1

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

ある日突然大切な人ががんになったら、両親が認知症になったら、生まれてくる子どもに障がいがあると分かったら、あなたはどうしますか?

それは何も特別なことではありません。誰にでも起こりうる日常なのです。怖いのは、私たちがそれらについて、あまりにも「知らない」こと…。

そんな問いを私たちに直球で投げてくるのは、「NPO法人 Ubdobe(ウブドベ)」代表の岡勇樹さん。

Ubdobeは、あらゆる人々が医療や福祉を知って身近に感じ、障がいや病気を抱える方々、高齢者がもっと自然に社会参加を楽しめる社会をつくり、そして自身が感じてきた医療福祉の素晴らしさを多くの人々に伝えるべく、2008年に設立されました。

全国に10支部を展開し、音楽×アート×医療福祉を融合させた「医療福祉エンターテインメント」として、様々なイベントを仕掛けつづけています。
 
2
NPO法人Ubdobe代表理事 岡勇樹さん

その活動はじわじわと浸透し、岡さんは現在全国各地で講演を行うほか、東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部ユニバーサルデザイン2020関係省庁等連絡会議構成員、厚生労働省の介護人材確保地域戦略会議の有識者にも選任されています。

岡さん自身はいつもTシャツに短パンでヒップホップ好き、渋谷にいそうな今どきの青年。自分のような「どこにでもいる普通の若者」にこそ、医療や福祉のことを知ってほしいと言います。

「福祉の仕事は最高に楽しくてクリエイティブだ!」と言い切る岡さん。そんな岡さんの、内に秘めた信念と闘志にせまりました。
 
3
Ubdobeスタッフの皆さん

明日家族に何か起こったとき、少しの知識があればすべては変わるはず

Ubdobeの主なミッションは、医療福祉業界のブランディングとイメージアップ、医療福祉従事者の増加と質・モチベーションの向上、医療福祉サービス利用者とその家族の積極的社会参加の推進です。

Ubdobeが対象にするのは、福祉の世界に興味のない若者たち。くだけた形で発信することで、いつも通りに遊んでいるだけで医療福祉の情報が手に入り、考える入口のきっかけづくりになればと考えています。

踊って遊んで医療福祉を学べるクラブイベント「SOCiAL FUNK!」では、福祉とクラブミュージックという異質な世界をドッキングし、DJやライブの合間に高齢者介護や障がい者福祉、難病などのトークを仕掛けます。

岡さん ガンのすべて、臓器移植のすべてを伝えたいわけではなくて、本当に薄い最初の入口のきっかけをつくりたいんです。もし明日自分や家族に何か起こったとき、ほんのわずかの知識があればすべては変わると思っています。

4
「SOCiAL FUNK!」でライブの合間に生体移植の説明を行う臓器移植コーディネーター。参加者の97%が医療福祉のイメージが変わったと答えます

岡さん 元々音楽とともに生きてきたので、音楽イベントの中に医療福祉のコンテンツを入れるという順番でいつも考えています。そうすると、半分くらいはミュージシャンのファンなど音楽好きの人たちが集まるんですよ。

ミュージシャン目当てで来た人の反応はやはり大きくて、すごく感動していたり、わざわざ握手をしに来てくれたり。

先日の臓器移植の啓発イベントでも“アーティストを見にきてただ暴れていたんですけど、話聞いてマジ大事だと思ったし、本当にありがとう”って若者に言われて、心の中でガッツボーズしました。

福祉と全く関わりのなかった若者がイベントをきっかけに医療福祉に触れて、自分の日常生活に持って帰るということが最高に楽しいですね。

「コドモミュージック&アートフェスティバル」では、障がいの有無や国籍の違いなどの垣根を越え、子どもたちが音楽を通してアート作品を共作します。国の制度で子どもの頃から障がい者と健常者が分けられてしまうのであれば、一緒になれる場を新しくつくってしまえばいいという想いから生まれた活動です。
 
5
障がいのある子もない子も一緒に音楽を聞きながら絵を描く活動は「普段と違う子どもの姿が見られる」と、保護者や施設職員にも好評

6
心臓病とともに歩む親子と音楽に乗ってアート制作。小児病棟や福祉児童施設、障がい児施設などでもワークショップを開催しています

「ふくし・ま」は、東日本大震災以降、介護職員の不足が深刻化している福島県の今を伝えていく、新しいタイプの福祉系就職フェアです。3年目の今年は、福島の福祉のリアルを知ってもらうため、犬童一利監督による福島の介護現場のドキュメンタリー映画上映や、福島で働く介護職員のトークショーなどを行いました。
 
7
「ふくし・ま」で掲載されたポスター。Ubdobeでは、エンジニアやデザイナーなど医療福祉等を魅力的にブランディングするためのクリエイター集団も組織されています

他にも、医療福祉従事者や学生、経営者などが所属や役職を飛び越えてつながるトークイベント「Well CON」、離島の福祉を一緒につくる「LOVE AMA」、ゲーム型で楽しく福祉の仕事や障がい者・高齢者の生活を体験する「THE SIX SENSE」など、ミッション通りの未来をつくるべく、様々なイベントを発信し続けています。
 
8
「Well CON」の様子。職場以外の人と語る機会が少ないという医療福祉業界。横のつながりを生み出し、モチベーション高く働ける仕組みもつくっていこうとしています

9
離島・海士町の医療福祉を考えるイベント。島の漁師や役場の方も参加して、海士町のご馳走やライブありの賑やかなパーティーとなりました

10
話題のVRを使って認知症の疑似体験をする「THE SIX SENSE」の参加者。自分がどこに行きたいか分からないという不安を可視化します

多様な活動を行っていますが、岡さんの考え方はいたってシンプル。「自分が楽しいことをやる」。大好きな音楽と大好きな医療福祉を掛け合わせることは、岡さんにとってはごく自然な流れでした。

岡さんの生き生きとした姿勢が、心から福祉をおもしろいと思っている姿が、今まで医療福祉に興味のなかった若者たちの心を知らず知らずのうちに揺さぶっているのです。
 
11_2
海士町にて。まずは自分が楽しむことがモットー

一生消えることのない悲しみから、すべては始まった

岡さんは、3歳から11歳までサンフランシスコで育ちました。そこで人種差別やいじめなど様々な経験をしたといいます。

帰国してから、再び文化の違いの壁にぶつかった岡さんを救ってくれたのが「音楽」でした。ライブハウスやクラブ通いにはまり、大学生のときに「ディジュリドゥ」という民族楽器を演奏するようになって、ストリートパフォーマンス集団「ウブドベ共和国」を創設。

人生の大きな転機を迎え音楽療法の専門学校に入学し、そこで出会った仲間とUbdobeの活動を開始しました。
 
12
世界最古の管楽器と言われるディジュリドゥを演奏する岡さん

岡さんの現在の活動と考え方には、一生拭うことのできない大きな悲しみが由来しています。

それは、突然訪れた母の死。

岡さん 大学2年生のとき、母ががんで入院しました。僕はがんについての知識が何もなかったし、情報を仕入れる手段も分からなかったので、入院をして薬を飲めば治る、抗がん剤で抜けた髪の毛も治療が終わればまた生えてくると信じていました。いつも支えてくれていた母がいなくなるなんて、想像もしたくなかったんです。

ある日突然父に、今夜が山場だと言われ、信じられない想いのまま、3日後に母は亡くなりました。しばらくして落ち着くと、どんなに母に会いたくても会えない現実や、家に帰っても母がいない虚無感、言いようのない後悔や哀しみがものすごく襲ってきて。

自分がしっかりしていたら、もっと早く病院で治療ができて治っていたかもしれない。ほんの少しでもベースとなる知識を持っていれば、母の様子を見て入院前に気付ける部分があったかもしれないし、入院してからも進行具合から病状を察したり、ドクターに自分で意見をすることもできたかもしれない。

一生拭えない後悔が残りましたし、人生観を根底から覆されました。

13
今の自分は母に生かされていると語る岡さん

その後、祖父が認知症になったときの経験から、音楽と福祉の可能性に気付き、音楽療法の専門学校に入学。実習で、自分が受けた人種差別と同じように、障がいを持っているというだけで、少し違う扱いを受けている子どもたちに出会いました。

「社会的な受け皿」とは制度や設備の話ではなく、自分たちのような普通に生活している人間が、もっと医療福祉そのものに興味を持つことが大事なのだと気付き、福祉の世界へ飛び込むとともに、Ubdobeの活動を開始するに至りました。
 
14
Ubdobe初期のワークショップ。子どもたちを専門学校の一室に集めて音楽に合わせてアート制作

医療福祉ほどおもしろくてファンキーな仕事はない!

岡さんは「医療福祉は最高におもしろくてクリエイティブな仕事だ」と言います。

岡さん 福祉の仕事って、僕にとってはありのままでいられる場所なんです。だって、疲れているときに、デイサービス利用者のおばあちゃんが背中をさすってくれたりするんですよ。嬉しいじゃないですか。

生活を支えるのが介護や福祉の仕事なので、何か温かいんですよね。その温かい人と人とのコミュニケーションが、バランスいい状態で続けられるところが福祉の仕事のおもしろさだと思うんですよ。

自分が福祉の仕事をやってすごく魅力を感じましたし、僕以外にも、目をキラキラさせてやりがいを持って福祉の仕事をしている人がたくさんいます。

医療福祉界で現実に起こっている人材不足や超過労働などの問題にもまっすぐに向き合い、福祉のブランディングやイメージアップを図った活動にも奔走しています。

Ubdobeの理事を務める中浜崇之さんは、TBSの番組に出演した際、介護について以下のように語り大きな反響を呼びました。

中浜さん 介護の仕事は、利用者さんが自分の人生を最期まで自分らしく生きるために何をするべきか、どういう姿で最期を迎えたいか、ご本人と家族の想いを実現させるためにモチベーションを持って取り組むことのできるやりがいのある仕事です。

介護福祉士を増やすために、ただ給料をあげるのではなく、介護の仕事をしたらこういう価値があるんだよと、現場で働いている人が感じているものを世の中に出していくことが大切なんです。

15
首相公邸で開催された「守る福祉からの脱却」をテーマとしたイベント。国と医療福祉者たちの意見をつなげていくことも、Ubdobeの役割の一つです

16
専門学校で講演。全国の福祉団体や学校などからも講演依頼が絶えず、引っ張りだこ

構想10年。ノートに書き溜めていた夢がついに実現

2016年7月、Ubdobeは現在の活動の集大成として、東京都世田谷区の商店街の真ん中に、国内初となる医療福祉系セレクトショップ「HALU 〜Unique & Universal〜」をオープンしました。

年齢や障がいの有無、環境などを問わず使える「ユニバーサルデザイン」の玩具や、おしゃれで便利な医療福祉用品、最先端医療福祉機器、全国の福祉作業所でつくられた食品などを販売します。
 
17
世田谷区三軒茶屋の商店街の真ん中にオープン

18
学生、主婦、ミュージシャン、デザイナーなど、誰が訪れてもおしゃれで楽しめるお店づくり

岡さん ヘルパーをしていた頃に、自閉症の子どもが街でパニックを起こすと行く場所がなかったり、おじいちゃんと出かけたくてもゆっくりできる場所がなかったりという経験がありました。

悩み事があるけど相談できる場所がない、同じ思いを共有できる人が近くにいなくて不安だという現状を見て、医療や福祉のサービスを受けたり、従事している人が気軽に立ち寄れて頼ったりできる場所をつくりたいという想いを10年近く持っていて、ずっとノートに構想を書き溜めていたんです。

19
岡さんとともにUbdobeを立ち上げ、長年岡さんを支えてきた舘野友仁(ともみ)さん

店長は、Ubdobe理事・事務局長の舘野さん。HALU立ち上げへの熱い想いは、岡さんと同じです。

舘野さん 先日、お店に来た音楽家の方が、「医療福祉って関わったことがないから、すごく堅いものだと思っていたけれど、お店もおしゃれだし、こういう明るい打ち出し方もあるんだって衝撃を受けてちょっと考えるきっかけになったかも」と言ってくださって、とても嬉しかったです。

病気や障がいは、まだどうしても特別感があって、人々の日常生活からは遠いところにあります。本人や家族がその日感じたちょっとした悩みや不安を、ふらっと立ち寄ってこぼせる場所があったら、そこで多様な人々と交流ができたら、どんなに安心できるでしょう。

HALUでは、モノだけではなくて情報もセレクトできるよう、介護福祉士や社会福祉士などが応対する無料の医療福祉相談カウンターをつくり、ワークショップやセミナーも開催する予定です。
 
20
ふらっと立ち寄る市民と医療福祉をつなぐ架け橋に。これまでとは一線を画す新しい医療福祉のカタチの提供に挑戦します

店はオープンしたばかりですが、2人は既にずっと先の未来を見据えています。

岡さん 2020年までに全国10店舗を展開します。これから色々なことを仕掛けて、何かおもしろいことやってるぞって、全国からこの商店街に人が集まるようになれば最高ですね。

舘野さん 商店街を歩く一般の人にふらっと入ってきてほしいですし、学生にも勉強しにくる感覚で気軽に立ち寄ってほしいです。ちょっと疲れてお茶を飲めば、それは離島の作業所でつくられていたり、漫画を読めばそれは介護の本だったり。ほんの些細なことから、日常の考え方や就職などの何かしらにつながれば嬉しいです。

21
オープニングパーティーは大盛況

ヤーマン! で実現したい未来とは?

理想をどんどん実現しているようにも思える岡さんですが、まだ夢の道半ば。ほんの「2%」しか達成していないと言います。

岡さんの今のビジョンは2つ。医療福祉界の現場で輝く人を紹介するメディアをつくることと、2020年までにスポーツと医療福祉とストリートカルチャーの融合施設「ユニバーサルベース」を建設して国外展開し、Ubdobeを国際的なNPOにすること。
 
22
Ubdobe支部長の皆さん。信頼できる仲間とともに、さらなる飛躍を誓います

岡さん Ubdobe設立当初から、考え方は何もブレていません。医療福祉の本質的な楽しさとか、やりがいとか喜びを追い求めて働いている人たちが、自分の想いをフラットに言えるツールや場所さえあれば、医療福祉のおもしろさは必ず伝わると思っています。

今は医療ミスや虐待などの悲しいニュースばかり流れますが、その真反対のアプローチで、本質的な福祉の医療のニュースが見られるようにしたい。最終的にはテレビ局で番組を持つとか、そういうところまでやりたいんですよ。

ユニバーサルベースは2025年までに6か国ぐらいまで広げて、国外に展開してHALUをつくって、行政と絡んでイベントを仕掛けたい。発展途上国の福祉制度を外から変えるのは難しいので、国連に入って行政の中と市民運動と両側からアプローチできるくらいにまでなりたいんです。

個人的にはもうあまり不安なことはなくて、何でもできるんじゃないかみたいな、満ち溢れている状態です。僕、将来は国連に行きたいんですよ。国連事務総長になるのが小学校からの夢なんです!

突拍子もない夢でも、岡さんが言うと実現しそうな気がしてくるのが不思議です。これからますます需要の高まる医療福祉業界において、ポジティブ思考全開で新しい風を巻き起こしている岡さん。

このうねりに乗ることができれば、超高齢化社会を生き抜くヒントを見つけられるかもしれません。揺るぎない信念とエネルギーに満ちあふれた岡さんの今後の活躍に期待です。
 

心臓病とともに歩む親子が可能性にチャレンジするイベント「Challenging Heart Day」の様子はこちら

(Text: 齋藤めぐみ)