一見誰得? って突っ込みたくなるけど、実は…。

2016年のイグノーベル賞受賞者が発表されました。日本では「股のぞき」の仕組みを解明した日本人研究者の受賞が話題ですね。他にも「なぜそれを?」と思うような、でも聞いてみて、見てみて、なんだか納得してしまう研究や作品がそろっています。

イグ・ノーベル賞の目的は、「人を笑わせ、考えさせる研究活動」をたたえることにあります。今回受賞した10の研究や作品、活動も、ネズミにズボンをはかせるとか、石の性格調査とか、笑いを取りに来ているのか? と思わせるものがあります。でもよくよく見ると、じつはちゃんとした意図と斬新なアイデアがあって成り立っているんです。

というわけで、以下それぞれの受賞者をご紹介していきます!


生殖賞:衣服の素材の生殖能力への影響

2007年に亡くなったエジプトのカイロ大学のAhmed Shafik教授は、ポリエステルと綿、羊毛それぞれでできたパンツをネズミにはかせ、素材の違いによる生殖能力への影響を分析していました。

同様の実験は人間に対しても行なわれ、その結果ポリエステル製の下着を長期間着用することで男性が無精子症になり、着用をやめるとまた精子が復活することを実験で示しました。そして、ポリエステルによって起こる静電気と熱が無精子になる原因だと考えていました。

ただ、これがあらゆる環境で再現できるなら、男性用下着とかパンツ・ズボン類からポリエステルが一掃されてしまいそうですが、今もポリエステルはあらゆる衣服に使われています。オーストラリアの男性器を専門とする生理学者のSarah Meachem氏もポリエステルへの懸念を示していますが、これを証明するデータがないこと、ポリエステル製下着が流行した70年代・80年代に人間の生殖活動が特に下がったわけではないことを指摘しています。Shafik氏のオリジナル過ぎる研究は、オリジナル過ぎて誰にも引き継がれなかったのかもしれません。


経済学賞:石のパーソナリティの分析

ニュージーランドのマッシー大学のMark Avis氏のチームは、人がいろいろなタイプの石を見てどんな印象を持つかを調査しました。それを調べて何になるかっていうと、Avis氏のチームが石の印象を記述するのに使ったのは、企業や商品のブランドを人間になぞらえて「明るい」とか「知的」といったパーソナリティで表現する「ブランド・パーソナリティ」というフレームワークなんです。ブランド・パーソナリティは1997年にJennifer Aaker氏が提唱したもので、その後多くの企業や研究機関で取り入れられています。

Avis氏は実験参加者225人に異なる石の絵3枚を見せて、その石が「明るい」とか「知的」とかに「あてはまる」「非常にあてはまる」みたいな5段階評価をさせました。そして参加者のほとんどは、すべての石に何らかのパーソナリティを見出していました。

しかし、もともと何の性格もなにもない石に対してパーソナリティを見出したのは、つまりは被験者がその場でイメージを投影していたってことなんですよね。Avis氏たちは、これと同じことが一般のブランド・パーソナリティ調査でも起こっているのではないかと考えているんです。今まで企業がお金や時間をかけて調査して「うちのブランドはこんなイメージを持たれている」と考えていたとしても、その調査への回答は単なる思いつきレベルかもしれないってことで、けっこう大きな問題提起じゃないでしょうか。


物理学賞:白と黒と虫たちの関係

ハンガリーのエトヴォス大学の生物物理学者であるGabor Horvath氏のチームは、ふたつの研究でこの賞を受賞しました。ひとつは、白い馬がアブに刺されにくい仕組みの解明です。そのチームの論文によれば、アブは動物から反射される偏光を元に刺す相手を探しているそうです。そして、白い馬は偏光を発しにくいので、アブに刺されにくいというわけです。

もうひとつの研究は、トンボが黒い墓石に吸い寄せられていく習性に関するものです。トンボは水のある場所を好む習性があって、それを検知するのにもやっぱり偏光を利用しているそうです。で、黒い墓石と水の偏光が似ているので、トンボが集まってくるんだとか。


化学賞:自動車の排気ガス対策

こちらは皮肉の授賞です。フォルクスワーゲンは、排気ガス問題へのオリジナリティあふれる回答として、テストのときだけ排気ガスが少なくなるソフトウェアを車に仕込んでいました。誰得?となるものが多いイグノーベル賞ですが、この発明で(一時的にだけど)得した人は誰だかはっきりしてますね。

ちなみにフォルクスワーゲンは、受賞式には参加しなかったそうです。


医学賞:左腕を掻いて右腕のかゆみを静める方法

ドイツのリューベック大学の神経学者のChristoph Helmchen氏のチームは、かゆみを軽減する画期的な方法を発見しました。右腕にかゆみを感じている人の左腕を鏡に映し、あたかも右腕が掻かれているかのような見え方で左腕を掻くと、右腕のかゆみがおさまったんです。

論文の概要にも書かれていますが、かゆい部分を直接掻かなくてもかゆくなくなるってことは、掻きこわしを防いだり、ギプスなどで覆われた部分のかゆみを低減したりするために有効かもしれません。これからの発展に期待です。


生物学賞:野生動物になりきる

こちらはふたりの合同受賞です。ひとりはCharles Foster氏。彼はこの1年ほどかけて、アナグマやカワウソ、シカ、キツネなどの野生動物になりきって、イギリスの自然の中で生活していたそうです。その生活の様子や発見などは、「Being a Beast(直訳:獣であるということ)」という書籍にまとめられました。

もうひとりは Thomas Thwaites氏。彼はヤギの外骨格を作って装着し、ヤギの群れに混ざって生活しました。ヤギみたいに草を食べられるように、人工の胃も作ったそうです。その体験は「GoatMan: How I Took a Holiday from Being Human(直訳:ヤギ男:私がいかに人間であることを休んだか)」に書かれています。


心理学賞:年代によるウソつき能力・頻度の違い

オランダのアムステルダム大学の准教授Bruno Verschuere氏のチームは、どの年代がどの程度ウソつきかをマッピングする実験を行ないました。6歳から77歳の1,005人を対象に、どれくらいの頻度でウソをつくか質問し、また時間内にウソをつく問題を解かせたのです。その結果、ウソをつく能力や頻度は幼児期に向上して思春期にピークを迎え、大人になるとともに減衰していくという結果が出ました。

つまり、人は大人になるほど正直になるってことでしょうか? そう言うとウイスキーか何かの広告コピーみたいでカッコいいんですが、逆に大人になるほどウソがうまくなって、この調査にもウソで答えているって可能性はないんでしょうか? 気になります。


平和賞:でたらめの研究

カナダのウォータールー大学のGordon Pennycook氏のチームは、「重大ぶったでたらめの受け取りと検知について(On the reception and detection of pseudo-profound bullshit)」なる研究をまとめました。ここでいうでたらめとは、「ウソ」というよりも、事実かどうかはさておきとにかくすごそうに聞こえる口からでまかせの言葉、ということです。

Pennycook氏たちは実験参加者に「Hidden meaning transforms unparalleled abstract beauty(隠された意味が、比類なき抽象的な美を変身させる)」「Wholeness quiets infinite phenomena(完全性は無限の事象を静める)」といった、一見すごそうな、でもでたらめな文を読んでもらいました。被験者はそれらの文ひとつずつに対し「とても重大な意味がある」「全然意味がない」などの5段階で評価しました。

その結果、でたらめを信じやすい人とそうでない人がいることがわかりました。…って、当たり前じゃ! と思われるかもしれませんが、論文の中でも言われているように、でたらめの受け取られ方のちゃんとした研究はこれが初めてなんです。ネットの普及でデマや釣りが氾濫している今、この研究は貴重な第一歩なんじゃないでしょうか。


文学賞:ハエを集める喜び

スウェーデンの中の小さな島に住む著述家でアマチュア昆虫学者のFredrik Sjöberg氏は、ハエを収集する喜びを3部作の自叙伝にまとめました。それは「En Flugsamlares Vag(訳:ハエ収集家の道)」と題され、第1部は「The Fly Trap(ハエ取りトラップ)」というタイトルの英訳版も出ています。

なんてマニアックな…と思いきや、スウェーデンでは2004年に出版されてヒット作となり、英語だけじゃなくドイツ語やフランス語、ロシア語などにも翻訳されているそうです。


知覚賞:股のぞき効果

立命館大学の東山篤規教授のチームは、上半身をかがめて股の間から逆さにものを見る「股のぞき」をするとものの見え方が変化する仕組みについて研究しました。学生30人を対象にした実験で、15人は股のぞき、15人は直立した状態で遠くにある板を見て、その大きさや距離を推定しました。

その結果、股のぞきをしたグループでは板がより小さく見え、距離はやや近くに見えていました。さらに検証のため、視野が180度反転して見えるメガネをかけた場合には、大きさや距離の見え方には影響がありませんでした。

VRヘッドセットで非現実の世界に入らなくても、股のぞきするだけで現実がいつもと違う見え方になるんですね。人間の体や感覚の不思議さに、改めて気付かされます。


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以上、オリジナリティあふれる受賞者たちでした。イグノーベル賞受賞者は、自薦・他薦で寄せられた研究や作品、商品などを対象に「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる」かどうかを基準に決められます。ノーベル賞と違って「心理学賞」とか「知覚賞」みたいな新たな賞もフレキシブルに創設されています。もしかしたら身近なところにも、イグノーベル賞級の誰か、何かが隠れているのかも。


image by Ollyy/Shutterstock
source: Improbable ResearchPubMed.govIBtimesSage journalsRoyal Society PublishingWiley Online LibraryPLOS ONEBeing a BeastGoatMan: How I Took a Holiday from Being HumanScience directJudgement and Dicision MakingThe Fly Trap立命館大学

Jennifer Ouellette - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)