批判の声やブーイングはピタリと収まった。聞かれるようになったのは称賛だ。昨シーズンはわずか1ゴールに終わりながら、ここまで2ゴール、1アシストと結果を残しているケルンの大迫勇也が、地元のメディアやファンから拍手喝采を浴びている。

対照的な反応を見せているのは、ケルンのクラブ関係者たちだ。もちろん、悪いリアクションではない。普段のトレーニングなどを通じて大迫のポテンシャルに触れてきたチームメイトや首脳陣は、最近の活躍ぶりに驚くのではなく「試合でも力を出せるようになっただけ」と至って冷静だ。

ケルンU−21でGKコーチを務める田口哲雄氏(トップチームの正GKティモ・ホルンをユース時代に育て上げた指導者)の言葉を借りれば、選手たちの間に「勇也に預けておけば、ボールを失わない」という意識が芽生えたのも、最近のことではないという。

当の大迫は「2トップの一角での起用」を飛躍の理由に挙げている。たしかに、現在の4-4-2ではなく4-2-3-1が基本システムだった昨シーズンは、2列目の右サイドかトップ下での出場が多く、いわゆる器用貧乏に陥っている印象が否めなかった。

自身が“便利屋”として扱われる一方で、入団1年目のFWアントニー・モデストが本職の1トップで躍動。もう一人のライバルであるジモン・ツォラーも着実にゴールという結果を残していた状況は、大迫にとって容易に受け入れるものではなかったはずだ。

16年2月のブンデスリーガ第23節では「ホームのサポーターからのブーイングから守るため」(シュテーガー監督)に、健康体でありながらベンチメンバーから外される屈辱を味わいもした。田口氏は当時の様子をこう振り返る。

「もともと腐るような選手ではありませんし、守備に人数をかけるという昨シーズンの戦い方に理解を示していました。だから、戦術的な理由で犠牲になり自分の出番が少なくなったとしても、精神的に応えているような様子はなかったです。むしろ、やれるという確信を持っていたはずですし、実際、練習では素晴らしい部分を出せていました。彼が持つ芯の強さが、現在の飛躍につながった理由の一つかと思います」

■最高の“相棒”を得て攻撃陣の中心へ

苦しい時期を乗り越えた大迫は現在、ケルン攻撃陣をけん引する存在となっている。日増しに磨きがかかっているのが、2トップを組む“相棒”モデストとのコンビネーションだ。基本的には前線で横並びになる関係で、どちらかが下がって楔のパスを引き出せば、もう一人は裏に飛び出すという約束事を徹底している。「二人がそうしたプレーのイメージをしっかり共有できている」(田口氏)のが、2トップが機能性を高めている大きな理由だろう。

フィジカルに秀でたモデストと技巧派の大迫というキャラクター的な補完性も抜群で、二人の力でフィニッシュまで持ち込むのは珍しくない。モデストの落としを受けた大迫がシュートを放つ、あるいは大迫がディフェンダーの裏を突いたモデストにスルーパスを送るような場面は、第6節のバイエルン戦でも見受けられた。大迫とモデストは互いの特長を認め合い、良さを引き出そうとする理想的なパートナーシップを結んでいる。

「トニー(モデストの愛称)は意外と守備もやるから、僕としてもやりやすいです」

大迫がそう評するモデストはフィジカルや得点力に秀でる一方で、利他的なメンタリティーを併せ持ったストライカーだ。その点がアンソニー・ウジャーとは一線を画している。ウジャーとは大迫がケルン入団1年目に2トップを組む機会があった元同僚で、このナイジェリア人FWはゴールを奪うことに固執するばかりで、周囲を輝かせながら自分も活かそうとする意識に欠けていた。やや独りよがりだったのだ。

大迫の「本職の2トップでプレーできているゆえの好調」という言葉の裏には、ウジャーのような汎用性に乏しいタイプのFWではなく、より万能性のあるモデストと共にプレーできているという利点が隠されているだろう。

もちろん、モデスト以外のチームメイトとの意思疎通も問題ない。大迫がとりわけ信頼しているのがドイツ代表のヨナス・ヘクターで、ボランチと左サイドバックを兼任しているこのレフティーがボールを持った際に「自分が走り出せば、必ず良いボールを送ってくれる」と確信しているという。

長丁場のシーズンはまだまだ始まったばかり。少なからず調子を崩す時期は訪れるだろう。ただ、大迫の非凡なポテンシャルを目の当たりにしたファンは昨シーズンとは異なり、厳しい状況にこそ頼もしいエールを送るはずだ。チーム関係者だけでなく、サポーターの信頼も手に入れた日本人ストライカーが、開幕から6試合無敗の好調を維持する名門を力強くけん引していく。

文=遠藤孝輔