「室蘭を見れば世界の原子力発電事情が分かる」。電力会社の広報担当者の一言で室蘭に向かうことにした。「室蘭」とは鉄鋼・機械製品メーカーの日本製鋼所室蘭製作所のこと。かつて東洋一の民間最大の兵器工場と呼ばれた同社は、原子力発電用部材の製造で世界シェアの80%を占めるトップ企業なのだ。激震の世界経済の中にでも、原子力ルネッサンスを追い風に売上は好調、米オバマ政権下でのCO2削減目標やエネルギー政策への期待から関連株として株価が一時上昇するなど注目を集めている。(佐藤 道子)

夕方5時。原子力発電用部材(原発用部材)を製造する第4機械工場は24時間操業だが、思いのほか静かで、工作機械が大きな音を立て、作業車が動き回るといった工場のイメージからは程遠い。

国立代々木競技場のアリーナ4つ分(幅52m×長さ316m)の場内に所狭しと造りかけの巨大な原子炉部材が並んでいる。蒸気の力で回転し、発電機にエネルギーを伝える低圧タービンローターシャフト(写真1)は、ハチミツを瓶からすくいとる棒のような形をしている。

写真1、タービンローターシャフト(提供:日本製鋼所室蘭製作所)

円柱の胴部の真ん中をタコ足の吸盤のようなノズルがぐるっと取り巻く圧力容器のシェルフランジ(写真2)。

写真2、シェルフランジ(提供:日本製鋼所室蘭製作所)

圧力容器底部の下鏡ペタル(写真3)はまるで怪しい光を放つ未確認飛行物体のよう…

写真3、下鏡ペタル(提供:日本製鋼所室蘭製作所)

錆色でほとんど手つかずのものもあれば、ノズル部分のみきれいに削りだされたものなど様々だ。

この工場が注目されている理由は、地球温暖化や原油価格の高騰を背景に欧米各国が原子力発電の見直しを計ったことに端を発する「原子力ルネッサンス」やG8洞爺湖サミットでの途上国への原発支援合意にある。

これらによる原子力需要を追い風に、同所の原発用部材を含む鉄鋼製品関連事業の今年度売上高は、前期に比べ18%増の1090億円、営業利益は15%増の288億円で、過去最高額の更新を見込んでいる。
同製作所は2007年度から3年計画で500億円、その後さらに300億円の追加投資を行い、2012年には原発用部材の年産能力を4基分から12基分へと拡大する方針だ。

「より安全性、信頼性の高いものを作ろうと思えば、鍛鋼製一体化、長尺化です」。同社の原発用部材の特徴を説明してくれた室蘭製作所の総務グループ・広報担当課長の高田聖司さんは、こう明かす。この「鍛鋼製一体化、長尺化」に世界シェア80%の秘密がある。

原子力発電には高い安全性が求められる。溶接線の継ぎ目があれば、そこから劣化し、事故につながる危険性がある。パーツの数は少なければ少ないほど良い。そこに、同社の継目溶接がない一体化した製造技術が生きる。

圧力容器のシェルフランジや下鏡ペタルや蒸気発生器のプライマリーヘッドは、ところどころノズルが突き出ているが、これらは後から溶接して取り付けたものではなく、あらかじめ成形した素材をガス加工で削り、そのあと旋盤や特殊な機械加工技術によりノズルの部分を削りだす作業で作り出されている。

パーツを減らすと、一つ一つを大きく、丈を長く造ることになる。一つのパーツを大きくするにはそれを削りだすのに十分なサイズの鋼の塊(鋼塊=インゴット)が必要となる。


600トンのインゴット(提供:日本製鋼所室蘭製作所)
同社は現在、直径、高さいずれも4.3m、世界最大級の600トンの鋼塊を造り出すことが可能だ。単に大きな塊を作るだけのように思えるが、不純物を減らしたり、空隙の生成を抑えたりして、内部性状や化学成分を均一にしなければならない。

さらに同社では世界最大となる650トン鋼塊を計画している。

このインゴットを鍛錬するのが、同社の1万4000トンの水圧プレス機。このプレス機は同社オリジナル。5年前まで使われていた1万トンのプレス機は、1940(昭和15)年に設置したドイツ製だった。

作業効率アップを目指し、同社が今新設中なのは油圧式の1万4000トンプレス。
 
鍛錬工場に隣接する工場を改築して新鍛錬工場を建設中で、今後これら1万4000トンプレス機2台が稼働することで効率よく世界最大650トンのインゴットが鍛錬できるようになり、さらに他社を引き離す計画だ。

「室蘭」は独自の技術で静かに世界の原子力を支えていた。

 

この記事はgooニュースと北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)のコラボレーションによるものです。