第6節バイエルン戦で見せた大迫勇也のパフォーマンスは驚きだった。それは、71分にオフサイドで取り消されたとはいえ、絶妙なタイミングで裏に抜け出しゴールネットを揺らしたからではない。マッツ・フンメルス、ハビ・マルティネスという世界的なCBを背負っては何度もボールを収め、ケルンの攻撃を引き出していたからだ。

この日大迫がパスを受けた回数は29回なのに対し、第2節で対戦したシャルケのフンテラールが11回、第4節で対戦したヘルタ・ベルリンのイビシェビッチで18回。大迫は2トップで後者2人は1トップという違いはあるが、いかに大迫がボールを引き出していたかが分かる。欧州CLで5年連続ベスト4進出を果たしているバイエルンの守備陣を相手にここまでボールを収められるFWはブンデスリーガでもほとんどいないだろう。

ただ、この日本人ストライカーはバイエルン戦のパフォーマンスを淡々と振り返った。

「まあ、2トップでやれればやれる自信はありますからね。キープはできますけど、そこからもっと前に、相手に怖さを与えていかないと」

王者相手にボールを収めるだけでは満足しない。大迫が見据えているのはもっと先だった。

その自信も十分に頷けるほど今季の大迫は好調だ。ベンチスタートとなった開幕戦以降は2トップとして先発に定着しており、コンビを組むアントニー・モデストと並んでチームに欠かせない存在になっている。

第3節フライブルク戦で今季初アシストを記録すると、翌シャルケ戦ではエリア外から強烈なミドルシュートを突き刺して今季初得点をマーク。続くライプツィヒ戦では左足でニアハイを撃ち抜いて2試合連続ゴールを決めてみせた。さらに代表ウィーク明けの第7節インゴルシュタット戦ではスルーパス&PK獲得で2アシストをマークし、好調が一刻のものではないことを証明している。開幕7試合で2ゴール3アシスト。昨季25試合でマークした1ゴール1アシストという結果をすでに上回った。

■なぜ、大迫の良さが発揮されるようになったのか

専門誌『キッカー』は、大迫が結果を残し始めると「才能がついに開花」という見出しで報じた。昨季はほとんど結果を残せなかった選手がこれだけのパフォーマンスを見せているのだから地元メディアが驚くのももっともだ。一体、大迫に何が起きたのだろうか?確かに、現在の大迫には自信が満ち溢れているし、1つ1つのプレーからも好調さが容易に伺える。ただ、今季に入って大迫に大きな変化が起きたかというとそれも違う。むしろ、大迫の見せているプレーの本質は以前と変わっておらず、周囲が大迫の良さを引き出せるようになってきたように映るのだ。

代表ウィークもケルンに残って練習に励む大迫にそんな疑問をぶつけてみた。

「チームメイトとうまくコミュニケーションも取れてきているし、僕のことをホントに分かってきてくれているなっていうのはあります。まずボールを預けてくれるのはスゴく助かりますね。去年の最初とかはボールを預けてもらえず、ただ走ってボールが来なくて終わるみたいなのが多かったから。今年は簡単に預けてくれるからそこは大きいかな」

やはり、大迫も今季の好調はチームメイトからボールを預けてもらえるようになったことが大きいと感じているようだ。確かに、大迫は以前から相手のマークを外してボールを受けようとするプレーを常に繰り返していたし、実際にフリーになってボールさえ来れば…というシーンも多かった。ただ、なかなか味方からボールが出てこないため、結果に繋がらなかったのだ。問題はチームメイトからの信頼と理解の不足。大迫も以前からボールを要求してこなかったわけではない。むしろ、加入当初からチームメイトに要求する姿が印象的だった。

「やっぱりそこ(チームメイトから信頼してもらってボールを集めること)は難しいんじゃないですか?日本人にとっては。やっぱり(早く)結果を出せばよかったと思っているし、そういうもんじゃないですかね」

そんなときでも大迫は変わらずにボールを引き出す動きを続けてきた。だから、いざボールを預けてもらえるようになったいま、その力を発揮できているのも納得だ。

■バイエルン相手にも通用した大迫の「基本」

大迫が絶えず相手のマークを剥がしてボールを引き出せるのにも理由がある。バイエルン戦でも、いつもは鋭い読みで相手FWが触る前にボールをカットしてしまうフンメルスやハビ・マルティネスが、大迫にタイミングを外されてキープを許してしまった。それは大迫がFWとしての基本的な動きを常にやり続けているからだ。

「ドイツでは足元で受けるよりウラを最初に狙わないと怖さが出ないというか、迫力は出ないイメージはあるかな。まずウラを狙うことが一番。そこでウラを狙い続けたら足元が空いてくるから足元で受けられる。そこは得意だからできる。まずは勢いをもってウラを狙うことを考えていますね。基本的なことだけど、しっかりしているチームこそ基本的なことが一番効いてくるので」

一見すると単純に下がってボールを受けに行っているように見える大迫だが、実はその前のアクションで相手DFのウラを狙っている。背後を突かれれば大ピンチになりかねないDFの重心は後ろに掛かり、その瞬間に下がってボールを受けに行く大迫を捕まえることはできない。まずはウラ、ダメなら足元。FWなら誰もが知っているような基本的な動きを、トップレベルでも高い質でやり続けているからこそ大迫はバイエルンを相手にボールを引き出すことができているのだ。

このところはボールを受けたら積極的にシュートを打っている大迫だが、それは単に自信が出て思い切りが良くなってきたからではないという。

「やっぱり試合になったらまずシュートを打とうとは思っているんで。遠くてもいいし、近くてもいい。打つことでDFの寄せが変わってくるのは確かだから。打ち続けたら寄せてくるから、そしたらかわせる。僕の中ではシュートを打つことでいい好循環になる。それは鹿島の時から少なからず感覚的にあるので」

ボールを持ったらまずシュート、ダメならドリブルやパス。これも言ってしまえば当たり前のことだ。だが、トップレベルで当たり前のことを当たり前にやり続けるのは簡単ではない。それができているからこそ、いま大迫は結果を残せている。

■成長へと繋がった多様なポジションでの経験

思えば、大迫はいつもやるべきことを淡々とやり続けてきた。ドイツにやってきてから様々なポジションを任され、本職のCFはもちろん、トップ下、右MF、時にはインサイドハーフを務めることもあった。CFならポストプレーを、トップ下なら組み立てを、MFなら守備も献身的にこなしてきた。大迫自身が「他のポジションでプレーすることが自分の成長に繋がる」と語っていたように、様々なポジションを経たことも、今季の好調に繋がっているのだろうか?

「そうですね。ホントにいろんなポジションをすること…やっぱFWで出続けることが一番ですけど、やっぱりこっちには身体能力がスゴい選手も多いし、そういう選手を1トップに置くチームがほとんどっていうことは自分でも分かっています。そのなかで、2トップでやった時に常にこうやろうとイメージはしていました。それがチームとして上手くハマっているから、これからもっともっと積み重ねていきたいですね」

その器用さ故に、自分が最も力を発揮できるCF以外でも淡々とプレーしてきた。チーム状況や監督の要求に応えるため、得意なプレーでなくともそのポジションで必要なタスクを忠実にこなしてきた。チームのために自らを犠牲にするその姿に、点取り屋としての矜持は失くしてしまったかのように思えたこともあった。だが様々なポジションを経て、CFとして結果を残している今、やはり自分は点取り屋だという思いに至ったのだろうか?

「うーん、どうなんですかね。自分の気持ち的にもゴール前に入るのと入らないのとでは全然違うし、点を取るのと取らないのでは一番大きな違いがありますね。自分が点を取らなかったら、何のために試合に出てるのかって思ってしまう自分がいる。やっぱり点は取ってナンボだからね」

点は取ってナンボだからね――言葉は濁しながらも、自分に言い聞かせるように口にしたこの言葉は生粋の点取り屋からしか出てこないものだった。

大迫・モデストの活躍もあり、今季のケルンは好調だ。第7節を終えた時点で、首位バイエルンと勝ち点差2の2位。この2トップがこのままゴールを量産し続ければ、チャンピオンズリーグも夢ではない。大迫の活躍でケルンはどこまで行けるのか?その冒険の行方が気になってならない。

文=山口 裕平