イラクのことはリスペクトしていた。技術もあれば、スピリットもある。国情は安定せず、ホームゲームを開催する資格すらはく奪された状態でなお、かの国の代表チームは逞しくあり続けてきた。イラク戦争から10年余りを経て、これだけのタレントが次から次へと育ってきているのは驚異的であると同時に、サッカーというスポーツの可能性を感じさせてくれるものだ。このワールドカップ予選の試合が始まる前に、「イラクには勝ってもらわないと」なんて言ってきた同業者のことはパンチしたくなったくらいだ。イラクは今の日本が「勝って当然」と思えるようなレベルのチームではないのだ。そう、今の日本が。

UAEとの初戦からタイとの第2戦にかけて、恐らく多くのサッカーファンも痛感してしまったことだと思うのだが、もはや日本はそう強いチームではなくなった。ヴァイド・ハリルホジッチ監督一人にその責を求めるべきではないだろう。それは彼にまったく責任がないという意味ではなく、日本代表を支えてきてくれた選手たちの状態が、残念ながらベストではない(あるいは下降線を描きつつある)という現実を認めるしかないということでもある。個人的には岡崎慎司も香川真司も、そして本田圭佑のことも大好きで、本当に尊敬すべき選手たちだと思っているが、彼らに頼っているだけではアジアでも勝てない。そういう現実が今、日本代表の前に横たわっている。

香川を外したスターティングラインナップは、そうした現実に対する指揮官の一つの回答だった。清武弘嗣を軸にしたかのような配置は一定の機能をしていたし、本田との関係もスムーズだった。そして原口元気という特異な個性を活かすという意味でも、清武を中央に置いて柏木陽介が後方から支える配置は合理的だった。いま一番状態の良い選手を活用する。1点目はその原口のボール奪取から。かつての彼を思うとその成長に驚きすら覚えるが、その献身的なプレーを起点に、清武と本田が絡んで、最後は再びゴール前まで走っていた原口が決めた。本当はオフサイドだったかもしれないが、UAEとの第1戦で浅野拓磨のシュートがノーゴールになってしまった件と相殺だろう。ジャッジというのは、こうして幸いすることもあれば、災いすることもあるものだ。

とはいえ、イラクである。中東勢は総じて「あきらめが良い」チームが多いのだが、イラクに関しては例外である。先日のU-16代表もそうだったように、彼らはリードを奪われても、苦しい展開になっても粘ってくる心理面での強さがある。このままでは終わらないだろうと思っていたら、案の上の反撃を受けることとなった。距離のあるFKから酒井高徳が完全に競り負けての失点。試合は振り出しに戻り、そしてスコアボードの数字は動かなくなった。

ただ、終盤に入り、イラクは完全に疲れている様子だった。移動はLCC(格安航空便)だったそうだし、調整も万全ではなかったのかもしれない。最後は吉田麻也を活かしたパワープレーで、疲弊していた相手DFを徐々に追い詰めた。山口蛍のゴールはイラク側の守備のミスもあってのものだが、単なる幸運でもないだろう。そしてそのとき、日本のピッチには、本田も香川も岡崎もいなかった。

もちろん、「だから勝てた」なんて言う気は毛頭ない。これからの最終予選でも(そして本大会でも!)、彼らの力が必要になる可能性は大いにある。ただ、今の状態の彼らならば、変に頼るべきでないことも確かではないか。試合を通じて本田の貢献度は守備を含めて決して低くなかったと思うが、あそこで交代させること自体はロジカルな結論だった。日本サッカーに「他の選択肢」が本当にないのかと言えば、そんなことはないだろう。何しろ決勝点は、普段J2でプレーしている選手だったのだ。

勝つには勝ったが、紙一重の勝利だったイラク戦。恐らく最終予選はこの後も苦しい戦いになる。日本代表の力が落ちていることは否めない。ただその厳しさを、産みの苦しみに変えていく可能性も見えてきているのではないか。日本代表の支柱だった香川も本田も岡崎もベンチにいた日本代表が、最後の最後に勝利をつかみ取った試合に、そんな“芽”を感じた。

文=川端暁彦