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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

福井県鯖江市の東部にある河和田地区。三方を山に囲まれ、人口約4,400人が暮らす小さな集落ですが、実は1,500年の歴史を持つ伝統工芸「越前漆器」や国内唯一の「めがね」の産地として、古くからものづくりが息づくまちでもあります。

長い年月をかけて育まれてきたものづくりの歴史や職人の技は訪れる人たちを魅了し、近年では他府県から河和田に移住する若者も。昔からいる人たちと新しくやってきた人たちがゆるやかにつながり、新しい取り組みも次々と生まれています。

そんな新しい取り組みのひとつが、今回ご紹介する「ものづくり合コン」というちょっと変わったイベントです。「ものづくり合コン」とは、名前の通り“ものづくり”と“合コン”が一緒になったイベントのこと。

実際にどのような出会いとものづくりを楽しむことができるのでしょう?

greenz.jp ゲストライターの石原が、2016年6月に実際参加してきたときの様子をレポートします!

成功体験でものづくりがもっと楽しくなる

2015年に始まった「ものづくり合コン」は、今年で2回目。県内外から36名の男女が河和田に集いました。

ものづくりが好き、仲間をつくりたいなど、参加理由はさまざま。SNSを通してこのイベントを知った人が多く、福井県内や石川、富山といった近隣の県はもちろん、中には関東方面からの参加者も。福井の小さな集落で行われるイベントにも関わらず、注目度の高さがうかがえます。
 
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まずは簡単な自己紹介などを済ませ、早速ものづくりのプログラムに移っていきます。この頃はまだみなさん少し緊張気味です。

ものづくり合コンでつくるものは3つ。まずはものづくりの時に着用するエプロン、そしてオリジナルの漆器と木のカトラリーです。
 
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まずはエプロンづくりからスタート。デニム素材のエプロンにステンシルで思い思いの模様をつけていきます。

はじめは緊張気味だった参加者たちもすぐに打ち解け、楽しそうな雰囲気に。隣の人との会話が少しずつ広がっていき、次第にテーブルのあちこちで笑い声が聞こえるようになっていきました。
 
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エプロンづくりが終わった後は、いよいよ「オリジナル漆器」と「カトラリー」づくりに挑戦です!

漆器づくりは河和田在住の伝統工芸士に手ほどきを受けながら、生の漆を塗ったお椀に古典模様のスタンプを押していきます。押した箇所に金粉をまぶした後は、湿度の高い窩(むろ)に入れて翌日までそのままに。漆は湿度により乾燥が進むので、湿気の多い河和田は漆器づくりに適した場所だと言われています。
 
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模様がずれないよう、緊張感を持ってスタンプを漆器に丁寧に押していきます。みんな、かなり真剣です。

教えてくださったのは、越前漆器の製造を手がけて220年以上の歴史を持つ「漆琳堂」の内田徹さん。県内最年少の伝統工芸士でもあります。
 
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カトラリーづくりでは、経年変化で艶が出るチェリーの木をナイフで削り、お箸の形に。蜜蝋ワックスをすりこんだら完成です。
 
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自然と会話が弾む仕掛け

こうして、ものづくりを堪能した頃にはかなり打ち解けた様子になってきた参加者たち。夕方からはBBQやホタル鑑賞、ナイトバーなど、こちらも盛りだくさんの内容で、昼間とはまた違った雰囲気の中、お互いの仲を深めていきます。
 
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地元の素材を使ったBBQに、皆舌鼓を打ちました。

陽が落ちた後は地元の人しか知らないスポットでホタル鑑賞。クジで男女ペアになり、ふたりでひとつのランタンを持ってホタルが舞うのを眺めます。次第にいい雰囲気になるペアも…。
 
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使われてない温室が夜だけ特別なバーに変身!スタッフも参加者の中に混じり、すっかり和んでいます。

夜のハイライトは福井のブライダル企業とコラボした「模擬結婚式」。じゃんけんで勝ち上がった男女1名が仮想カップルになり、実際の披露宴さながらの入場やケーキ入刀などを楽しみました。
 
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「ものづくり合コン」では、参加者と主催者の壁が一切ありません。スタッフもまるで友だちのように参加者に声をかけたり、気になる人と話せるようほんの少しだけおせっかいをしたり、ときには参加者以上にお酒を飲んだり…

そんな、スタッフのさりげない気配りとリラックスした雰囲気があるからこそ、みんなの会話が弾むのかもしれません。

合コンの先にあるもの

2日目は朝から河和田の大きな菜園で無農薬の野菜を収穫し、みんなで手づくりピザをつくっていきます。

前日よりもさらに参加者同士の会話が弾み、まるで昔からの友だちのような雰囲気に。
 
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採りたての新鮮な野菜がピザに彩りを添えます。オープンに入れる前からすでに美味しそう!
 
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でき上がったピザやサラダをみんなでシェアするのも仲良くなった証拠。前日にはなかった光景です。
 
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最後のプログラムは、漆器の贈呈式です。前日、漆器づくりの講師をつとめた内田さんから、一人ずつ漆器が手渡されていきます。
 
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仕上がりはどんな感じになっているのでしょうか、中身が気になります。

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世界にたった一つしかない自分だけの漆器。スタンプが擦れた部分もいい味になっています。

すべてのプログラムが終了した後も、参加者は誰も帰ろうとはしません。つくった漆器を見せ合ったり連絡先を交換したりと、別れが名残惜しく、いつまでも話は尽きないようです。
 
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「今度みんなでまた河和田に集まろうね!」と次に会う約束する参加者たち。

今回の「ものづくり合コン」でカップルは誕生するのでしょうか? 「ものづくり合コン」を開催・企画した一般社団法人「PARK」の代表理事・浜口真一さんにたずねてみました。

合コンと言うからにはカップルが生まれることに越したことはないのですが、参加者同士が男女の出会いを超えて、この2日間の時間を共有した大切な仲間になっていることは間違いありません。

ものづくりって楽しい! 河和田ってなんかいいところだよね、と思っていただくことで、河和田が絶えず人の行き交う場所になれば大成功だと思います。

合コンというと、彼氏や彼女を探すイメージがあるかもしれません。しかし、「ものづくり合コン」は目先のカップル誕生をゴールにし、非日常なひと時を提供するだけではなく、未来の仲間として参加者たちの距離を近づけるきっかけといえます。

これから先、仲間として交流を深めるうちに、もしかして参加者同士が付き合うこともあるかもしれませんが、それも自然の流れに任せていけばいい。従来の合コンとは少し違う、そんな主催者たちのゆるやかな姿勢が、参加者たちの緊張も解きほぐし、お互い着飾ること無く接し合うことを可能にしているようです。

きっかけは「FUKUI FOOD CARAVAN」

「ものづくり合コン」を企画・主催した一般社団法人「PARK」は、浜口さんをはじめ、メンバーのほとんどが県外からの移住者です。

浜口さんが「PARK」を立ち上げた理由は、河和田の未来に危機感を感じたからでした。

河和田は山に囲まれた中山間地域でありながら産業が栄えたまちとして、昔から補助金などの公的な援助が絶えない地域でした。

自分の産業が儲かればいい。今が良ければそれでいい。果たしてそれで河和田のまちも産業も次世代につながっていくのか、危機感を感じていたのです。

そこで、「産地として持続可能なまちをつくりたい」と同じ思いを持つ仲間たちと「PARK」を立ち上げ、ものづくりを通したコミュニケーションや移住定住に向けた場づくりなど、さまざまな取り組みを行っています。

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「PARK」は木工職人やメガネ職人、デザイナーなどさまざまなメンバーで構成されています。上段右から2番目が浜口さん。

そんな「PARK」が、一見何の共通点もない、ものづくりと合コンを掛け合わせた理由は何だったのでしょうか? その背景には、2014年に河和田で行われた「FUKUI FOOD CARAVAN」というイベントがありました。
 
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FUKUI FOOD CARAVAN〜かわだ くらしの晩餐会〜(ふくいふーどきゃらばん)
福井の食と伝統工芸の力でまちを盛り上げようと、2014年に開催された福井新聞まちづくり企画班によるイベント。参加者は河和田に2日間滞在し、漆器や木彫りのスプーンなどをつくり、自分たちのつくった作品で地元の伝承料理のフルコースを味わった。PARKのメンバーも参加し、イベントは福井県内外で大きな話題となった。

「FUKUI FOOD CARAVAN」は2日間かけて、ものづくりや食を楽しむイベントでしたが、はじめは参加者同士がちゃんとコミュニケーションできるかどうか不安だったと浜口さんは言います。

ものづくりは個人作業のように思われるかもしれません。しかし、道具をお互いに貸しあったり、自分のつくったものを見せたりしていくうちに仲間意識が芽生え、共同作業のようになっていったんです。『これってまるで合コンみたいじゃない?』と盛り上がり、“ものづくり”と“合コン”を組み合わせるアイデアが生まれました。

こうして「FUKUI FOOD CARAVAN」に参加したことによる気づきがきっかけとなり、“ものづくり”と“出会い”をテーマにした「ものづくり合コン」は2015年にスタートしました。

「ものづくり合コン」と河和田の未来

「ものづくり合コン」では、漆器やカトラリーなど、河和田の人びとが継承してきたものづくりを体験できます。プログラムには、「河和田のことをもっと知ってもらいたい」という思いを込めているそうですが、実は別の狙いもあるのだとか。

浜口さん 「ものづくり合コン」は誰がつくってもいい感じに仕上がるようなプログラムを考えています。修行に来たわけではないので(笑)、ものづくりの難しさを体験するというよりも、ものづくりの楽しさや成功体験を味わってほしいと思っています。

私にもできた! またやってみたい! というところから、ものづくりの世界に足を踏み入れたっていいんじゃないかな。合コンに来たはずが、職人を目指すようになった、なんて面白いと思いませんか?

漆器やメガネだけではなく食材にいたるまで、さまざまなものづくりが循環し、いつ訪れても居心地の良い場所をつくるため、すでに「PARK」のメンバーたちは動き始めています。誰もが自由に使える工房やカフェ、シェアハウスなど、河和田に足りない部分を満たしていく。そのためには、より多くの人たちを自然な形で巻き込んでいくまちにすることが欠かせないのです。

地域の文化や産業を活かしながら、出会いの場所を生み出す「ものづくり合コン」は、地域の人と地域外の人とのつながりを生みだすヒントになるかもしれません。

河和田では、ものづくり合コン以外にも、ものづくりや人との出会いを楽しめるさまざまな取り組みが行われています。外から来る人にも開かれた場所になりつつある河和田に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

(Text: 石原藍)