに崩れて行く状況を想像するのは、決して難しくない。
もう1つのシナリオ、少なくとも論理的に可能な展開は、地域的な為替レート・レジームの発生だ。これはたとえば、最初のブレトン・ウッズ体制の後に欧州で展開したことと同じだ。これまでも既に長いこと、アジア通貨統合が話題にされてはきたが、具体的な前進はほとんどない。
いずれにしても、ドルが世界唯一の基軸通貨だった時代は、そろそろ最終ラップに入りつつある。新時代がどうなるか、まだ良くは分かっていない。しかし「ブレトン・ウッズ3」にはならないだろうということくらいは、言ってもいいのかもしれない。
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(翻訳 加藤祐子)
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