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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

例えば、自転車の乗り方は本でいくら勉強しても、それだけでは乗れるようにはなりませんよね。自転車に乗りたいなら、ハンドルを握り、サドルにまたがって、ペダルを踏みこんで、そして転んでみる……。そんな“体験”が不可欠です。

もちろん、それは自転車に限ったことではありません。料理をすることにだって、デートを楽しむことにだって、会社を経営することも、同じことが言えるのではないでしょうか。

東京を拠点に、企業向け研修プログラムを展開する「つくる考房」は、この“体験”というアプローチを大切にしています。

“チャレンジ参加型プログラム”と名づけられた一連のコンテンツには、参加者が全員で体験することで課題を解決していくものがたくさん。その内容は、テーマについて話を深める対話から、自然のなかでさまざまな器具を使って体感する野外活動、田んぼの中に入っての農業体験など多彩です。

これらのプログラムを体験すると、いったい何が分かるようになるのでしょうか。そして、そもそもチャレンジ参加型プログラムってどのようなものなのでしょうか。「つくる考房」を企画・運営する井口大輔さんに話をうかがってみました!
 
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井口大輔(Dice)さん
1973年東京生まれ。高校卒業後、米国に留学。帰国後は販売、事務、コールセンタートレーナー職などを経て、2008年よりICTデジタルサポートサービス会社人事教育部門にて社内研修の企画・運用、講師などを手掛ける。在職中にファシリテーション及びチームビルディングを独学し、2013年に「つくる考房」として独立。ライフワークである格闘技のエッセンスをファシリテーションに加味し、“身体で学び、心で理解する”独自の体験学習理論を構築。企業研修や学校向けのチームビルディングやコミュニケーションなど、各種ワークショップを手がける。

“楽しい”から、参加者がどんどんのめり込んでいく

“体験”を大切にしているプログラムを知りたいのなら、まずは自ら体験してみるのが一番! ……というわけで、さっそく井口さんが企画したチャレンジ参加型プログラムに、この原稿の執筆者である井上も参加させてもらうことにしました。
 
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“そもそも研修の目的はなんだろう” “参加する人はみんなどんな気持ちなんだろう” “安全に研修を実施するにはどうすればいいんだろう”など、プログラムは多彩な視点からデザインされている

2016年7月のある日、大東文化大学の上野正道教授のゼミ生を対象に、井口さんのチャレンジ体験型プログラム講座が開催されました。

この日は上野教授のゼミ生合計11名が参加。将来は教職員を志望する学生が多いことから、講座はワークショップのつくり方のレクチャーからスタートしました。つくる考房がプログラムを組み上げるときに大切にしている考え方、そして具体的なつくり方などをパワーポイントで示しながら解説。それからいよいよチャレンジ参加型プログラムがスタートです。
 
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アイスブレイクの一幕。ふたりが向かい合って手を合わせて“タコツボ”の役になり、そのタコツボに入っている人が“タコ”の役になる。「タコツボ!」や「タコ!」と声がかかると、その役の人は、いまいるところとは別の場所に移動しなくてはならない。ちなみに「嵐!」という声がかかると、全員がシャッフル

最初のアイスブレイクではみんなでじゃんけんをしてからハイタッチをしたり、輪になって手のひらと指を使って鬼ごっこをしたりと、確かに遊んでいるような雰囲気が満載。しかし、実はこうやって参加者同士の関係性を解きほぐしながら参加意識を高めているのだとか。

そこから参加者同士が名前を呼び合う時間を挟み、いよいよメインとなるイニシアチブ(課題解決)と呼ばれる活動へ。今回は、手をつないだ全員がフラフープのなかをくぐる「フープリレー」が行われました。
 
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はい、それじゃあ、みんなで手をつないで輪になって。みんながつながった状態のまま、このフラフープを一周まわしてください。スタート地点まで戻ってきたら、みんなで“できたー!”と言って座ります。ただ、それだけです!

そんな井口さんの説明のもと参加者はみんなでフープをまわして、一周したら「できたー」と腰を下ろしました。すると、井口さん、「実はいまみんなタイムを計っていたんだよね。だいたいどれくらいだったと思う? はい、実は4分22秒でした!」。

ゼミ生たちは微妙な表情。それはそのはず。彼らにとって、フープリレーは初めの体験です。4分22秒って、早いの!? 遅いの!? とまどいが広がります。
 
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どうすれば早くなるのか、いろいろなアイデアが生まれてくる。アイデアのゆたかな人、行動的な人、リーダーシップを取れる人、ネガティブな発言が多い人など、いろんな個性が浮かび上がってくる

そんな参加者たちの顔をみながら、井口さんが続けます。

いまから15分間、みなさんに時間を差し上げます。この15分の中で、みんなで話したり練習してみたりしながら、タイムを縮めてみてください。15分の途中、タイムを計りたくなったらいつでも言ってね。

そして、15分後に2回、目標の時間を決めたら本番のタイムトライアルを行いますね。それではどうぞ!

「ん? どういうこと?」と、話がよくわかっていない参加者がいるかと思えば、「とりあえず1回やってみる?」と、提案を試みる参加者も。「背の順に並んだ方がいいんじゃない?」なんて提案をする参加者もいれば、なにも言わず成り行きを見守っているだけの参加者もいます。
 
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どんどん試して、試しながら考える。どんなことにもトライ&エラーが必要なことや、うまくやるためには失敗こそ大切であることなどに自然に気づいていく

「よし、まずはやってみようよ。やりながら考えようよ!」と誰かがリーダーシップを発揮する中で徐々に場が動きはじめます。ときどき井口さんにタイムを計ってもらいながら、改善点がないか意見を言い合い、誰かの意見を試してみる……。そんなトライ&エラーが自発的に動き出すようになります。

そしていよいよ本番。自分たちで目標のタイムを決めると、そこに向かって、みんなの気持ちがまとまりはじめます。最初に戸惑っていた集団は、次第に目標を共有するチームになってきています。自分たちでつくった目標に向かって、チームに対して自分はなにができるのか、考えはじめるようになるのです。
 
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楽しいけれど、それだけじゃない。“チームのメンバーと力を合わせて目標を達成したい!”、そんな気持ちが参加者それぞれの中で育っていく

2回の本番を通じて、参加者たちは見事に自分たちで決めたゴールを達成。目標タイムをクリアすると参加者全員から大きな歓声があがり、みんなでハグしたり、ハイタッチをしたり。傍からみていても、“うそ、こんなに盛り上がる!?”とびっくりするほどのテンションとなりました。
 
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井口さんからタイムの発表があると、みんなで“よっしゃー!!”とハイタッチ! 仲間と一緒に喜び合える、不思議な一体感が場を包みます

そこからは、参加者がみんなで車座になって座って、いま起きた出来事についての振り返り。どんなことが起きていたのか、そのときに自分は何を感じていたのか、ほかの人の様子を見てなにを感じていたのか。そんなことについて語り合ってもらいました。

井口さんがときどき“問い”を投げかけますが、基本的には参加者が自由に言葉を紡いでいきます。
 
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対話も参加者たちが主体になって行います。話題の口火を切る人、じっと聞いている人、熱っぽく語る人など、キャラクターがどんどん表に現れてくるのがおもしろい

体験を終えた学生に話を聞いてみると、

「“あの子、あんなにしゃべる子だったんだ”っていう発見がありましたね。いままで3年生とは交流が少なかったので、とてもいい時間になりました」(Fさん/4年生)

「楽しくて、でも、すごく緊張感もありました。なんでこんなに盛り上がるのか不思議(笑)」(Tさん/3年生)

「4年生が両側にいたのですが、リーダーシップを発揮して引っ張ってくれたので、すごく頼もしかった!」(Sくん/3年生)

などの声が。

執筆者である井上も、チャレンジ参加型プログラムのおもしろさを実感。参加者は活動の楽しさに引き込まれ、ついつい積極的に参加しはじめるなか、協働作業における自分の役割などのさまざまなことに、仲間たちとの対話を通じて気づいていくのです。

探していたのは、眠くならない、本当に身に付く研修

井口さんが“チャレンジ参加型”というスタイルの研修をスタートさせたのは、いまから6年ほど前のことだそうです。

それまで私は、企業の中で研修の企画と運営をしていました。新人研修、管理職研修など扱うプログラムはさまざまです。でも、これがあまりおもしろくなくて。参加者の中に寝る人がたくさんいるばかりか、企画したはずの私もうとうとしてしまうくらいで(笑)

せっかく企画しているのに、誰もちゃんと参加できていない。これって機会損失ですよね。だからどうしたら眠くならない、楽しくて身に付く研修ができるかをずっと考えていたんです。

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本で調べて、インターネットで検索して、公開研修に参加してと、“参加者が楽しめる研修”を探し求めた井口さん。あるとき、みんなで手をつないで楽しそうに笑っている研修の画像を見つけることになりました。

みんなで手をつないでフラフープを持っているんですね。なんだろう、これは!? 楽しそうだぞ!と思ってさっそく参加しました。

そこで体験した研修はこれまで知っていたものとはまったく違うものだったという井口さん。
 
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板橋区にある小学校で、教員向けにチャレンジ体験型プログラムを実施したときの様子。メンバーそれぞれの間に風船を挟んだ状態でゴールを目指す「バルーン・トローリー」を行った。列の先頭、真ん中、最後尾では立場がそれぞれ異なる。お互いの立場をどうすれば理解できるのだろうか。みんなで協力するとは、どいうことなのだろうか

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みんなで同じ体験をしたからこそ、なにが起きたか、なにができたかなどについて活発な意見交換が可能に。そこで得た気づきは、日常に持って帰って、自分の仕事などに生かすことができるのだ

研修ではフラフープにみんなでくぐるフープリレー、風船をお互いのカラダに挟んでみんなでゴールを目指すバルーン・トローリー、小さな板の上に互いに支えながら乗っかるオールアボードなど参加者同士でまるで遊ぶような活動を行います。

遊ぶような活動なのですが、大の大人が本気になって取り組んでいるのです。そして、活動の最後はなぜか必ず自主的に全員が車座に振り返りをして、自分たちの結果や成果がもたらされた要因分析をします。

楽しく、そして自主的に活動するからこそ自然にさまざまなことに気づくことができます。みんなで一緒に結果や成果を出すための『自分自身の在り方』に気づくのだそうです。

濃密な時間を過ごすので、参加者同士どんどん仲良くなっていくんですね。最終的には「ここにいるみんなで会社でも立ち上げない?」って話になるくらい(笑)

普通、研修といえば知識なり技術なりを“教わる”場所だと認識していますよね? 要するに“受け身”です。“研修=与えられるもの”が当たり前になってしまっている。だけど、この場は違いました。“主体性”が求められるんです。

活動内容がおもしろいので、どんどん話したくなり、やりたくなり、結果、意見の衝突も経験します。
 
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井口さんのチャレンジ体験型プログラムは“楽しい”が基本。だから、活動中に笑顔があふれることも多い

そこで出された課題を、楽しい!と、ただやるだけではなにも学びは得られない。自分や仲間と共に悩み、考え、聴き、発信することで、初めて「あっ!こういうことか!」という気づきが得られる。ここには“学びの本質”があったのです。

そこで行われていたプログラムこそ、チャレンジ参加型プログラム。井口さんは、“このプログラムを本気で身につけよう”と決意を固めたのだそうです。

価値を伝えきれない苦しさから適応障害に

集まった人々が共通の体験をして、その体験を振り返る。そして、そこから得たものを日常へとフィードバックする。そんなチャレンジ参加型プログラムに魅了された井口さんは、さっそく社内に持ち帰って実践。大きな手ごたえを感じたといいます。
 
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会社で研修をやってみると、振り返りで泣き出す参加者がいて。「いままで自分が正しいとばかり思っていたけど、みんなで支え合って業務を行っていることが初めてわかった」と話すんです。それを見て、チャレンジ参加型プログラムの効果に確信を持ちました。

小学生のころから格闘技をはじめて、30年以上の格闘技歴を誇る井口さん。“カラダで学ぶ”という方法論は、格闘技に通じるところがあり、しっくり腑に落ちたといいます。

格闘技で練習試合をいくらやっても、それはやっぱり練習試合でしかないんですね。本番の試合にしかない緊張、痛み、そして充実感は、試合でしか得られません。試合を体験しないと発見できないことがたくさんあるんです。

つまり、聞いたことは忘れる。見たことは憶える。体験したことは理解する。発見したことは活用できる。チャレンジ参加型プログラムのすばらしさは、まさにそこだと思います。

でも、みんなでカラダを動かして活動に挑戦するチャレンジ参加型プログラムは、傍でみていると確かに遊んでいるようにも見えます。そんなプログラムだけに、会社の上層部に価値を伝えることには大きな苦労があったと言います。

「遊んでないでちゃんとした研修を考えろ」って何度も言われましたね。しかし、一度信じたものなので僕としてはどうしてもその価値を伝えたい。

研修というものを、単に会社側から知識や技術を与えられる場や教わる場ではなく、楽しみながらも自らが主体的に学び、気づく場にしたかった。

今ならまた違ったアプローチがあったのかもしれませんが、その当時は会社とぶつかることが多くなって、そのうち居場所がなくなってきてしまったのです。

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上層部に理解が得られないような状態が続き、井口さんはその重圧から適応障害を発症。ほどなくして会社を退職することになりました。

会社のことで悩んでいたときのこと。チャレンジ参加型の研修を、最初に僕に体験させてくれた師とあおいでいるファシリテーターに相談してみたんですよ。そうしたら「そんなにつらいなら、会社を辞めて、田舎でファシリテーターをやったら?」と言われて。それもそうかなって思って、退職することにしたんです。

当時は本当につらくて、会社にもいけない、毎日死にたくなる、って状態だったのですが、その人のひと言が“ファシリテーターとして外部の目線からチームビルディングや組織開発のお手伝いをするという選択肢もある”と開眼させてくれましたね。そこで独立をして「つくる考房」を立ち上げたんです。

そこからはもう、病気とは無縁になりました(笑)

一人ひとりが能力を発揮して支え合うのが組織の強さ

チャレンジ参加型プログラムを通して「つくる考房」が目指しているのは、どのような社会の実現なのでしょうか。

私が適応障害になって会社を辞めるときにすごく悩んだことがあって。それはやっぱり、会社が僕にとって楽しい場所ではなくなってしまっていたということなんです。

僕自身が会社で働いていたときに感じていたのは、いまひとつ意見がでない会議や失敗を回避しようとする発言、責任を逃れようとするような言動でした。

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「そうではなく、もっと違った組織の在り方もあるのではないか」と井口さんは言います。

もっと、お互いのいいところを見つけあうような、そんな会社づくり、組織づくりなら、お手伝いしたいって思うんですね。会社の中にはいろんな能力や個性を持ったタレントがずらりとそろっています。自分が見えているものが、自分に見えているように、相手も見えているとは限らないわけですから。もちろん、飛びぬけて能力が高い人もいるでしょう。

でも、能力が突出したひとりだけががんばっているわけではありませんよね。みんなが支え合って、それでこその組織です。だから、組織をつくるメンバーみんなにスポットがあたるような、一人ひとりがヒーローやヒロインになれるような会社づくりのお手伝いがしたいんです。

それに、仕事なんて金を稼ぐためにしているなんて考えながら会社に行くのって、つまらないじゃないですか。それよりも、“誰かの役に立とう。仕事の意味を自分なりに考え続けよう。少しでも良くなるように、自分のエネルギーを他者のために割こう”って考えながら仕事をしたほうが楽しいですよ。

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チャレンジ体験型プログラムに参加すると、たとえば普段おとなしい人、考えていることが読み取りにくいような人からも、いろんな意見やアイデアが出てきて、「あいつにあんなところがあったの?」と、驚かれるようなことも多いのだとか。

私自身が会社組織でつまづいた経験があるからこそ分かることもあるんですよね。会社ってきっと、もっと居心地のいい場所、風通しのいい人間関係がつくれるって信じています。そんな場所や人間関係をつくりたい。

例えば、責任を取ることも含めて、何でもかんでもオレがなんとかする!って意識してる人が多い会社と、オレがやんなくても、誰かやるでしょって意識してる人が多い会社と、オレ一人だけじゃ背負いきれないから、全員で分かち合うようにしようって意識している人が多い会社だったら、どの会社をつくりたいと思いますか?

僕なら断然3つ目の会社です。みんなで仕事してるんだから、みんなでどうにかしようよって言い合える、そう動ける会社の方が、頑張ろうぜ!!っていう気持ちになれるじゃないですか。「つくる考房」の“つくる”には、そんな意味が込められているんです。

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「つくる考房」では、チャレンジ参加型プログラムとして、室内型の研修にとどまらず、チームビルディングや山でのアドベンチャー体験など、多彩な項目が用意されています。そして、それらは解決したい課題によってカスタマイズされていきます。

体験から学ぶ。そんなアプローチに興味のある人は、「つくる考房」が提供するコンテンツに参加してみてはいかがですか?