米国政治をデザインしなおすチャンス――フィナンシャル・タイムズ
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(フィナンシャル・タイムズ 2008年2月7日 翻訳gooニュース) フィリップ・スティーブンズ
私たちは時に、当たり前すぎることを見逃しがちだ。ご他聞にもれず私も今週、ヒラリー・クリントンとバラク・オバマの対決に夢中になっていた。スーパー・チューズデーの翌朝、ワシントンで目を覚ました時点では、オバマ氏が圧倒優位になったはずだと確信していた。しかし昼の時点ですでに、クリントン氏の持久力が今回は勝利の決め手になったと情勢が判明。夕食の席では、どちらが勝つかコイン占いが仲間内で始まっていた。しかしその後にクリントン氏の資金難が報道されて、再び「オバマ優位」説が復活したのだ。
めまぐるしい展開にワクワクするあまり見落とされがちだが、米国では今、政治風景そのものに目覚しい変化が訪れている。民主党候補の指名争いを別の視点から見てみるといい。第44代大統領になる可能性が一番高い立場に立つのは、女性かアフリカ系なのだ。言い換えてみようか。来年1月の大統領就任演説をするのはおそらく、女性か、それともアフリカ系アメリカ人なのだ。
最終的にクリントン氏とオバマ氏のどちらが民主党候補になるにせよ、今のこの予備選を通じて、変化が起きている。アメリカが自分自身をどう見ているか。そして世界が、アメリカをどう見るか。オバマ氏とクリントン氏のどちらかがホワイトハウス入りすれば、アメリカは今までとは違う国になる。何とも意外なこの展開は、もうすでにそれほど意外ではなくなっている。それが実に、なんというか、意外なのだ。
夏の党大会が終って本選への戦いが始まれば、性別と人種は間違いなく争点になるだろう。クリントン氏が予備選でオバマ氏よりも多く、女性票・白人票・ヒスパニック票を獲得しているというそのこと自体(そしてオバマ氏は男性と黒人の間で支持を伸ばしている)、昔ながらの偏見や贔屓(ひいき)意識は消えていないことの表れだ。黒人差別の亡霊を呼び起こしたのはよりによってほかでもない、ビル・クリントン氏だった。クリントン前大統領は、サウスカロライナ予備選でオバマ氏が多くの黒人票を獲得して圧勝したことについて、奥歯にものがはさまったような言い方で何かイヤなことを示唆したのだ (訳注 ビル・クリントン氏は同州予備選で84年と88年に黒人指導者ジェシー・ジャクソン師が勝利したことに言及し、「ジャクソンも2度勝ったし、同じくらいオバマもよくやった」とコメント。ジャクソン師は指名獲得しなかったし、両年の選挙で最終的に勝ったのは共和党)。
とは言いつつも、白人男性の牙城はとっくに決壊している。今後もし万が一、何かがあって、民主党候補が11月の本選で共和党候補を前につまずいたとしても、牙城の壁が修復されることはどう考えてもありえないだろう。
米政治の常識変化は、共和党にも大きく影響している。ジョン・マケインが共和党の指名獲得に向けて最有力候補として浮上するのは広く予想されていたが、それでも政治的な激震だったことには変わりはない。
共和党の「変人」、独立独行のマケイン氏は、ここ数年の激しい党派対立に辟易としている米国において、もっとも当選しやすい共和党候補だ。全ての大統領候補について、米国民はその人格や人間性を見定めるものだが、信念の政治家と評価されているマケイン氏は、人格審査は無事通過する。ジョージ・W・ブッシュと仲良しすぎる、という批判は、マケイン氏にはあてはまらない。
民主党候補たちが戦い続けている間に、マケイン氏が候補指名を確実にできれば(民主党の2人は8月末にデンバーで開かれる党大会まで戦い続ける可能性さえある)、マケイン氏は共和党内の一致団結づくりに時間とエネルギーをかけることができる。
共和党の展望を楽観視しすぎると、もっと大々的な変化が起きているのを見落としてしまう。8年前にブッシュ大統領のホワイトハウス入りを実現した保守連合は、崩れつつある。マケイン氏の成功は、その分裂をくっきり具体的な形にしたものだ。いくらベトナム戦争の英雄でイラク戦争の熱心な支持者だったとしても、マケイン氏の政治姿勢は多くの「保守」の逆鱗に触れるのだ。保守系のラジオ・パーソナリティはマケイン氏が共和党イデオロギーを犯したとして大騒ぎするが、マケイン氏にいらだつ保守層はラジオ・パーソナリティよりもずっとたくさんいる。
マケイン氏が予備選でミット・ロムニーやマイク・ハッカビーに勝てたのは、共和党の穏健保守と無党派層に支持されているからだ。党大会に南部州からやってくる彼の支持者は、ほとんどいない。米国の保守王国は、マケイン氏が減税に反対し、選挙資金規正強化に尽力し、不法移民の権利認定を支持したことを、まだ許していないのだ。
少し話がずれるが、ここで政治の世界における新しい法則を提案してみたくなる。つまり政党の覇権とは、その政党の覇権力が恒久的だと宣言された瞬間から、失われていくものだと。
英国でマーガレット・サッチャー率いる保守党がどういう目に遭ったか、私はよく覚えている。サッチャー元首相が失墜する直前まで、保守党はサッチャー氏のおかげで権力を完全掌握したというのが当時の「常識」だった。しかし保守党はその後、3度の総選挙で立て続けに大敗したのだ。
わずか3年前、共和党も同じくらい傲岸不遜な高揚感にとらわれていた。ブッシュ氏の選挙参謀、カール・ローブは、不滅の圧倒多数をまとめあげた政治戦略家として絶賛されていた。ローブ氏の魅惑的な理論によると、アメリカはそもそも文化として保守の国家なのだというのだ。ゆえにブッシュ氏の党はただ、支持基盤を活気づけて、そのほかのグループもひとつふたつ巻き込めば、圧倒多数は確実だと、ローブ氏は言った。
その戦略は今やずたずたで、一時的に利益を得た人(つまりブッシュ氏)は今や自分の党内から、まるでいないかのように扱われている。大統領の支持率は、最低のそのまた下にまで下落。アメリカの有権者の4分の3以上が、政治の方向転換を求めていると答えている。故にマケイン氏は計算した上で、共和党の穏健保守と無党派層に支持を呼びかけているのだ。
しかしだからこそ、共和党の本当の保守層はマケイン氏に怒り、いきり立っている。マケイン氏は彼らに自分たちの無力ぶりを見せつける、象徴的な存在だからだ。仮に彼が11月、あらゆる予測を打ち破って大統領に選ばれるとするなら、それはマケイン氏独自の支持基盤が彼を支持したからで、共和党保守が彼を支持したからではあり得ない。
このイデオロギー対立のせいで共和党は今後何十年も、野をさまようことになるだろうと予言する人たちもいる。マケイン氏を批判する保守論客たちが、「マケインが共和党代表としてホワイトハウス入りするくらいなら、クリントンに投票する」などと公言しているのを聞くたびに、なるほどそうかもしれないと納得する。しかし現時点で未来の政治的風景を断定するのは、かつてローブ氏を政治戦略の天才だと崇めたと同じくらい、馬鹿げたことに違いない。
民主党内のレースももちろん、民主党ならではの分裂を浮き彫りにしている。しかもそれは上記したような人種や性別の分裂を、さらに超えたものだ。たとえばクリントン氏は、60歳以上の世代は自分の支持層だと言うし、20代はオバマ氏の支持層だと言われている。クリントン氏がニュージャージーなどで勝ったのは、ブルーカラー労働者の支持があったからだし、オバマ氏はコネチカット州の若いリベラル富裕層をつかんでいる。
ただ共和党の内紛と違うのは、民主党のこうした分裂には、イデオロギーがらみの陰湿さや根深い憎悪がないことだ。これからさらに何カ月も地べたに張り付いて党内で消耗戦を続けるのは、民主党にとって決して良いことではないが、いざ候補が決まれば、全ての民主党支持者が一致団結してそのひとりの候補を全面的に支持することは、十分可能だ。その妨げとなるものは何もない。
こうした一連のことが意味するのはつまり、民主党はただ大統領の地位を奪還する以上の、もっと大きな、このさき何世代にも波及するようなチャンスを前にしているということだ。共和党が混乱状態にある今、民主党は、米国政治の輪郭そのものをデザインしなおすチャンスを手にしているのだ。しかし何もしなくても、自然とそうなるというわけではない。想像力をはばたかせる必要がある。野心と、国中を興奮に巻き込む力。そして医療保険システムを立て直す計画も必要だ。そしてまさにそこに、オバマ氏の強みがあるのだ。
私たちは時に、当たり前すぎることを見逃しがちだ。ご他聞にもれず私も今週、ヒラリー・クリントンとバラク・オバマの対決に夢中になっていた。スーパー・チューズデーの翌朝、ワシントンで目を覚ました時点では、オバマ氏が圧倒優位になったはずだと確信していた。しかし昼の時点ですでに、クリントン氏の持久力が今回は勝利の決め手になったと情勢が判明。夕食の席では、どちらが勝つかコイン占いが仲間内で始まっていた。しかしその後にクリントン氏の資金難が報道されて、再び「オバマ優位」説が復活したのだ。
めまぐるしい展開にワクワクするあまり見落とされがちだが、米国では今、政治風景そのものに目覚しい変化が訪れている。民主党候補の指名争いを別の視点から見てみるといい。第44代大統領になる可能性が一番高い立場に立つのは、女性かアフリカ系なのだ。言い換えてみようか。来年1月の大統領就任演説をするのはおそらく、女性か、それともアフリカ系アメリカ人なのだ。
最終的にクリントン氏とオバマ氏のどちらが民主党候補になるにせよ、今のこの予備選を通じて、変化が起きている。アメリカが自分自身をどう見ているか。そして世界が、アメリカをどう見るか。オバマ氏とクリントン氏のどちらかがホワイトハウス入りすれば、アメリカは今までとは違う国になる。何とも意外なこの展開は、もうすでにそれほど意外ではなくなっている。それが実に、なんというか、意外なのだ。
夏の党大会が終って本選への戦いが始まれば、性別と人種は間違いなく争点になるだろう。クリントン氏が予備選でオバマ氏よりも多く、女性票・白人票・ヒスパニック票を獲得しているというそのこと自体(そしてオバマ氏は男性と黒人の間で支持を伸ばしている)、昔ながらの偏見や贔屓(ひいき)意識は消えていないことの表れだ。黒人差別の亡霊を呼び起こしたのはよりによってほかでもない、ビル・クリントン氏だった。クリントン前大統領は、サウスカロライナ予備選でオバマ氏が多くの黒人票を獲得して圧勝したことについて、奥歯にものがはさまったような言い方で何かイヤなことを示唆したのだ (訳注 ビル・クリントン氏は同州予備選で84年と88年に黒人指導者ジェシー・ジャクソン師が勝利したことに言及し、「ジャクソンも2度勝ったし、同じくらいオバマもよくやった」とコメント。ジャクソン師は指名獲得しなかったし、両年の選挙で最終的に勝ったのは共和党)。
とは言いつつも、白人男性の牙城はとっくに決壊している。今後もし万が一、何かがあって、民主党候補が11月の本選で共和党候補を前につまずいたとしても、牙城の壁が修復されることはどう考えてもありえないだろう。
米政治の常識変化は、共和党にも大きく影響している。ジョン・マケインが共和党の指名獲得に向けて最有力候補として浮上するのは広く予想されていたが、それでも政治的な激震だったことには変わりはない。
共和党の「変人」、独立独行のマケイン氏は、ここ数年の激しい党派対立に辟易としている米国において、もっとも当選しやすい共和党候補だ。全ての大統領候補について、米国民はその人格や人間性を見定めるものだが、信念の政治家と評価されているマケイン氏は、人格審査は無事通過する。ジョージ・W・ブッシュと仲良しすぎる、という批判は、マケイン氏にはあてはまらない。
民主党候補たちが戦い続けている間に、マケイン氏が候補指名を確実にできれば(民主党の2人は8月末にデンバーで開かれる党大会まで戦い続ける可能性さえある)、マケイン氏は共和党内の一致団結づくりに時間とエネルギーをかけることができる。
共和党の展望を楽観視しすぎると、もっと大々的な変化が起きているのを見落としてしまう。8年前にブッシュ大統領のホワイトハウス入りを実現した保守連合は、崩れつつある。マケイン氏の成功は、その分裂をくっきり具体的な形にしたものだ。いくらベトナム戦争の英雄でイラク戦争の熱心な支持者だったとしても、マケイン氏の政治姿勢は多くの「保守」の逆鱗に触れるのだ。保守系のラジオ・パーソナリティはマケイン氏が共和党イデオロギーを犯したとして大騒ぎするが、マケイン氏にいらだつ保守層はラジオ・パーソナリティよりもずっとたくさんいる。
マケイン氏が予備選でミット・ロムニーやマイク・ハッカビーに勝てたのは、共和党の穏健保守と無党派層に支持されているからだ。党大会に南部州からやってくる彼の支持者は、ほとんどいない。米国の保守王国は、マケイン氏が減税に反対し、選挙資金規正強化に尽力し、不法移民の権利認定を支持したことを、まだ許していないのだ。
少し話がずれるが、ここで政治の世界における新しい法則を提案してみたくなる。つまり政党の覇権とは、その政党の覇権力が恒久的だと宣言された瞬間から、失われていくものだと。
英国でマーガレット・サッチャー率いる保守党がどういう目に遭ったか、私はよく覚えている。サッチャー元首相が失墜する直前まで、保守党はサッチャー氏のおかげで権力を完全掌握したというのが当時の「常識」だった。しかし保守党はその後、3度の総選挙で立て続けに大敗したのだ。
わずか3年前、共和党も同じくらい傲岸不遜な高揚感にとらわれていた。ブッシュ氏の選挙参謀、カール・ローブは、不滅の圧倒多数をまとめあげた政治戦略家として絶賛されていた。ローブ氏の魅惑的な理論によると、アメリカはそもそも文化として保守の国家なのだというのだ。ゆえにブッシュ氏の党はただ、支持基盤を活気づけて、そのほかのグループもひとつふたつ巻き込めば、圧倒多数は確実だと、ローブ氏は言った。
その戦略は今やずたずたで、一時的に利益を得た人(つまりブッシュ氏)は今や自分の党内から、まるでいないかのように扱われている。大統領の支持率は、最低のそのまた下にまで下落。アメリカの有権者の4分の3以上が、政治の方向転換を求めていると答えている。故にマケイン氏は計算した上で、共和党の穏健保守と無党派層に支持を呼びかけているのだ。
しかしだからこそ、共和党の本当の保守層はマケイン氏に怒り、いきり立っている。マケイン氏は彼らに自分たちの無力ぶりを見せつける、象徴的な存在だからだ。仮に彼が11月、あらゆる予測を打ち破って大統領に選ばれるとするなら、それはマケイン氏独自の支持基盤が彼を支持したからで、共和党保守が彼を支持したからではあり得ない。
このイデオロギー対立のせいで共和党は今後何十年も、野をさまようことになるだろうと予言する人たちもいる。マケイン氏を批判する保守論客たちが、「マケインが共和党代表としてホワイトハウス入りするくらいなら、クリントンに投票する」などと公言しているのを聞くたびに、なるほどそうかもしれないと納得する。しかし現時点で未来の政治的風景を断定するのは、かつてローブ氏を政治戦略の天才だと崇めたと同じくらい、馬鹿げたことに違いない。
民主党内のレースももちろん、民主党ならではの分裂を浮き彫りにしている。しかもそれは上記したような人種や性別の分裂を、さらに超えたものだ。たとえばクリントン氏は、60歳以上の世代は自分の支持層だと言うし、20代はオバマ氏の支持層だと言われている。クリントン氏がニュージャージーなどで勝ったのは、ブルーカラー労働者の支持があったからだし、オバマ氏はコネチカット州の若いリベラル富裕層をつかんでいる。
ただ共和党の内紛と違うのは、民主党のこうした分裂には、イデオロギーがらみの陰湿さや根深い憎悪がないことだ。これからさらに何カ月も地べたに張り付いて党内で消耗戦を続けるのは、民主党にとって決して良いことではないが、いざ候補が決まれば、全ての民主党支持者が一致団結してそのひとりの候補を全面的に支持することは、十分可能だ。その妨げとなるものは何もない。
こうした一連のことが意味するのはつまり、民主党はただ大統領の地位を奪還する以上の、もっと大きな、このさき何世代にも波及するようなチャンスを前にしているということだ。共和党が混乱状態にある今、民主党は、米国政治の輪郭そのものをデザインしなおすチャンスを手にしているのだ。しかし何もしなくても、自然とそうなるというわけではない。想像力をはばたかせる必要がある。野心と、国中を興奮に巻き込む力。そして医療保険システムを立て直す計画も必要だ。そしてまさにそこに、オバマ氏の強みがあるのだ。
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