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株式会社ミュージックセキュリティーズ執行役員・猪尾愛隆さん

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

資金を集める。

言葉にすると簡単ですが、起業したり独立したり、中小企業が新たな事業に挑戦しようと思ったとき、必要なだけの資金を集めるというのは、とても大変なことです。たとえ借入ができたとしても、失敗した時に借金が残るのが怖くて1歩踏み出すのをためらっている、という人もいるのではないでしょうか。

そんな中、資金調達の手段としてにわかに注目を集めているのが、投資、それもインターネットを活用した「ふるさと投資」です。

2014年10月には国の地方創生戦略の一環として、地方公共団体や地域金融機関、支援団体や関係省庁などで構成される「ふるさと投資連絡会議」も発足しました。

これは、地域活性化につながる事業に対して、クラウドファンディングの手法を活用した資金調達を「ふるさと投資」と呼び、普及・促進していくものです。単に地域活性化につながる事業というだけではなく、地方公共団体や金融機関との連携などが図られていることが特徴となっています。

このふるさと投資連絡会議に参加し、ふるさと投資を積極的に推進しているのが「ミュージックセキュリティーズ株式会社」です。ミュージックセキュリティーズは、すでに300社以上が資金調達のプラットフォームとして活用しているサービス「セキュリテ」を運営しています。

ミュージックセキュリティーズの執行役員で、証券化事業部の猪尾愛隆さんは、「地域に魅力的な仕事をつくるため、元金返済義務のない資金が地域に供給されることの必要性を強く感じている」と言います。
 
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ミュージックセキュリティーズが運営する「セキュリテ」のトップページ

ふるさと投資の仕組み

しかし投資と聞いてしまうと、なんだか縁遠いイメージをもっている人も多いのではないでしょうか。かくいう私自身、投資は預貯金の運用を考えるほど生活に余裕がある、少し上の世代の人がやっているもの、という印象がありました。

そもそも、日本では投資家から資金を集めるという感覚が、あまりありません。資金調達の手段としては、金融機関からの融資や行政からの補助金が一般的です。

一方、ふるさと投資は、個人が1口数万円程度の少額から投資することができ、小さな事業者でも利用できる気軽なものです。

各ファンドは会計期間が定められており、原則、毎年決算が行なわれ、分配金を受け取ることができます。当初の事業計画どおりに売上が上がっていれば分配金は投資金額を超え、売上が思ったように伸びなければ、分配金は投資金額を下回ることもあります。

また、商品プレゼントや現地視察ツアー、施設利用券など、ファンドによってさまざまな投資家特典がついているのも楽しみのひとつです。この特典目当てに投資する人も多いそうです。

1口数万円でも、数百人が投資すれば、かなりの金額になります。その資金を元に、新たな事業を始めたり、事業を拡大するために必要な資金に充てていくというわけです。
 
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たとえばこちらは「丸山珈琲とコスタリカ生産者ファンド」の投資家特典。1口27,000円で、4,000円相当のコスタリカ産コーヒー100gとドリップバッグの詰め合わせがもらえます。口数に応じて、コーヒー豆や丸山珈琲の基準水、直営店で利用できる金券などさまざまな特典が追加されます

ふるさと投資が地域活性化に有効なワケ

投資のいちばんの動機は、投資家としてお金を増やしたいからというよりも、その事業に役立ちたい、関わりたい、応援したいっていう場合が多いんです。

地域の特産品や伝統工芸、まちづくりに関連する事業が多いふるさと投資は、もともとその商品のファンだった人が応援+投資家特典目当てで出資したり、自分の出身地域の取り組みを応援したいなど、地域や事業への純粋な思い入れから投資する人が多い傾向があります。

また、Uターンしたくてもすぐにはできないという若い人や、将来、その地域に移住したいと思っている人が現地とのつながりをつくるツールとして投資するといったケースもあるそうです。
 
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「くまもと県民発電所 幸せファンド」は、328人から約5,000万円の投資を受けました(現在は受付終了)。九州の強い陽射しを利用した太陽光発電所はこれまでも各地で設置されてきましたが、その多くが海外や県外の資本によるものでした。そこで県をあげて、地域資源を活用した収益・利益が県内に還元されるよう、熊本いいくに県民発電所株式会社を設立。ふるさと投資による資金調達にチャレンジしました。出資者の約8割が県内在住者であり、収益は地域内に還元していくことになります

“こういう地域にしたいよね”っていう思いがあったとしたら、“だからこういう企業を応援したいよね”っていうことになると思うんです。その“こういう企業を応援したい”っていう個人の気持ちを地域でチャレンジしたい人にお届けしていくことが大切だと思っています。

そのために、ミュージックセキュリティーズも、約60の金融機関や全国各地の地方自治体と提携しています。ふるさと投資に向いている事業があれば紹介してもらうためです。

それによって地域に愛され、将来性のある企業が、ふるさと投資で資金を調達し、事業を実施できることにつながっています。

その他のクラウドファンディングとの違いは?

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伝統的な産業の支援にもふるさと投資は有効です。「角口酒造店 北光正宗ファンド2016」

近年よく利用されているクラウドファンディングも投資のひとつの形です。しかし、クラウドファンディングはある意味で、善意によって資金を集める要素が強く、知人友人や関係者からの出資が多くを占めています。

投資は、お金を投じる、事業をやる、お金が戻ってくる、結果その事業がどうなるか、そこまで見届ける必要があります。増えるかもしれないし、減ってしまうかもしれない。だから“お金を出してモノをもらったらおしまい”じゃなく、関係がより継続的なんです。

心を込めて出資したからこそ、誰もが事業の行く末を自分ごとのように見守っています。もちろん、正直に言えば分配金がどうなるかも、気になるところでしょう。こうしたひとつの運命共同体、同じ船に乗る感覚を通じて、継続的な関係性が築かれやすいのです。

地方に“リスクマネー”を供給する

ところで、ふるさと投資が広く注目を集めたのは、2011年、セキュリテを通じて実施した東日本大震災の被災地支援ファンドがきっかけでした。

東日本大震災のあと、ミュージックセキュリティーズでは、資金集めを通じて被災地支援ができないかと「セキュリテ被災地応援ファンド」という特設サイトを立ち上げたのです。するとかなりの反響があり、2015年現在、37社が利用し、のべ約3万人から合計で11億円が集まりました。
 
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セキュリテ被災地応援ファンドの特設サイト

今、改めて思うのは、東日本大震災をきっかけに、もともと日本の地方が抱えていた課題が顕在化した部分があったんじゃないかということです。そして復興が、それらの課題解決に必要なことを明確にするきっかけになりました。

たとえば、地方の課題のひとつに雇用があります。雇用がなければ若者は離れていかざるえなくなり、子どもは減ってまちは衰退します。若者離れを食い止めるためには、働きたいと思う魅力的な仕事が必要です。そして、そんな仕事をつくり出すためには新しいチャレンジが大切になってくるのです。

この新しいチャレンジを増やすために必要なことのひとつが、仮に失敗したとしても経営者に調達した資金の返済義務がなく借金が残らない、いわゆる“リスクマネー”だったのだと思います。

チャレンジを増やすためには、リスクを負う投資家を増やすことが必要

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リスクマネーっていうのは“リスクを許容するお金”のことです。投資する側が返ってこなくても許容できる範囲で投資する。だから事業者は思い切ったチャレンジができるんですね。

たとえば融資を受ける場合、もしその事業がうまくいかなかったら、多くの場合、経営者が会社に代わって全額返すことが義務づけられています。場合によっては自宅を売却したり、金額によっては自己破産せざる得ないケースもあります。つまり、借入で調達した資金については、経営者が多くのリスクを背負っている状況です。

もちろんその覚悟があるから死ぬ気で頑張り、成果が生まれるという考えもあります。でも、こうした多くのリスクを背負わないといけない状況では、チャレンジする人を増やすことには限界があると思います。

そこで、万が一事業がうまくいかなかったら返さなくていいよっていう“元本返済義務のないお金”がふるさと投資で調達する資金なんです。そういうお金が増えないと、チャレンジする人が増えていきません。世の中のチャレンジの量を増やすことと、リスクを負ってもいいよという投資家を増やしていくことは同じだけ必要なんです。

これまで、こうしたリスクマネーを調達できるケースというのは、一般的には、株式上場などを前提に高い成長率が見込める事業者に向けたベンチャーキャピタルからの資金調達でした。

しかし、必ずしも上場を視野に入れたような急成長ストーリーを描いている事業者だけではありません。急成長はしないかもしれないけど着実に事業を継続させていくために挑戦していきたいという事業者さんには“個人からの元本返済義務のないお金”が有効なんです。

実際、ふるさと投資を利用したある企業の社長が、元本返済義務のないお金と、投資家さんからの応援の言葉がなければ、事業の拡大はできなかっただろうと話してくれたことがあるそうです。

その企業は、結果として、店舗も増え、事業も着実に成長しています。

もちろんこうした良い結果ばかりではありませんが、まずはチャレンジ、行動を起こさなければ成功もありません。そのためには、ファンドによって、精神的にも経済的にも余裕を届けることが大事だと思っています。

とはいえ、大前提として、元本返済義務のないお金はもらいっぱなしの寄付とは違います。自分の事業計画を信じてもらい、期待してくれた個人の投資家の方々に、何が何でもお金を増やして分配したいというプレッシャーが、経営者にとっては、簡単には心が折れないストッパーになっています。

既存の金融機関や大きなファンドから1億円調達できることも必要なことですが、1万円ずつ1万人が出して集まった1億円は、価値や意味合いがちょっと違ってくると思っています。

なぜなら投資家のみなさんは、いくら小口でも、気に入っている商品やうまくいきそうな事業にしか投資はしないからです。1000人が期待して、支えてくれていると思ったら、勇気にもなるし、ちょっとやそっとじゃ辞められないですよね。

それは裏を返せば、お金以外の自信や勇気までも届けられるということですし、商品やサービスを新たに投入するうえでの事前のニーズ把握にもなります。こうしたメリットは、お金と同じくらい大事なことです。

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現在募集中のファンドの数々。何度目かのチャレンジをしている企業も増えてきました

トライ&エラーの回数が多くなれば、イノベーションが生まれる

ところで、なぜシリコンバレーでは、あれだけイノベーションが生まれるのでしょうか。それは、ベンチャーキャピタルが、日本の約30倍ものリスクマネーを供給しているからだそうです。

だからシリコンバレーでは、何度立ち上げに失敗しても、またチャレンジすることができます。トライ&エラーの回数が多いから、イノベーションが生まれるんです。

確かに今の日本では、起業は一世一代の大勝負。失敗すればあとはなく、その後の人生はけっして楽ではないでしょう。チャレンジに対する負担を社会で分担することが、新しい世界を加速度的に広げていくひとつのカギなのかもしれません。

若者のチャレンジは、若者が支える!

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そして猪尾さんがこれから重視して進めていかなければならないと感じているのが、若者の投資への参画です。

今の日本の投資の課題は、投資はもっと上の世代の、お金をもっている人がやるものだと思われていることなんです。

新たなチャレンジであればあるほど、融資での資金調達だけでは難しい場合があります。そういう場合、そこに投資のお金を流す必要があるのですが、上の世代の人たちばかりが投資していると、どうしてもその世代の人たちがいいなと思うものにお金が流れやすくなってしまいます。

20代、30代こそ、これからのチャレンジの当事者になってくると思います。いきなり当事者になるのは怖いし、何をすればいいのかわからないことも多いかもしれません。

でも数万円の投資で、何かあってもその金額が戻ってこない、ということだけなら、当事者としてチャレンジすることよりもリスクは少なくて済みますし、これがチャレンジの始まりとなることもあると思うんです。

だから、もっと若い人たちに投資に関心をもってもらいたい。投資する側に、そういう面での価値やメリットがあるとわかってもらいたいですね。

ちなみに現在、ミュージックセキュリティーズでは、2016年4月に起こった熊本地震を受け「熊本地震被災地応援ファンド」を準備中。半分寄付・半分投資のスタイルで、被災から立ち上がる事業者を、出資を通じて支援・応援することができます。熊本県庁、熊本大学、熊本商工会議所連合会と協定を締結し、まもなく募集開始予定となっています。

どこにお金を流すのか。投資という仕組みを使えば、私たちは自発的に、自分の意志によってその選択をすることができます。災害からの復興支援においても、投資というウィンウィンな関係を築くことで長期的に被災地を見守り、再出発のお手伝いをすることができるのです。
 
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「セキュリテ熊本地震被災地応援ファンド」の特集ページ

理想の社会を実現するために、行動する!

ソーシャルデザインという言葉が当たり前になり、あちこちで思いのこもったすばらしい取り組みが立ち上がっている今、私たちはもう、ほしい未来を自分たちでつくろう、という意志はもっていると言っていいのかもしれません。

次は、同世代で手と手を取り合い、現実的に、その意志を形づくるとき。ふるさと投資は、そのために必要な資金や人的つながりをつくる手法のひとつになりえるでしょう。

新しいチャレンジに主体者として踏み出すのも、応援したい取り組みに投資するのも、どちらも理想の社会を実現するための第1歩。あなたが支えたい取り組みが広がり、その結果、あなたが描く未来にますます近づくように、まずはふるさと投資で応援するところから始めてみませんか?