女優の芳根京子(19)がヒロインを演じるNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」(月〜土曜・前8時)が、10月3日にスタートする。デビューからわずか3年でヒロインの座を射止めた実力派。しかし、幼少期は極度の人見知りで、他人とほとんど話せなかったという。高1で巡り合った役者の道を「ずっと続けたい」と語り、初めての一人暮らしで朝ドラの撮影に没頭する日々。変貌を遂げた中高時代の秘密、大舞台に臨む女優としての覚悟に迫った。

 神戸市の子ども服メーカーの創業者をモデルとした「べっぴんさん」。芳根は、太平洋戦争で財産を失いながら、子ども服作りにまい進する芯の強いヒロイン「坂東すみれ」を演じる。5月からの撮影は中盤にさしかかったが、気持ちは新鮮なままだという。

 「初心を忘れちゃいけないという思いもあるけど、『主演だから』と思い過ぎると自分にプレッシャーをかけてしまいます。気負わず、でも、現場に一番長くいる人間として作品を一番愛していたい。ヒロインに決まった時から、ブレることなく同じ気持ちです」

 昨年3月まで女子高生だったが、今年4月、2261人の中からヒロインに選ばれた。東京の親元を初めて離れ、大阪で経験する一人暮らしは極めてストイックだ。

 「基本は自宅とスタジオの行き来だけ。自分がなぜ大阪にいるのか、やるべきことは何かと考えます。休みでも洗濯、掃除をして、台本を読んで。この1年はプライベートはいらないと思って大阪に行きましたが、一生に一度のこと、必ず終わりが来る。だから今を大切にしようと思ってます」

 ストイックな姿勢は、撮影に臨むまでの準備も同じ。NHKから渡された膨大な資料を読破し、自ら望んで歴史に関する資料館に足を運んだ。さらに、昭和初期から戦後に至る物語の時代背景を知るため、実の祖母の半生をたどった。

 「クランクイン前、祖父母の年表を作ってくるようにと監督から宿題が出たんです。東京で一緒に住むおばあちゃんに、生まれた時のことから、いつ東京に出て、戦争が始まって、どういう生活をして、戦争が終わった時はどんな気持ちだったとか、全部聞きました。その年表を通じて時代が見えてきた。やるからには、できることは全部やりたい。それだけの役割をいただいているので、精いっぱいやらないと失礼と思うんです」

 「すみれ」は19歳で結婚し娘を授かる。同年齢の自身は結婚も出産も未経験だが、撮影を通じ、自らの母性に気づいたという。

 「出産シーンを撮影した日、リハーサルでは赤ちゃんの人形を使ったんですが、その時から大号泣でした。スタッフの皆さんは大笑い。どう見たって怖い人形なんだから『泣くな』って。本番は本当の赤ちゃんが一緒で、産んだわけでもないのに自然に涙が出ました。自分自身がまだ子どもだと思っていたのに、こんな気持ちが自分にもあるんだなって。将来は絶対に子どもが欲しい。でも、自分の子どもが生まれた時はどうなるんだろう。泣きすぎて、脱水症状で消えてしまうんじゃないかと思います」

 ベテランから子役まで、共演者も百花繚(りょう)乱の朝ドラ。先輩俳優からは、何かを吸収してやろうと貪欲だ。

 「前半はお父様(生瀬勝久)と2人きりのシーンが多いんですが、慣れてしまった時があったんです。生瀬さんは『今までのことは全部忘れて、届けて』って言ってくださった。『そうか、セリフではあるけど、ちゃんとすみれの言葉として届かせないと意味がないんだ』ってことに気づきました。お芝居であるということを、私の頭から抜き去っていただいた。その時の自分の感情を大切にしようと、思うようになりました」

 友人の一人を演じる百田夏菜子(ももいろクローバーZ)とは昨年、映画と舞台でも共演。友好を深める一方、ライバルとも感じるようになった。

 「撮影の合間に夏菜子ちゃんが(ソファに)座っていたら、必ず横にくっついて座ります。夏菜子ちゃんは『暑いよ』『こっち来んな』と。最近は横どころか、膝の上。身を全部ささげられるぐらい、安心しています。でも、今までになかったような『負けたくない』という気持ちも出てきました。オーディションで選んでもらったからには、やっぱりこの人がヒロインだなと思ってもらいたい。(百田とは)すごく仲は良くて、ご飯も一緒に行くけど、同世代みんなでそんな思いになれば、もっといい作品が作れると思います」

 順風満帆でステップを駆け上がっているように見えるが、志願して芸能界に入ったわけではない。幼少期はむしろ、自他ともに認める引っ込み思案だった。

 「今と180度違うと言っても過言ではないぐらい、人と話すことができなかったんです。怖くて、人見知りで、お母さんの後ろにずっとくっついてるような子で。授業で手を挙げたこともなかった。変わったのは中学から。吹奏楽の部活で、自分の意見を言わないといけない機会も増えて、自分の思っていることを分かってくれる人がいるという、小さな出来事がうれしくて。友達に恵まれたと思います」

 芸能界との出会いは高1の夏。コンサート会場でスカウトされた。

 「文化祭で映画を作る企画があって裏方の仕事をやったんですが、スカウトされたのがその直後だったんです。本物の映画ってどうやって撮るんだろうと、興味を持ったのが始まり。映画もテレビも全く見てこなかったので、最初はそれほど強くこの仕事を続けたいと思っていたわけではありません。まだ高校生だから、何かまたやりたいことが出てくるだろう、ぐらいの気持ちでした」

 そんな芳根が今、「この仕事を続けたいって強く言える」のはなぜか。苦手だったはずのコミュニケーションを通じて、徐々に演技の楽しさを知ったという。

 「いろんな方と会って、いろんな話を聞いて、作品を経験して変わりました。やっぱり大きいなと思うのは、監督からの言葉。昨年の『表参道高校合唱部!』では(TBSの)石井康晴監督がお父さんのように声をかけてくださった。その時だけじゃなく、今も気にかけてくださいます。それがすごくうれしくて。またご一緒できることを、目標にしたいと思います」

 4度目のオーディション挑戦でつかんだヒロイン。「遠い存在すぎて、リアルに考えたことはなかった」という夢が現実になった今、はっきりとは見えないからこそ、将来が楽しみだ。

 「どんなふうになれるんだろうって思うんです。自分で思い描いたからといってそこに行けるわけではないし、『あの女優ってこんなイメージだよね』というのも、お芝居を見て周りの人が決めること。全く想像がつきません。終わってどんな女優に成長できているのか、私自身、ワクワクしながら待ちたいと思います」

 ◆芳根 京子(よしね・きょうこ)1997年2月28日、東京都生まれ。19歳。2013年、フジテレビ系ドラマ「ラスト[ハート]シンデレラ」で女優デビュー。14年前期のNHK連続テレビ小説「花子とアン」で、ヒロインの親友の娘を演じ、同年の映画「物置のピアノ」で初主演。ドラマは1000人以上のオーディションを勝ち抜いた15年のTBS系「表参道高校合唱部!」で初主演。今年のヒット映画「64―ロクヨン―」(前後編)にも出演した。文化放送「芳根京子のみみにリコピン♪」(火曜・後11時30分)がレギュラー放送中。特技はピアノ、フルート、持久走。身長159センチ。血液型A。

 ◆「べっぴんさん」 乳幼児・子ども服メーカー「ファミリア」(神戸市)の創業者・坂野惇子さんがモデルの一代記。戦争で全てを失ってしまったヒロイン・坂東すみれ(芳根)が、高度成長期に至る神戸・大阪で強く生き抜く姿を描く。共演は菅野美穂(語りも担当)、中村玉緒、市村正親、永山絢斗、高良健吾ら。脚本は、フリーの羽鳥慎一アナウンサーの妻・渡辺千穂さん。主題歌は「Mr.Children」の「ヒカリノアトリエ」。