最後につかんだ102通の「ラブ・レター」、環境問題を考える大学生・菊池圭太郎
学生ボランティアを45日間で300人集める―昨年11月に千葉県内21市町村で行なわれたごみ拾いイベントで、学生ボランティアの副リーダーを務めた東洋大学2年・菊池圭太郎が担ったミッションだ。「集めるなら、環境に興味がある人もない人も巻き込もう。細かい知識は必要ない、楽しいことをみんなでしたい」。気持ちひとつで走り出した彼が最後に掴んだのは、イベントでつながった学生達からの102通の「ラブ・レター」だった。(藪崎麻美・明治大学)
■環境ボランティアの説明で笑い出す
「どーも!けーたろーって呼んでください」。
私が初めて彼に出会ったのは、ごみ拾いイベントの説明会だ。挨拶したかと思うと、いきなり握手を求めてきた。環境ボランティアと聞いて、堅苦しい宣伝をされると思い身構えていた私は、気が抜けて笑い出してしまった。
初対面なのに、壁を感じない。こんなに開けた学生を見たのは初めてだ。ボランティアにちっとも興味のない私だったのに、説明が終わる頃にはやる気になっていた。環境のためにというより、彼の力になりたかった。彼の、自分を正直に出す所に、私は惚れてしまった。
環境問題を考え続けてきたのだろう。そう思って取材へ行くと、意外にも高校時代、彼にとって環境問題は他人事だった。
親や教師の影響から、平和構築や戦争問題には関心があった。校内で友達と意見を交わす機会も多かったという。しかし、環境問題は「経験談を聞くことができる戦争に比べて、構造が見えにくくてわかりにくかった」。
ある時先生に薦められて『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』(田中優著 岩波ブックレット)を読んだ。そこで、「7.9億トンの二酸化炭素が軍事から排出されている」事を知り、衝撃を受けた。「軍縮って憲法だけの問題じゃないんだぁって、単純に驚いた。環境から見ても、軍縮って大事なんだって気づいた」。
以来、視野を広げるためにジャンルを問わずイベントに足を運んだが、どのイベントでも取り上げられているのはひとつの問題。「何故、他の問題をつなげて考える場所はないんだろう」。小さな疑問が胸に残った。
■もっと社会に目を向けようよ
大学に入ると、高校時代のように問題意識のある仲間が出来なかった。「もっと社会に目を向けようよ」という思いが膨らんでいった。
そんな時、高校時代の友人に、ごみ拾いイベントで運営委員をやらないかと誘われた。「湾岸まるごとごみ拾い〜百年たっても地球となかよし〜」(通称まるごみ)。「拾ったごみがチケットになる」とうたい、ごみ拾いの参加者は同日午後に千葉マリンスタジアムで開かれるイベントに無料で招待される。十年間継続して行なわれる環境イベントの、第一回目だ。
実行委員長を務めるのは浦安市在住のディスクジョッキー、KOUSAKU。彼の掲げるまるごみのコンセプトは、「同じ日に、同じ場所、同じ想いで」。
おもしろい、と思った。「こんだけアバウトに環境をとらえたらさ、細かい事気にせずに参加しちゃえ、って思えるじゃない」。「環境活動は高尚な人達がやるもの」と捉えていた、それまでの考えが覆った。
その場で、運営に携わることを決め、学生ボランティアを集める活動を始めた。目標は、1か月半で300人。コツコツ探している時間はない。
菊池は環境問題に関心がある人もない人も、イベントに参加してほしいと思っていた。「地球と仲良く」やっていきたい気持ちは、どんなイベントで活動している人にもある。その想いをひとつにする場にしたい。どうアプローチをしたら、みんなが興味を持ってくれるだろう。答えは出ないままだったが、とにかく走り出した。
■1日50件のメッセージに反応なし
菊池はまず、大学のホームページにある掲示板に1日50件、メッセージを残すことから始めた。しかし、一週間待っても返信は来ない。「宣伝方法を変えなくては」と思っていたとき、一通の返事が菊池の元に届いた。「ぜひ参加したい」。
すぐに会う約束をした。「住んでいる場所とか考える前に、行きます!って送ってた」。
連絡してきたのは、福祉の専門職を目指している女子大生だった。勉強するうちに福祉に対する世間の限定的なイメージに違和感を覚え始めた、という。
「車椅子を押すだけが福祉の役割ではない。人々の幸福を作ることこそ福祉の仕事」。その言葉を聞いた菊池は、「空気や道がきれいなことも、幸せって言えるんじゃないかなぁ」と答えた。同時に「専門的なことにとらわれちゃいけない」と確信する。松戸市内のマクドナルドで3時間。初対面なのに熱く語り合った。そして菊池は思った。「今、環境と福祉がつながった」。
この気づきを活かし、広報活動をネットからイベントへと移した。日本ケニア報告会議、全国獣医学生交流会、グリーンキャンパス、グローバルフェスタ、アースデイ…ひたすら足を運び続けた。
イベントには志の高い人たちが集まっていた。「このまま帰してはいけない」と思った菊池は終了後の会場で、「僕と友達になろう!」と叫び続けた時もあったという。多い日は1日3件、1か月で20件のイベントをまわった。大学でも宣伝活動を続け、40校の大学に出向いた。「必死だった」。
■自分が広告塔
菊池の宣伝には、チラシがない。自分が広告塔となる。
「俺も難しい事はよくわからない。一緒に考えていこう」。180センチの長身から、長い腕が縦に横に飛び出す。全身で思いを伝えようとする菊池の姿が、学生たちの心を解きほぐした。「まるごみへの想いは、俺が必ず説明するようにした。紹介されて来た人達にも丁寧に伝えないと、意味ないから」。菊池は、集まってくる人みんなに自分の言葉で直接、イベントの趣旨を伝えた。
菊池の活動を励ましてくれたのは学生だけではなかった。株式会社ファースト・オン・ステージ社長の大谷晋二郎もその一人だ。まるごみを支援していた大谷は、自身が運営するプロレス試合に学生を無料招待し、幕間にまるごみの宣伝時間を設けてくれた。
そして迎えた当日。別室で待機していた菊池が最終ミーティングを行っている会議室の扉を開けると、真剣な顔つきで話し合いをしている学生達の姿があった。環境問題はおろか社会問題に関心を持ったことがない大学生や高校生がずらり。300人を超えるスタッフが集まっていた。「心強い」。それを見た瞬間、雨が降って中止にならないかと朝から不安になっていた気持ちが、一気に消えていったという。
■同じ世代に、通じなかった想い
環境問題に関心のない学生へ、裾野を広げるのは簡単ではない。まるごみに300人の学生スタッフが集まったのは、難しいことを考えず、ただ「菊池の力になりたい」と思う人が増えた結果だろう。
一方で、菊池の想いが通じなかった団体もあった。多くの学生が会員として活動する国際的な環境NGOにも菊池は声をかけていた。「一緒にイベントを運営しませんか」。想いを投げたが、答えは「うちはブースを出す。他の活動には参加しない」。菊池は立ち去るスタッフの背中を、眺める事しか出来なかった。
同じ世代の活動なのに、どうして想いは伝わらなかったのだろう。菊池は「やっぱり急すぎたのかなぁ」と振り返る。「切羽詰ってて相手の言い分を聞いたり、こっちの想いを丁寧に伝える余裕がなかった」。
■学生の手紙を抱きしめて
今、菊池の枕元にはボロボロになった箱が置いてある。
「俺たちをつないでくれてありがとう」「圭太郎は人を大事にしている」
45日間でつながった学生たちが、手紙だからこそ書けるメッセージをこめた。
それはイベント終了後に、「今後もつながろう」と菊池が開いた懇親会で、学生スタッフたちがみんなで書いた手紙だった。
「もらった夜は、箱抱きしめながら寝たよ」
学校に行くときも、しばらくリュックに入れて持ち歩いていたらしい。そのせいで箱がボロボロになった。
菊池にとってその箱は、想いが通じた証である。
みんなの想いをつなげた彼が持っていたのは、時間と情熱。ただそれだけだ。しかし、そのふたつが人々を結びつけた。
「今度、NGOにお手伝いに行こうかな」。想いが伝わるまで、粘る。その足取りは軽い。
この記事はgooニュースと大学生向けのジャーナリスト育成プログラム「スイッチオンプロジェクト」のコラボレーションによるものです。
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