小さな小さな分子マシン。

今年のノーベル化学賞は、分子マシンの研究開発を行なう科学者3人が受賞しました。分子マシンは人間の髪の毛の幅わずか千分の一という大きさ。今後、工業から医療と、多くの分野での革新的な活躍が期待されています。

ノーベル化学賞を受賞したのは、フランスのストラスブール大学のジャン=ピエール・ソバージュ氏、アメリカはイリノイ州にあるノースウェスタン大学のジェームス・フレーザー・ストッダート氏、そしてオランダのフローニンゲン大学のバーナード・フェリンガ氏の3人。



科学の世界において、分子ナノテクノロジーは比較的若い研究分野です。しかし、今回、この分野の先駆者である3人のノーベル賞受賞が決まったことで、スウェーデン王立科学アカデミーが、いかにそのポテンシャルに期待をよせているかがうかがえます。

1965年にノーベル物理学賞を受賞したアメリカの物理学者リチャード・P・ファインマン氏は、1959年に行なわれた講義の中でナノテクノロジーという概念を打ち出しました。ファインマン氏は、その時すでに、個々の原子を直接操作できるという世界をみていたのです。そして1986年、工学者K・エリック・ドレクスラー氏が提唱した形状を変えるスマートマテリアル、体内で投薬を可能にする極小マシンなどのアイデアによって、分子ナノテクノロジーの可能性はさらに世の中に広まっていきました。

しかし、セオリーはセオリー。それが実現できるかどうかは、また別の問題であり、それこそが今回3人の科学者の研究が注目される大きな理由です。今回のノーベル賞は、動きを制御できる分子の開発、刺激を加えることで特定のタスクをこなすことができる極小端末の開発が評価されました。

フランスのソバージュ氏が研究で大きく前進したのは1983年、2つの輪っか状の分子をチェーンのように繋げることに成功したことです。この特別な形をした分子は「Catenane(カテナン)」と呼ばれており、日本人にとっては知恵の輪のような形とでもいいましょうか。通常、分子は電子を共有する「共有結合」という結びつき方をします。しかし、ソバージュ氏の知恵の輪チェーンは、柔軟性のある「機械的結合」をします。素人にはこ難しい話ではありますが、つまりは、知恵の輪チェーンは各パーツが自由に動くことができるのがすごいということ。

その8年後、アメリカのストッダート氏が「Rotaxane(ロタキサン)」と呼ばれる分子結合を開発しました。これは輪っか状の分子の中に車軸を突き刺したような結合(ドーナツの穴にダンベルをぶっ挿したような形)をしており、この車軸は自由に動くことができます。ロタキサンのこの奇妙ともいえる仕掛けは、ナノテクノロジー界にて、「分子エレベーター」や「分子筋肉」など、大きなブレークスルーとなりました。



1999年、オランダのフェリンガ氏は同方向に連続的に回転する「分子ローター」を開発しました。ある実験では、モーターそのものよりも1万倍もあるガラスシリンダーを回転させることに成功しました。また、フェリンガ氏は、1つの分子で作られた世界最小の四輪駆動車こと「ナノカー」の発明者でもあります。

これらの革新的な開発は、非常に複雑な分子マシンの進化に大きく影響を与えました。血管を泳ぐナノフィッシュや、原子サイズのデータストレージ、サイボーグ精子などが、まさにそれです。業界関係者の中には、ナノテクノロジーは、ロボット産業や大量自動化、人工知能などとともに新たな産業革命を牽引するという人もいます。

最先端でこれからの未来を背負う、期待が大いにつまったナノテクノロジーですが、1つマイナス面(=脅威となること)をあげるとすれば、大きな破滅を導く可能性でしょう。これは、スーパー人工知能と同じく、武器、凶器になりえたり、手がつけられないくらい状態になってしまう可能性を思うと恐ろしくはあります。…ま、今はそれはひとまず忘れ、今年のノーベル賞を祝いましょう。ナノテクノロジーにとって大きな飛躍の年なのです。


image: Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology, Nobel Prize
source: RSAS

George Dvorsky - Gizmodo US[原文]
(そうこ)