「月に行くには太陽に行くつもりでやればいい」NPO法人KOMPOSITION代表理事・寺井元一

gooニュース2009年7月22日(水)14:00

次々と新しいカルチャ−を発信していく街、そして若者の溜まり場、渋谷。ここを拠点にするNPO法人KOMPOSITION(コンポジション)は、ビルの壁をアート作品のキャンバスにする「リーガルウォール」、大学やクラブチーム、実業団の壁を取り払ったストリートバスケットボール「ALLDAY」など、若い表現者たちに活動の場を提供するなど、新しい社会のあり方を提案する。代表理事の寺井元一さん(31)は、就職せずに大学院在学中にNPO法人を立ち上げた。「人と同じことをしても意味ないな、と思っていました。世の中に就職する人はたくさんいて、自分より優秀な人もたくさんいる。それよりも人とは違うことをしなきゃ、やるからには全賭けするくらいでないとうまくいかないぞ、と」。(田村昭彦・成城大学)

■灘中で見た「人生の先」
寺井さんがNPO法人を立ち上げたのは6年前、大学院在学中のことだ。もともと就職しようとは考えておらず、これを仕事にしようと思った。生活していけるという確信があったわけではない。むしろその逆で、具体的にどんな事業をやったらいいのか分からなかったし、アイデアもなかった。夜勤のバイトをして昼過ぎに事務所へ行く毎日。仲間とブレインストミーングをするが、とくに進展もなく日が暮れるとそのままプレイステーション…。それでも「できる」と信じていた。


寺井元一さん、写真提供:KOMPOSITION
「よく『子供の頃からやりたいことがあって、それを今仕事になさっているんですよね』と聞かれますが、全然そんなことなかったです。夢だとか、将来はこんな仕事をやりたいとか、全くなかったですね」

中高一貫の有名進学校、神戸市の灘中学に入学。小学生の頃はテストでいい点数を取ることが楽しかったが、そこでは違った。周囲は皆、東大行きます、京大行きます、といった自分よりも勉強ができる人たち。次第に違和感を持つようになった。自分の前にレールが敷かれているようなもの。きっと自分も周囲の人たちと同じように大学にいくのだろう。6年先まで決まってしまっていることがつまらなかった。いい大学に入ることも、同じように人生の先が見えているような気がした。

中学3年のときにアトピー性皮膚炎を発症する。見た目が気になる思春期、自分は悲惨だと思った。鬱屈した思いをつのらせるが、自分にはやりたいことも、何ができる、というのもない。自分に自信を持つこともできなかった。高校2年のときにアトピー性皮膚炎が悪化して入院した。

「明日という日は、今日よりも悪い日になると思った。しかしもう病気やなにやらと折り合いをつけてやり過ごしていくのは無理だ。今どうにかしないと…」。そこで開き直ることができた。「本当はもっと自由なはずだと。自分が何をして、他人からどう思われようと関係ない、結局俺はひとりだと。だから自分がやりたいことをやろうと思えたんです」。

■100点を取ろうと思ったら120点のつもりで勉強すればいい
ベッドの上でいろいろと考えた。
「『人は歩いて月に行けるか』っていう質問があるとして、普通ならそれは無理だって思いますよね。でも僕は、そのとき『行ける』と言いたかったんです。そして行けるんじゃないかと思った。たとえば、この事務所のマンションの階段を一段ずつ上ることも、月に一歩ずつ近づくのと同じなんだって思って。一歩一歩上ることを積み重ねていけば、いつかは必ず月まで到達するんですよ。もちろんそのためには、もの凄く高いマンションを建てなきゃ、とかあるんですけどね」

どんな地道なことでも、続ければ成し遂げられないことはない。そしてもうひとつ。成し遂げるには、目標の設定を上げればいい。
「100点満点のテストで100点を取ろうと思ったら、120点満点のつもりで勉強すればいい。月に行くには、太陽に行くつもりでやればいい」

退院するとさっそくやりたいことを100個書き出して、腹をくくって1つずつやっていけばいいと決めた。しかし小さなことを入れても20個ほどしか浮かばない。

ある日、何かないかなと新聞を眺めていて、ふと思いついたのが政治だった。政治は「世の中で何かをやる」ことだ、自分は何かをやろうとしているのだから、それなら政治をやろう−。当時は無駄なダムや道路の建設がさかんに非難されていた。こんなダメな世界だったら、自分の力で何かできるかもしれない。

政治を志し、東大へ行こうと初めて本気になって勉強したが、結局落ちて早稲田大学の政経学部に入学する。
政治の基礎を学ぶために、菅直人衆議院議員の事務所で3年間、ボランティアスタッフを務めた。だが、何となく違うな、と思い始める。政治は外に向けて開かれているべきだと思うが、「政治が好き」な人たちが仲間内でやっているような気がした。一緒に何かしたいと思える関係にはならなかった。

ある折、イベントの企画に関わることになった。クラブに菅直人議員を呼んで、DJと演説をしてもらったら盛り上がった。クラブの客は、普段は政治に興味のない若者だ。彼らの生きる日常の地続きに、政治という違う世界がつながっていることを提示することができた。

「何かをつないで新しいことにするのは素敵だな、と初めて思いました。周りの反応もよくて、意味あることだと。そこで仲間と、世の中に自分たちが楽しめる形で、例えばイベントで何か社会的なことを提案していこうよと」

大学院1年のとき、kompositionというサークルを立ち上げる。「構造、創作」を意味するcompositionのcをkに変えた。世の中の構造を変えていこうという意味だ。クラブでイベントを行い、客に風営法の周知を図っていった。クラブは飲食店登録をすることで、風営法の網をくぐらざるを得ない面があるからだ。また、トークライブを企画して政治家を呼び、若者と政治家で「世の中をどうしたらいいか」といった話ができる場を作った。

■最初は落書きを消し続けた
1年ほどすると、後輩が何人か就職活動などでサークルを抜けていった。こういうことを仕事にしていきたいと思っていたし、仲間と続けていきたかった。しかしさすがに仲間の将来のことまでは保証できない。ましてやサークルでは。せめて事業体にしようと決意する。
大学院在学中の2002年11月、サークルをNPO法人化する。同時にkomposition-standardに名称変更。後に、活動が大きくなるようにと大文字のKOMPOSITION に。大学院は中退した。

とはいえ全くビジネスモデルは固まっていない。大した活動もできなかった。世の中で出来ていなくて、でも出来そうなことを活動として落とし込めばいい、ということは分かっていた。金になるのか、メリットは何なのか、行政なりスポンサーなりに伝えていかなければならない。

事務所を自分たちの世代の街、渋谷に移した。街を歩き回っていると、壁の落書き問題があった。落書きを消して、かわりにアーティストが絵を描いたら落書き防止にもなると考えた。区に企画を提案したが、絵を描くのは駄目だと断られる。落書きを消すのは許可され、数カ月間、落書きを消すことだけを続けた。

5カ月目に入ったある日突然、絵を描くことを許可してもらえた。2004年3月、自分と同世代のアーティスト2人に丸一日かけて絵を描いてもらい、リーガルウォールを実現させる。初の大きな事業だった。翌年3月、ナイキにスポンサーになってもらった。3年目にKOMPOSITIONとして初めて黒字になった。やっと「自分はこのまま活動を続けていけるな」と思えた。

■就職してたらラクだったけど、気持ちは死んでた
自分たちがやろうとしていることは自分たちの「面白さ」や「楽しさ」のために活動し、社会に根付かせていくこと―つまり自分たちの価値観で行動していくことだ。それは誰もやっていないことをやるということだし、出来るという確実な保証はなかった。だから始めは社会に受け入れてもらえなかった。

「今振り返ると、辛かったんですよ、たぶん。でも『それは出来ないよ』って言われても『それ絶対やるな』と真っ向から反対されたことはないです。できたら社会のためになることですから」

地道にやっていけば実現できると思っていたし、自分たちがやっていることは10年後、20年後には必ず必要とされることだと信じていた。続けてこられたのは、自分たちの活動を未来へ向けたベクトルとして捉えていたからだ。まだまだやることはある。もっと面白いプロジェクトを100個くらいは作りたい。だが、NPOはお金のある企業と違って「人を育てる」ことが難しい。常に人が巻き込まれていく仕組みにしていかないとならない。ビジネスとして継続できる形に落とし込むには、まだまだ試行錯誤が必要だと感じている。

もし、今の仕事をしていなかったら、就職していたらどうなっていたのだろうか。

「就職していたらラクだったでしょうね。学生時代の同期をみても年収は2、3倍になっていたはずで、両親に肩身の狭い想いをせずに済んだでしょう。でも今はエキサイティングに過ごせています。昔から、人を感化させる存在でありたいと思っていたので。『そんなこと出来ない』って言う人に対して『そうでもないよ』と言える自分でありたいし、KOMPOSITIONでありたいと思う。就職していたら、そういう気持ちは死んでいたでしょうね」。


この記事はgooニュースと大学生向けのジャーナリスト育成プログラム「スイッチオンプロジェクト」のコラボレーションによるものです。

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