メスタージャに漂う難破船は、ここ数年で何隻目になっただろうか。

守備の崩壊、攻撃陣の破綻、統制の取れないチーム……。数々の難題を解決するために、チェーザレ・プランデッリはバレンシアにやってきた。オーナーのピーター・リンを始めとする首脳陣は何度も検討を重ね、幾多の荒波を乗り越えてきた経験豊かなイタリア人を新たな船長に選んだ。

いつも正しい方向に舵を切れるわけではない。フットボールという大海原は気分屋だ。何もしなくても順調な航海を送れることはある。一方でどんなに対策を講じても抗うことのできない荒波に襲われることもある。何が起こるか予測することは、極めて困難だ。

もっとも、現時点でプランデッリが、ガリー・ネビルやパコ・アジェスタランより期待できるのは明らかろう。リンは何度かの急旋回を経て、ようやく誰に舵取り役を任せるべきに気づいたらしい。

オルツィヌオーヴォ出身のイタリアーノはトップカテゴリーの公式戦で約550試合を指揮してきた。フィオレンティーナで一時代を築き、母国の代表監督まで務めている。結果としてワールドカップではグループリーグ敗退に終わったものの、攻撃的な戦術を用いてアッズーリに改革を施した手腕は確かなものだ。

■プランデッリがバレンシアにもたらすもの

フィオレンティーナやイタリア代表で見せた魅力的なフットボールが、バレンシアにやってくる。イタリアの典型的なカテナチオからかけ離れたフットボールの哲学が、メスタージャにもたらされるのだ。

2012年のイタリア代表がそうだったように、彼は攻撃を組み立てられるプレーヤーを中盤に組み込むことを好む。あのときはアンドレア・ピルロが航海士の役割を担った。バレンシアにはダニエレ・ポレホがいる。彼ならピルロの、指揮官が求める役割をこなせるはずだ。

ただし、浮かれてばかりはいられない。バレンシアの航海はもう始まっている。出向前のような悠長な会話は許されないのだ。目の前に広がる海原は荒れに荒れている。

まず着手しなければいけないのは、崩壊した守備の立て直しである。バレンシアの船底には穴が開いている。7試合で喫した失点は「14」。1試合平均2失点では、船底から湧き上がる水をかき出す作業に負われ、航海を楽しむ余裕は持てない。

このミッションが容易に成し遂げられるとは誰も思っていないだろう。

しかし、だからこそ、楽しみでもある。

豊富な経験と多彩な戦術を駆使し、プランデッリはいかにしてチームを立て直すのか。船底の穴を塞ぎ、再び帆を立てて、前へ進んでいくのか。

偉大なるチェーザレ、スペインへようこそ。あなたに幸あれ。

どうか穏やかな航海と、その先にある目的地へ、無事に到着しますように。