鬱病治療で行われてきた認知行動療法が、今年4月から他の4つの精神疾患でも保険適用になった。中でも有病率が10人に1〜2人と高いのが「社交(社会)不安症」。気づいていない人も多く、鬱病などを併発しやすいので注意しよう。

 【性格の問題ではない】

 社交不安症を別名でいえば「あがり症」や「対人恐怖症」。大勢の人前で、緊張して話せなくなる経験は誰でもよくあること。しかし、その社会的な場面や状況に慣れることなく、強い不安や恐怖で仕事や日常生活に支障が出るのがこの病気の特徴だ。

 横浜尾上町クリニック(神奈川県)の山田和夫院長(精神科専門医)が説明する。

 「社交不安症の症状をあがりやすい性格の問題と思い込んでいる人が多いのですが、間違いです。放置していると悪化するだけでなく、長期化すると約7割の人が他の心の病気を発症するといわれます」

 特に、鬱病を含む気分障害の併発が最も多いという。

 【失敗体験がきっかけ】

 不安や恐怖を感じる場面は、別項のように人前で話すときだけとはかぎらない。緊張のあまり「強い動悸(どうき)」「息苦しい」「体の震え」「発汗」「赤面」「めまい」などの身体症状も現れる。

 原因は、その人の生まれながらの不安体質も関係するが、発症者に共通するのは思春期の頃に恥ずかしい失敗体験があることだという。

 「不安や恐怖は生きものにとって重要な防衛本能ですが、それは脳の偏桃体という部分が活性化することで生み出されます。失敗体験は海馬という部分に記憶されますが、過去の失敗体験と同じ状況下におかれると記憶が偏桃体に送られて、再び不安や恐怖がよみがえるのです」

 また、偏桃体は自律神経ともつながっており、偏桃体の興奮が交感神経を刺激することで身体症状が現れるという。

 【約9割は薬で完治】

 治療は、一般的には薬物療法が中心で、抗鬱薬の「SSRI」がメーンで使われる。SSRIには偏桃体の過敏反応を抑える作用があるという。

 「約9割の患者さんはSSRIを半年から1年飲むことで完治し、再発も起こりません。しかし、中には全般的に対人恐怖が強くて引きこもりになっている人がいます。そのような場合は認知行動療法を併用した治療が必要になってきます」

 精神療法の1つである認知行動療法は、思い込みの偏りを修正したり、あえて苦手な状況に身をおいたりさせる。従来の診療でも短時間の認知行動療法は行われてきた。今回、保険適用になった認知行動療法は、医師の研修が必要だったり、診療時間に1時間ほどかけるなどの条件がある。いまのところ保険を使った認知行動療法を行っている施設はごく一部に限られるという。

 《社交不安症の主な種類》 ★スピーチ恐怖=人前で話すのが怖い、緊張する ★書痙(しょけい)=人前で字を書いたり、人にお茶を出すときに手が震える ★電話恐怖=知らない相手に電話をしたり、電話に出るのが怖い ★会食恐怖=会食やパーティーに出るのが苦痛 ★トイレ恐怖=公衆トイレで並ばられると小便が出にくい。個室が恥ずかしい