ゴア氏がノーベル平和賞を受賞し、ドキっとするメールが コラム「大手町から見る米大統領選」(7回目)
ゴア前米副大統領がノーベル平和賞を受賞した翌朝、13日の朝、私はメールボックスを開いてドキッとした。「えっ」と声を上げたかもしれない。 受信箱に「From Al Gore」という新着メールがあったのだ。しかも書き出しは、「Dear Yuko」。ディアーって、そんな…。(gooニュース編集部 加藤祐子)
ドギマギするまでもなく、理由はもちろんすぐ分かった。ちょっと前に、アル・ゴア氏の公式サイトに自分のメルアドを登録しておいたのだ。そしてこの朝、このメールが来た。表題は「I am deeply honored」。 ノーベル平和賞を受賞して「非常に光栄に思っている」という、最初に公式サイトで発表したコメント と同じ文章だった。 スタッフ素早い。
理由が分かってしまえば「あーなるほど」なのだが、とりあえずあの一瞬は、本当にドキッとした。 というわけで、このコラムで前回「ゴア氏がノーベル平和賞をとるかも、とったら大統領選はいったい…?」と書いたことの続きです。ほんとに平和賞をとってしまった。では大統領選は?
真実は本人の心の中にしかない。
――などとかっこつけてしまったら、村上春樹的に言う「雪かき仕事」は全て無意味だ。なので、受賞発表直後の欧米メディアの記事をあれこれ読んでみた。 読んでいてふと思った。日本人は判官びいきで、つまりは敗れし者が好きだということになっている。一方でアメリカ人は、(十字架から復活したキリストの影響があるのかないのか)敗者復活が好きだ。移民社会だからなのか、「ロッキー」的な這い上がりが好きだ。
○ 7年越しの敗者復活
なんでそんなことを思ったかというと、色々な記事が口を揃えるかのように、「2000年大統領選にああいう形で敗れた彼は、それからの7年間で見事に自分を作り直し、立ち直り、そして世界で最高の栄誉のひとつを獲得したのだ」という表現をしているから。「vindicated」「vindication」という言葉がよく使われている(和製英語になってしまった「リベンジ」というのと意味は近いか。「revenge」は「復讐」なので、もっと恨みが深い。意味が違う)。
懐疑論の方がまだ根強かった1990年代前半から、ゴア氏は環境破壊が地球と人類にもたらす危機を訴え続けた。ブッシュ元大統領(パパ・ブッシュの方)に「オゾンマン」なんぞと揶揄されながら。その彼がいかにずっと正しかったか、それが今ようやく証明されたのだ――と各紙は書いている。あるいは、2000年にあんな形でブッシュ大統領(息子ブッシュの方)に敗れたゴア氏は、今や世界的にこんなに評価されているというのに、一方のブッシュ大統領は世界的に批判されている。今のこの状況は、ゴア氏にとって「vindication」以外の何ものでもなかろうと。
「頭の良さを鼻にかけたイヤなやつ」「ロボットみたい」と言われてしまった2000年の大統領選、そしてあのフロリダでの手痛い敗北から7年。ゴア氏は各地の大学で教えて学生たちと語り、「シンプソンズ」や「サタデーナイトライブ」 に出演しては(本来は苦手そうな)ジョークやコントにも果敢に挑戦。そして映画「不都合な真実」で描かれていたように、ごろごろとスーツケースを引きずりなが ら、全米各地を行脚。「経済活動を優先してどんなにお金をもうけたって、地球そのものに住めなくなってしまったら、いったいどうするんだ」と語り続けた。彼のそうした努力がこうした形に結実したのだと、(一部を除く)主要各紙は好意的に書いている。
その一方でもちろん、共和党系ブロガーやコラムニストは「あのアラファトももらってたノーベル平和賞なんぞ、何の意味もない」というたぐいの記事をいっぱい書いている。米経済界の意見代表紙でもあるウォールストリートジャーナルの14日付社説に至っては、ゴア氏の「ゴ」の字も書かずに、「命や生活をかけて暴力や抑圧との戦ってきた」のに「ノーベル平和賞を受賞していない人たち」の名前を列挙し、「来年の候補になれるよう、この人たちが生き延びられますよう」と書いた。つまりはゴア氏受賞への痛烈なあてこすりだ(ゴア氏受賞にキリキリしている保守系を逆にあてこするニューヨーク・タイムズのコラムはこちら)。
私個人は、ゴア氏の過去7年間の歩みは素晴らしいものだったと思うし、地球温暖化を本当に怖いと思っている。今回のノーベル平和賞が、温暖化について今まで以上にマジになろうぜという強力アピールになるのなら、受賞は有意義そのものだと思う。 そしてまさに、どうしたらこの受賞を有意義なものにするか、ここがポイントだ。
○ ノーベル賞の有効活用とは
ゴア氏も受賞後の会見で言った、「この授賞の名誉をどう使ったら、世界の意識変革をもっと加速させられるか、どういうやり方が最も有効か、探っていく」という、この部分だ。ゴア氏が使った表現は、「how to best use the honor and recognition of this award」。
地球温暖化という地球レベルの緊急事態について、世界中がもっと危機意識をもって素早く効果的に活動しなければ、下手をしたらあと23年で北極の海氷はすっかり溶けてなくなってしまう。ゴア氏は受賞後の会見で、そう警告した。そんなことにならないため、世界が一丸となって速やかに動くには、どうしたらいいか。その「どうしたら?」のひとつの選択肢に、果たして大統領選出馬があるのかどうかだ。
出馬するかしないかについては、ニューヨーク・タイムズも ワシントン・ポストも、ワシントン発で共和党系の政治専門紙「ポリティコ」もNBCテレビもCNNも(情報源はおそらく同じゴア氏側近たち)、「出馬しないだろう」と書いている(ゴア氏の広報担当もそう言明している)。
一部で、ヒラリー・クリントン上院議員やバラク・オバマ上院議員と伍していくには現時点で少なくとも選挙資金8000万ドルは集めている必要があるのだから、もう遅すぎる――という意見も見かけたが、理由としてそれは違うだろう。 アップルの社外取締役、グーグルの相談役、ケーブルテレビのオーナー、などなど複数の肩書きをもつゴア氏の個人総資産は約1億ドルといわれている。英ガーディアン紙が書いたようにその気になれば自己資金だけでも、十分に選挙戦は戦えるし、まして「ノーベル平和賞受賞者」としてこれから本気で選挙資金を集めようと思えば、資金面での不安はないだろう。
問題はそういうことではなく、あくまでも、「地球を救うために何が有意義か」なのだと思う。だって、お金のことだけを言うなら、ゴア氏は悠々自適でもいいのだ。何もわざわざあえて人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出て(いかにも苦手そうな)コントに出たりしなくても、(やはり苦手そうな)ジョークを演じたりしなくてもいいのだ。
問題は、選挙資金とか政治日程とか、そういう実務的・政治技術的なことではないはずだ。そうではなくて。「何が効果的か」を考えた上で、自ら出馬するよりも、今回の受賞を背景に民主党内・米政界・経済界での影響力を拡大させて、温暖化対策を推進することを選ぶだろう。これが、現時点での大方の見方だ。たとえば、平和賞受賞を感謝した会見で、地球の危機についてのみ語り、アメリカ国内政治のことにはこれっぽっちも触れなかった、記者の質問にも答えなかったのが、そのことを象徴しているだろう、と。
NBCやCNNなどは、民主党候補トップを走るヒラリー・クリントン議員にもしも今後なにかがあって、彼女が出馬を取りやめるくらいの、それくらいの不測の事態がなければ、ゴア氏が出馬することはないだろうと見ている。民主党的には、今の候補の顔並びで満足しているのだと(ということは翻れば、もう本当に、民主党の大統領候補はクリントン議員でほぼ確実ということなのか)。
むしろ今は、ゴア氏が民主党候補のうち誰を、公式に支持するかが注目され始めている。ノーベル平和賞の威光を背景にゴア氏が特定候補を支持表明すれば、その候補が党の指名を獲得する可能性は「何千倍にもはねあがった」と民主党関係者はフィナンシャル・タイムズに話している。そして現に、ゴア氏受賞から間もなく、民主党候補たちは「おめでとう」メッセージを次々に発表した。
クリントン夫妻とは必ずしも仲が良くなかった、特にクリントン議員とはかなり仲が良くなかったとも噂されるなか、ゴア氏が果たしてクリントン議員を支持するのだろうか。政策課題についても、クリントン議員は環境問題にそれほど熱心ではないし、ゴア氏が最初から反対していたイラク侵攻をクリントン議員は当初は支持した(そもそもが、クリントン大統領の一連のセックス・スキャンダルから距離をおこうとして応援を断ったせいで、ゴア氏はクリントン氏の地元アーカンソーで敗れたとされている。このアーカンソーで勝っていれば、フロリダがどうなろうと、ゴア氏は大統領になっていたのだ)。
いずれにしても、そうやって民主党の誰かがゴア氏の「おかげ」もあって大統領になれば、ゴア氏が求めるような温暖化対策を推進せざるを得なくなる。これが、大方が推測する、ゴア氏サイドの目論見のようだ。たとえば温室効果ガスの排出量規制と排出枠取引の仕組みを、具体的な数値目標と処罰規定をもりこんで実施するとか。たとえば、これを一言でも言えば絶対に選挙に負けると評判の、「炭素税」を導入するとか。
こうして「出馬しないだろう」で大方の意見が一致しているなか、それでも諦めきれない人たちも、もちろんいる。「ゴアに出馬させろ!」と訴えてニューヨーク・タイムズに全面意見広告を掲げるまでしたこの人たちとか。 あまつさえは、やはりノーベル平和賞受賞者のジミー・カーター元大統領とか。カーター氏本人がNBCテレビに語ったところによると、「もう何回もアル・ゴアに電話して、何度も何度も、大統領選に出馬するよう説得してきた」のだそうだ。あまりに繰り返したのでしまいにはゴア氏の方が、「カーター大統領、お願いです。もう電話してこないでください」とお断りしたのだとか。カーター氏かたなし、だ。
○ オゾンマンがノーベルマンに
それにしてもつくづく、隔世の感だ。英タイムズ紙が書いているように、 「ゴア出馬」に期待がこれほど集まるということ自体、7年前を思えば驚きだ。生真面目で堅苦しいばかりの政治家だったゴア氏はこの7年間で、ロックスター的な人気者に変身した。環境問題のスターになったのだ。逆にもし7年前のゴア氏に、今ほどのロックスター的というか千両役者的というか、そういう魅力があったなら、おそらくその後の現代史は違っていたと思う。
2000年大統領選をある意味で決定付けたテレビ的瞬間だと私が思うのは、ブッシュ対ゴアの何回目かのテレビ討論。政策課題について理路整然と語るゴア氏に対して、ブッシュ氏はときに支離滅裂になったり理解不足を露呈したりという状態だったのだが、それにゴア氏が呆れ顔で「はーやれやれ」的にタメイキをついて首を振った。呆れ顔+ためいき+首振り。この映像がお茶の間に流れたせいで、ゴア氏は嫌われて、そして敗北した。私はそう思っている。
ヤなやつ。そう思われたのだ。
(一方のブッシュ氏は、庭で一緒にバーベキューとビールを楽しみながら野球談義に花を咲かせるには最高の、気さくないい奴――というイメージを与えるのに大成功した。なのにゴア氏をバーベキューにうっかり呼んだら、炭を燃やすと二酸化炭素が……とか説教し始めそうで、うっとうしそうだと、そうも思われてしまったのだ)
でもそのうっとうしい「ヤなやつ」がゴロゴロとスーツケースを引きずりながら全米のあちこちで講演をしてまわった。(しつこいけど)コメディ番組にあれこれ出ては苦手(そう)なコントやジョークを交えながら、温暖化について語り続けた。 ワシントン・ポストによる今年4月の世論調査では、環境問題では温暖化がいちばん重要だと答えた人は33%。前年の倍だったという。日本にいるとよく分からないが、アメリカ(の一部)では未だに温暖化なんて嘘っぱちだという人もいるし、安いガソリンを使ってどこに行くにも燃費の悪い車で移動するし、夏場にはキンキンに冷やした室内・車内で長袖を着て、冬場にはガンガンに暖めた室内・車内でアイスクリームを食べるのが、それが文化文明であり富の象徴なのだという固定概念がある(日本にだってある)。大量生産・大量消費・大量廃棄。まさに「スーパーサイズ・ミー」の国だ。
そのアメリカで、33%もの人が地球温暖化を「重要な問題だ」と考えるようになった。それはもちろんゴア氏一人のおかげではなく、おそらくハリケーン・カトリーナの影響などが大きいのだろうけれども。でも今回の受賞で改めて、「温暖化=地球の危機」という言葉があちこちで繰り返されるようになった。その意義だけでも素晴らしく大きい。極論すれば かつては「UFOは実在する!」と同じくらい少数の異端意見でしかなかったものが、今やこうして誰もが知っている一般的な意見となって、世界の世論とか良識とかに変質してきたのだ。その変化をもたらした一端に、ゴア氏は確実にいた。
名実共に「Mr.温暖化対策」となったゴア氏は、大統領になるよりも、キングメーカーならぬプレジデント・メーカーになったほうがいい。少なくとも現時点では、それが大向こうの意見のようだ。 炭素税みたいに、政治的にほとんどインポッシブルだけれども、温暖化対策としては必要な政策をゴリ押しするには、「地上最強の男」のはずのMr. President よりも、「世界最高の栄誉」を獲得したMr.Nobel Laureate (ノーベル賞受賞者)の方が、地球にとっての最強ヒーローだということなのか。
ちなみに私は、1997年12月のいわゆる京都会議、「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」で、副大統領だったゴア氏を生で見たとき、「スーパーマンに似てるな」と思ったことがある(見た目が)。オゾンマンからスーパーマン、そして今やノーベルマン。おめでとうございます。メールありがとうございました。
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ドギマギするまでもなく、理由はもちろんすぐ分かった。ちょっと前に、アル・ゴア氏の公式サイトに自分のメルアドを登録しておいたのだ。そしてこの朝、このメールが来た。表題は「I am deeply honored」。 ノーベル平和賞を受賞して「非常に光栄に思っている」という、最初に公式サイトで発表したコメント と同じ文章だった。 スタッフ素早い。
理由が分かってしまえば「あーなるほど」なのだが、とりあえずあの一瞬は、本当にドキッとした。 というわけで、このコラムで前回「ゴア氏がノーベル平和賞をとるかも、とったら大統領選はいったい…?」と書いたことの続きです。ほんとに平和賞をとってしまった。では大統領選は?
真実は本人の心の中にしかない。
――などとかっこつけてしまったら、村上春樹的に言う「雪かき仕事」は全て無意味だ。なので、受賞発表直後の欧米メディアの記事をあれこれ読んでみた。 読んでいてふと思った。日本人は判官びいきで、つまりは敗れし者が好きだということになっている。一方でアメリカ人は、(十字架から復活したキリストの影響があるのかないのか)敗者復活が好きだ。移民社会だからなのか、「ロッキー」的な這い上がりが好きだ。
○ 7年越しの敗者復活
なんでそんなことを思ったかというと、色々な記事が口を揃えるかのように、「2000年大統領選にああいう形で敗れた彼は、それからの7年間で見事に自分を作り直し、立ち直り、そして世界で最高の栄誉のひとつを獲得したのだ」という表現をしているから。「vindicated」「vindication」という言葉がよく使われている(和製英語になってしまった「リベンジ」というのと意味は近いか。「revenge」は「復讐」なので、もっと恨みが深い。意味が違う)。
懐疑論の方がまだ根強かった1990年代前半から、ゴア氏は環境破壊が地球と人類にもたらす危機を訴え続けた。ブッシュ元大統領(パパ・ブッシュの方)に「オゾンマン」なんぞと揶揄されながら。その彼がいかにずっと正しかったか、それが今ようやく証明されたのだ――と各紙は書いている。あるいは、2000年にあんな形でブッシュ大統領(息子ブッシュの方)に敗れたゴア氏は、今や世界的にこんなに評価されているというのに、一方のブッシュ大統領は世界的に批判されている。今のこの状況は、ゴア氏にとって「vindication」以外の何ものでもなかろうと。
「頭の良さを鼻にかけたイヤなやつ」「ロボットみたい」と言われてしまった2000年の大統領選、そしてあのフロリダでの手痛い敗北から7年。ゴア氏は各地の大学で教えて学生たちと語り、「シンプソンズ」や「サタデーナイトライブ」 に出演しては(本来は苦手そうな)ジョークやコントにも果敢に挑戦。そして映画「不都合な真実」で描かれていたように、ごろごろとスーツケースを引きずりなが ら、全米各地を行脚。「経済活動を優先してどんなにお金をもうけたって、地球そのものに住めなくなってしまったら、いったいどうするんだ」と語り続けた。彼のそうした努力がこうした形に結実したのだと、(一部を除く)主要各紙は好意的に書いている。
その一方でもちろん、共和党系ブロガーやコラムニストは「あのアラファトももらってたノーベル平和賞なんぞ、何の意味もない」というたぐいの記事をいっぱい書いている。米経済界の意見代表紙でもあるウォールストリートジャーナルの14日付社説に至っては、ゴア氏の「ゴ」の字も書かずに、「命や生活をかけて暴力や抑圧との戦ってきた」のに「ノーベル平和賞を受賞していない人たち」の名前を列挙し、「来年の候補になれるよう、この人たちが生き延びられますよう」と書いた。つまりはゴア氏受賞への痛烈なあてこすりだ(ゴア氏受賞にキリキリしている保守系を逆にあてこするニューヨーク・タイムズのコラムはこちら)。
私個人は、ゴア氏の過去7年間の歩みは素晴らしいものだったと思うし、地球温暖化を本当に怖いと思っている。今回のノーベル平和賞が、温暖化について今まで以上にマジになろうぜという強力アピールになるのなら、受賞は有意義そのものだと思う。 そしてまさに、どうしたらこの受賞を有意義なものにするか、ここがポイントだ。
○ ノーベル賞の有効活用とは
ゴア氏も受賞後の会見で言った、「この授賞の名誉をどう使ったら、世界の意識変革をもっと加速させられるか、どういうやり方が最も有効か、探っていく」という、この部分だ。ゴア氏が使った表現は、「how to best use the honor and recognition of this award」。
地球温暖化という地球レベルの緊急事態について、世界中がもっと危機意識をもって素早く効果的に活動しなければ、下手をしたらあと23年で北極の海氷はすっかり溶けてなくなってしまう。ゴア氏は受賞後の会見で、そう警告した。そんなことにならないため、世界が一丸となって速やかに動くには、どうしたらいいか。その「どうしたら?」のひとつの選択肢に、果たして大統領選出馬があるのかどうかだ。
出馬するかしないかについては、ニューヨーク・タイムズも ワシントン・ポストも、ワシントン発で共和党系の政治専門紙「ポリティコ」もNBCテレビもCNNも(情報源はおそらく同じゴア氏側近たち)、「出馬しないだろう」と書いている(ゴア氏の広報担当もそう言明している)。
一部で、ヒラリー・クリントン上院議員やバラク・オバマ上院議員と伍していくには現時点で少なくとも選挙資金8000万ドルは集めている必要があるのだから、もう遅すぎる――という意見も見かけたが、理由としてそれは違うだろう。 アップルの社外取締役、グーグルの相談役、ケーブルテレビのオーナー、などなど複数の肩書きをもつゴア氏の個人総資産は約1億ドルといわれている。英ガーディアン紙が書いたようにその気になれば自己資金だけでも、十分に選挙戦は戦えるし、まして「ノーベル平和賞受賞者」としてこれから本気で選挙資金を集めようと思えば、資金面での不安はないだろう。
問題はそういうことではなく、あくまでも、「地球を救うために何が有意義か」なのだと思う。だって、お金のことだけを言うなら、ゴア氏は悠々自適でもいいのだ。何もわざわざあえて人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出て(いかにも苦手そうな)コントに出たりしなくても、(やはり苦手そうな)ジョークを演じたりしなくてもいいのだ。
問題は、選挙資金とか政治日程とか、そういう実務的・政治技術的なことではないはずだ。そうではなくて。「何が効果的か」を考えた上で、自ら出馬するよりも、今回の受賞を背景に民主党内・米政界・経済界での影響力を拡大させて、温暖化対策を推進することを選ぶだろう。これが、現時点での大方の見方だ。たとえば、平和賞受賞を感謝した会見で、地球の危機についてのみ語り、アメリカ国内政治のことにはこれっぽっちも触れなかった、記者の質問にも答えなかったのが、そのことを象徴しているだろう、と。
NBCやCNNなどは、民主党候補トップを走るヒラリー・クリントン議員にもしも今後なにかがあって、彼女が出馬を取りやめるくらいの、それくらいの不測の事態がなければ、ゴア氏が出馬することはないだろうと見ている。民主党的には、今の候補の顔並びで満足しているのだと(ということは翻れば、もう本当に、民主党の大統領候補はクリントン議員でほぼ確実ということなのか)。
むしろ今は、ゴア氏が民主党候補のうち誰を、公式に支持するかが注目され始めている。ノーベル平和賞の威光を背景にゴア氏が特定候補を支持表明すれば、その候補が党の指名を獲得する可能性は「何千倍にもはねあがった」と民主党関係者はフィナンシャル・タイムズに話している。そして現に、ゴア氏受賞から間もなく、民主党候補たちは「おめでとう」メッセージを次々に発表した。
クリントン夫妻とは必ずしも仲が良くなかった、特にクリントン議員とはかなり仲が良くなかったとも噂されるなか、ゴア氏が果たしてクリントン議員を支持するのだろうか。政策課題についても、クリントン議員は環境問題にそれほど熱心ではないし、ゴア氏が最初から反対していたイラク侵攻をクリントン議員は当初は支持した(そもそもが、クリントン大統領の一連のセックス・スキャンダルから距離をおこうとして応援を断ったせいで、ゴア氏はクリントン氏の地元アーカンソーで敗れたとされている。このアーカンソーで勝っていれば、フロリダがどうなろうと、ゴア氏は大統領になっていたのだ)。
いずれにしても、そうやって民主党の誰かがゴア氏の「おかげ」もあって大統領になれば、ゴア氏が求めるような温暖化対策を推進せざるを得なくなる。これが、大方が推測する、ゴア氏サイドの目論見のようだ。たとえば温室効果ガスの排出量規制と排出枠取引の仕組みを、具体的な数値目標と処罰規定をもりこんで実施するとか。たとえば、これを一言でも言えば絶対に選挙に負けると評判の、「炭素税」を導入するとか。
こうして「出馬しないだろう」で大方の意見が一致しているなか、それでも諦めきれない人たちも、もちろんいる。「ゴアに出馬させろ!」と訴えてニューヨーク・タイムズに全面意見広告を掲げるまでしたこの人たちとか。 あまつさえは、やはりノーベル平和賞受賞者のジミー・カーター元大統領とか。カーター氏本人がNBCテレビに語ったところによると、「もう何回もアル・ゴアに電話して、何度も何度も、大統領選に出馬するよう説得してきた」のだそうだ。あまりに繰り返したのでしまいにはゴア氏の方が、「カーター大統領、お願いです。もう電話してこないでください」とお断りしたのだとか。カーター氏かたなし、だ。
○ オゾンマンがノーベルマンに
それにしてもつくづく、隔世の感だ。英タイムズ紙が書いているように、 「ゴア出馬」に期待がこれほど集まるということ自体、7年前を思えば驚きだ。生真面目で堅苦しいばかりの政治家だったゴア氏はこの7年間で、ロックスター的な人気者に変身した。環境問題のスターになったのだ。逆にもし7年前のゴア氏に、今ほどのロックスター的というか千両役者的というか、そういう魅力があったなら、おそらくその後の現代史は違っていたと思う。
2000年大統領選をある意味で決定付けたテレビ的瞬間だと私が思うのは、ブッシュ対ゴアの何回目かのテレビ討論。政策課題について理路整然と語るゴア氏に対して、ブッシュ氏はときに支離滅裂になったり理解不足を露呈したりという状態だったのだが、それにゴア氏が呆れ顔で「はーやれやれ」的にタメイキをついて首を振った。呆れ顔+ためいき+首振り。この映像がお茶の間に流れたせいで、ゴア氏は嫌われて、そして敗北した。私はそう思っている。
ヤなやつ。そう思われたのだ。
(一方のブッシュ氏は、庭で一緒にバーベキューとビールを楽しみながら野球談義に花を咲かせるには最高の、気さくないい奴――というイメージを与えるのに大成功した。なのにゴア氏をバーベキューにうっかり呼んだら、炭を燃やすと二酸化炭素が……とか説教し始めそうで、うっとうしそうだと、そうも思われてしまったのだ)
でもそのうっとうしい「ヤなやつ」がゴロゴロとスーツケースを引きずりながら全米のあちこちで講演をしてまわった。(しつこいけど)コメディ番組にあれこれ出ては苦手(そう)なコントやジョークを交えながら、温暖化について語り続けた。 ワシントン・ポストによる今年4月の世論調査では、環境問題では温暖化がいちばん重要だと答えた人は33%。前年の倍だったという。日本にいるとよく分からないが、アメリカ(の一部)では未だに温暖化なんて嘘っぱちだという人もいるし、安いガソリンを使ってどこに行くにも燃費の悪い車で移動するし、夏場にはキンキンに冷やした室内・車内で長袖を着て、冬場にはガンガンに暖めた室内・車内でアイスクリームを食べるのが、それが文化文明であり富の象徴なのだという固定概念がある(日本にだってある)。大量生産・大量消費・大量廃棄。まさに「スーパーサイズ・ミー」の国だ。
そのアメリカで、33%もの人が地球温暖化を「重要な問題だ」と考えるようになった。それはもちろんゴア氏一人のおかげではなく、おそらくハリケーン・カトリーナの影響などが大きいのだろうけれども。でも今回の受賞で改めて、「温暖化=地球の危機」という言葉があちこちで繰り返されるようになった。その意義だけでも素晴らしく大きい。極論すれば かつては「UFOは実在する!」と同じくらい少数の異端意見でしかなかったものが、今やこうして誰もが知っている一般的な意見となって、世界の世論とか良識とかに変質してきたのだ。その変化をもたらした一端に、ゴア氏は確実にいた。
名実共に「Mr.温暖化対策」となったゴア氏は、大統領になるよりも、キングメーカーならぬプレジデント・メーカーになったほうがいい。少なくとも現時点では、それが大向こうの意見のようだ。 炭素税みたいに、政治的にほとんどインポッシブルだけれども、温暖化対策としては必要な政策をゴリ押しするには、「地上最強の男」のはずのMr. President よりも、「世界最高の栄誉」を獲得したMr.Nobel Laureate (ノーベル賞受賞者)の方が、地球にとっての最強ヒーローだということなのか。
ちなみに私は、1997年12月のいわゆる京都会議、「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」で、副大統領だったゴア氏を生で見たとき、「スーパーマンに似てるな」と思ったことがある(見た目が)。オゾンマンからスーパーマン、そして今やノーベルマン。おめでとうございます。メールありがとうございました。
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・アカデミー賞、菊地さん残念 「不都合な真実」が2冠 (gooニュース)
<関連リンク>
・ノーベル賞公式サイト(英語)
・アル・ゴア氏公式サイト(英語)
・映画「不都合な真実」
・環境gooスタッフがみた「不都合な真実」
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC) (英語)
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について(気象庁)
・平均気温の季節予報(気象庁)
・地球温暖化問題 (外務省)
・地球環境対策−政策− (経産省)
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・チーム・マイナス6% - みんなで止めよう温暖化
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