「カール国王」も去った、ブッシュ政権に空席多し 共和党候補への影響は コラム「大手町から見る米大統領選」(5回目)

gooニュース2007年9月3日(月)00:22
スノウ、ゴンザレス、バートレット、カード、ラムズフェルド……。そして、カール・ローブ大統領副補佐官。まさに沈む船とねずみだ。一人また一人と、ブッシュ政権から要人が去っていく。ホワイトハウス職員は、去りゆくローブ氏の愛車に「カール国王」とシールを貼って、見送った。足の悪いアヒルと化した大統領は残るが、「ブッシュの頭脳」と呼ばれた「国王」は去った。大統領とローブ氏が今後、大統領選にどう影響していくのか。まったく影響力をもたないのか。(gooニュース 加藤祐子)

各社の世論調査一覧を見ると改めてしみじみとするが、2006年1月からずっと一貫して、大統領は不支持率の方が支持率より高い(だから右の縦列がずっと赤字になっている)。調査ごとに数字のぶれはあっても、特に今年に入ってからはどの調査でも、不支持が支持を30ポイント前後上回っている(ちなみに参院選直後の安倍内閣は、不支持率が支持率を約40ポイント上回っていた)。

ホワイトハウスに空席多し

そしてこのところ、ブッシュ政権の要人辞任(あるいは辞任表明)が相次いだ。9月の新学年前にというのではなく、ボルテン首席補佐官がホワイトハウスの上級スタッフ一同に、大統領が任期満了する2009年1月まで残ると約束できないなら、9月3日の勤労感謝の日までに辞めるよう通告したからだという。

ブッシュ政権から去った主な人々は、こういう感じだ。

アルベルト・ゴンザレス司法長官 8/27 辞任表明。9/17 辞任予定。
大統領のテキサス州知事時代からの側近。ブッシュ政権1期目は、ホワイトハウス法律顧問だった。米同時多発テロ後に極秘に開始した「令状なし盗聴」に深く関与。連邦検察官8人を政治的理由で恣意的に解任した疑惑で(民主党支配の)議会から追及された上、議会で偽証を重ねたと攻撃されていた。

トニー・スノウ報道官 8/15 ラジオで表明、8/31 正式表明、9/14 辞任予定
保守系FOXテレビのニュースキャスター出身。06年4月から大統領報道官。保守系ラジオ番組で8月15日、「大統領の任期終了まで残るか」との質問に、「最初から、最後までい続けるわけにはいかないと、それは主に経済的な理由からだと、はっきり言ってきた。最初から、お金が底をつくときが辞めるときだと言ってきた」と返答。今年3月に結腸がんが再発。ちなみに大統領報道官の年間給与は約16万8000ドル(約2000万円)。

(余談・大統領報道官とは、ドラマ「The West Wing (ザ・ホワイトハウス)」ファンの皆さんには、C.J.クレッグの役職だといえば分かりやすいかと)

カール・ローブ次席補佐官 8/13 ウォール・ストリート・ジャーナルに対して辞任意図を表明。翌14日には、ホワイトハウス南庭でブッシュ大統領と並んで、正式に辞任表明。8/31付で辞任。

ブッシュ&ローブ」の関係は実に1973年にさかのぼる。ローブ氏は1974年には父ブッシュ元大統領の政治顧問に就任して以来、共和党の選挙対策を次々と担当し、1994年には現ブッシュ大統領のテキサス知事当選を実現させた。さらにチェ
イニー副大統領、ラムズフェルド前国防長官らと共に、ネオコンのシンクタンク・PNAC(新しいアメリカの世紀プロジェクト)に参加。ほかには、ウォルフォウィッツ前国防副長官、ブッシュ大統領の弟ジェブ・ブッシュ・フロリダ州知事が参加。

つまり軍事費拡大と軍事力の積極使用によって「米国の価値観」を世界に普及させ、「米民主主義を輸出」し、「われわれの利益や価値観に敵対する政権に挑戦していく」ことを提唱する組織の所信表明に、ローブ氏も参加しているのだ。

ローブ氏が選挙参謀だったからこそ、ブッシュ大統領は初当選と再選を果たしたと言われているし、そもそも2004年の再選が可能だったのは、ローブ氏の選挙戦略のおかげで2002年の中間選挙で共和党が大勝したから。その
選挙手法は「ローブ・マジック」と呼ばれた。

マジックは時には権謀術数でもあり、恫喝でもあり。民主党はローブ氏を恐れると共に、蛇のように嫌った。辞任表明を知った民主党候補エドワーズ前上院議員が「さよなら。せいせいする」と一蹴したのが、民主党員の素直な気持ちを代弁していたはずだ。

ブッシュ政権ではイラク戦争開戦の8カ月も前から、「フセイン政権打倒」の正当性を世論とするため、「ホワイトハウス・イラクグループ(WHIG)」を発足。ローブ氏はこれに参加した。ほかにはライス国家安全保障担当補佐官(当
時)、カード首席補佐官、リビー副大統領首席補佐官など。

その活動の一環とされているのが、いわゆるCIA工作員身分漏えい事件。バレリー・プレイム事件だ。元外交官が、大量破壊兵器の証拠は捏造だとニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したため、その報復として、元外交官の妻がCIA工作員だと、あの手この手を使ってマスコミにリーク。記事を書いたひとりのタイムズ誌記者は、自分の情報源はローブ氏だったと証言している(事件について、リビー元補佐官は偽証罪で有罪となるも、大統領権限で減刑。ローブ氏は事情聴取されたが起訴は免れた)。

最近では、共和党にとって好ましくない連邦検事8人の解任についても、影響力を発揮したとされている(この問題に関係して、ゴンザレス司法長官が辞任した)。

さらにローブ氏は2001年の同時多発テロ以来、繰り返し繰り返し「民主党はテロに弱い」というメッセージを展開。

偶然だったのか政治的意図があったのかは不明だが、そういえば2004年の大統領選の最中には、ここぞという時に限って「本土テロ攻撃の危険がある」と政府発表があり、警戒レベルの色がオレンジや赤に変わったものだ(たとえば民主・共和両党が相次いで党大会を開いて候補を指名した04年7月や8月)。ローブ氏の指示でそうなったと言ってるわけではないが。

今回の大統領選でも当然のことながら、イラク戦争とテロ対策は大きなテーマになっていて、民主党のクリントン議員もオバマ議員も「自分はテロに強い」という発言を繰り返している。つまり今回の「ローブなき大統領選」でも、その影響力は歴然と続いているのだ。

そしてローブ氏がホワイトハウスを去る直前の30日、大統領執務室や職員オフィスのあるウエストウィングの職員駐車場に止めてあった愛車ジャガーは、ビニールラップでぐるぐる巻きに。大統領のシンボルである鷲のぬいぐるみと、「I
love Obama」のステッカー付。「カール国王」と書かれたステッカーも。

ホワイトハウス職員のお餞別だそうで。まあこういう「ユーモア感覚」は民主党でも共和党でも同じ、アメリカらしい。

(余談・The West Wingファンの皆さんには、ジョシュ・ライマンと同じ役職ながら、大統領との関係性から言うと、レオ・マクギャリー首席補佐官に近い立場といえば分かりやすいかも。さらに余談を言うと、Leo McGarryの発音は「リオ・マギャリー」なんですが、そう書いても伝わらないだろうなあ、と)

ダン・バートレット大統領顧問(広報担当) 6/1  辞任表明。7/5 辞任。

ホワイトハウスの「声」を決める重責には若すぎる、経験不足すぎるといわれ続けたバートレット氏は、36歳とは思えないい老け方をして、そしてホワイトハウスを去った。大統領と約14年間、行動を共にしてきた最古参の側近の1人で、一
般教書演説など重要政策立案に深く関与。イラク戦争では、米軍に各国メディアの記者を従軍させるアイデアを実現させた。CIA漏えい事件では、イラク戦争に批判的な元大使とCIAのつながりを、メディアに示唆したとされる。辞任の理由は「家族と過ごす時間を増やすため」。

(しつこく余談・The West Wingファンの皆さんには、トビー・ジーグラーと同じ役職といえば分かりやすいかと)

そのほか、もっと短く箇条書きすると、


マイヤーズ前法律顧問 検察官解任疑惑で今年1月辞任

ラムズフェルド前国防相 2006年11月8日、辞任表明
イラク戦争について米軍増派か縮小かで大統領と意見対立したからとも、軍の制服組からの辞任圧力が高まったからとも。更迭とも。

カード前大統領首席補佐官 06年4月辞任
子どもたちと絵本を読んでいた大統領に、9/11の発生を耳打ちした人。ラムズフェルド国防長官(当時)の解任をめぐり大統領と対立したのが一因といわれる。
(West Wingファンの皆さんには、レオ・マクギャリー)

アシュクロフト前司法長官 2004年11月辞任表明、2005年2月辞任
テロ対策の名の下に様々な人権の制限を盛り込んだ愛国者法の成立と実施を推進するなど、リベラルの敵。

ウォルフォウィッツ前国防副長官 2005年1月、世銀総裁に指名され、ホワイトハウスを離れるも、今年5月、恋人関係にある世銀職員を優遇したことを欧州の加盟国政府などから強く非難され、世銀理事会が総裁辞任を発表。

ブッシュ政権2期目に続投しなかったコリン・パウエル前国務長官も含めると、ともかく7年前のホワイトハウスとはガラリと顔ぶれが変わっている。

(とはいえ大統領の任期中に、閣僚やスタッフが辞めるのはそうそう珍しいことではない。ドラマ「The West Wing」でほとんど家に帰らない彼らの激務ぶりを見れば、やむをえまいと思える。クリントン前大統領の選対部長だったジェームズ・カービルもそう言っているし、現にクリントン政権の8年間でも、閣僚も、首席補佐官を筆頭とするホワイトハウス・スタッフもひんぱんに変わった)


選挙参謀はビーチに? それとも院政か

ローブ氏がホワイトハウスを去る。ブッシュ大統領の支持率は低迷を続ける。国民はイラク戦争に疲弊している。そして大統領・副大統領いずれかの現職が全く出馬しない大統領選は、なんと1928年以来なのだ。

ブッシュ氏の不人気に引きずられるのを、共和党候補はみな恐れている。二期目だったり再選を目指さない現職大統領は、予備選段階では自分の党の特定候補に肩入れしないものだ。しかし共和党候補が決まった後でも、その候補がホワイトハウスの後援を断るような展開になったら、共和党は党としての一体性をどう説明するのか。党の候補を指名する来年夏の党大会で、ブッシュ大統領はどういう演説をするのだろう(まさか出席しないなんてことはないだろうが)。

支持率低迷のブッシュ大統領はいま、共和党候補にとって「危険物」のようなものだ。では、ローブ氏は?

表立って、ローブを選挙参謀に加える共和党候補がいるとは思えない。イメージが悪すぎる。でも遠隔操作でローブ氏が協力していないとは、誰が言えるだろう。ロムニー候補がアイオワ州の模擬選挙にあれだけ力をいれたのは、2000年のブッシュ陣営の戦略を真似たからだと言われている。ジュリアーニ候補の陣営も8月末になって、2000年のブッシュ陣営の広報チームを雇い入れた。

ブッシュ大統領の不人気からは距離をおきたいが、2000年大統領選、2002年中間選挙、2004年大統領選と大勝を続けた「選挙強さ」は欲しいということだろう(2006年中間選挙は大敗したが)。とすれば尚のこと、ローブ氏がこのまま大統領選の蚊帳の外に居続けるとは思えない。

そしてマスコミも。そしてローブ氏自身も。権謀術数は続いている。辞任を表明した直後、ローブ氏はクリントン議員を「安全保障に弱い、内政に弱い、弱い弱い弱い、最悪の候補だ」と痛烈に攻撃。しかし米メディアはこれをただ単に、共和党が民主党の筆頭候補を攻撃しているのだとは単純にとらなかった。

ニューヨーク・タイムズ記者はローブ氏の「ヒラリー・クリントンたたき」をこう分析する。つまり共和党としては、民主党候補の中ではクリントン議員が一番相手として戦いやすいから(勝ちやすいから)、あえて彼女を攻撃している、左派や民主党支持者が彼女の支持に回って、来年8月に実際に彼女が民主党候補に選ばれるよう、今から徹底的にクリントン議員を攻撃しているのだ——という(2004年大統領選では、共和党が実際にこういう意図からケリー候補を攻撃したところ、民主党はケリー議員を候補に選び、ケリー候補は大統領に敗れたという、前例があるそうだ)

「ローブ国王」はもしかしてテキサスから遠隔で、ロムニー氏を、あるいはジュリアーニ氏を、もしくはトンプソン氏を、動かすのか? あるいは民主党候補の足元をすくう策略をすでに練ってあるのか? カール国王は「カール上皇」よろしく院政を敷くのだろうか? ネオコンはこのまましばらくアメリカ政治の表舞台から降りるのだろうか。それとも潜伏するだけなのだろうか。

ホワイトハウスを離れてから真先にしたいのは、「西テキサスでハト狩り。それから妻と犬と海に行く」ことだと、そう本人は言っていたが。


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<これまでの大統領選コラム>

ネット使った票バーターが合法なら誰に有利だ?(4回目 2007.08.12)
YouTube討論その後 民主党は対立激化、共和党はネット音痴を…(3回目 2007.08.04)
YouTube討論会、何はともあれ面白かった(2回目 2007.07.25)
大手町から見る米大統領選、コラム開始 まずは登場人物紹介から (1回目 2007.07.20)

<このコラムを書くために筆者が参考にした主なサイト>
Tech President   「大統領候補がインターネットをどう使っているか」に注目している
USA Election Polls   各種の世論調査をまとめている

CNN Election Center 2008 CNNの選挙特集
ニューヨーク・タイムズ選挙特集
ワシントン・ポスト選挙特集

Slate Magazine
Salon 選挙特集
The Huffington Post
  
HillaryClinton.com ヒラリー・クリントン候補の公式サイト
Welcome to Obama for America バラク・オバマ候補の公式サイト
JoinRudy2008  ルドルフ・ジュリアーニ候補の公式サイト
Mitt Romney for President 2008 ミット・ロムニー候補の公式サイト
ブログCheck   

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