車いすテニスの上地結衣(22)=エイベックス=は昨年9月、リオデジャネイロ・パラリンピックのシングルスで日本女子初の銅メダルに輝いた。同年報知プロスポーツ大賞の特別賞も受賞。年間約200日も海外ツアーを転戦するハードスケジュールだが、2020年東京パラリンピックで金メダルを目指し、こだわりのリラックス法で乗り切っているという。オフの過ごし方にも迫った。

 2016年は、その名がとどろく一年になった。リオ・パラリンピックで、日本女子初のシングルス銅メダル。二條実穂(36)=シグマクシス=と組んだダブルスでも、4強入りと健闘した。男子には08年北京、12年ロンドン・パラリンピックでシングルス2連覇を達成し、4大大会でも歴代最多となる単複通算40勝を挙げた国枝慎吾(32)=ユニクロ=がいるが、女子は名実ともに上地の時代が訪れようとしている。

 「3年後の東京パラリンピックで金メダルを取るのが最大の目標。誰もが認める世界一になりたい」。上地は目を輝かせる。

 ツアー生活は文字通りの体力勝負。通常1年間で15〜16大会、多い年は20大会弱を転戦する。年間に約10か国を訪れ、365日のうち、200日は海外で過ごす。4大大会など大きな試合であれば、調整のための前哨戦を含めて、同じ国に1か月ほど滞在することもある。5年更新のパスポートは、入国と出国のスタンプでいっぱいだ。

 「テニスを始める前から海外に行くのが好きで、小学校の頃は短期留学に興味を持ったりもしていた。留学は受け入れ先がなくて結局、実現しなかったから、違う形(ツアー)で海外にたくさん行けてうれしいと思っている。どこでも寝られて、どこでも食べられる方。遠征の飛行機も、映画を見たりして自然と楽しむようにしている」

 ポジティブ思考はもちろんだが、日本で過ごす期間にできるだけリラックスするよう心がける。だからこそ好調を持続できている。ストレス解消法のひとつが、料理だ。自炊には、豊富な海外経験を生かす。

 「遠征先で食べておいしいなと思ったものを、自宅で再現してみるのが好き。タイ料理が得意で、『パッタイ』(米粉のビーフンを使ったタイ風焼きそば)とか『ガパオライス』を作ってみたり」

 スーパーで食材を調達し、おいしかった外国の味を思い出しながら腕を振るうと気分も良くなる。女子らしく、デザートにも挑戦する。「杏仁(あんにん)豆腐とか。今はオーブンがないので、近いうちに買ってお菓子作りもやってみたい」

 練習も休みの完全オフの日があれば、スポーツ観戦で気分転換する。出かけるのは、パラリンピックのスポーツが多い。リオ大会で銅メダルに輝き、人気も高まっている車いすラグビーがお気に入り。

 「観客の数も多いし、(ルール説明など)会場のアナウンスも工夫されている。車いすテニスにも生かせる部分があるんじゃないかな。ほかに機会があれば、ゴルフは生で見に行ってみたい。まだあまりイメージがないので」

 サッカーやフィギュアスケート、バレーボールをテレビ観戦するのも好き。他競技への興味は尽きない。

 一昨年の2月から、兵庫県内の実家を出て大阪府内のマンションで一人暮らしを始めた。2LDKの広めの物件。徐々に自分色に模様替えしていくのが大きな楽しみになっている。“理想の上地家”とは、どのような部屋なのだろうか?

 「部屋には結構こだわりがあって。まず、ベッドルームは全部白。シンプルな方が好き。海外でホテル生活をするので、白がおシャレでかわいいイメージがついているんだと思う。まだ実現していないけど、お風呂も、本当は木目調の温かい感じにしたい。お風呂っぽくないのが好きで。リラックスできるように、バスソルトを入れたりしてゆっくりできれば良い。でも現実は、さっと(シャワーで)済ませちゃうことも多いけど(笑い)」

 リビングは少しずつ理想に近づけられている。ガラス製テレビ台とコーヒーテーブルを置き、床に座ってくつろげるようにした。「デザインが好きだったから、テレビ台とテーブルをセットで買ったのがこだわり。ソファはグリーン系で、落ち着けるような感じ」

 高校時代の友人を招待してガールズトークを楽しむのも、テニスを離れて気持ちを休められる時間だ。

 充実の私生活でエネルギーをため、今季は1月から大きな目標に挑む。4大大会・全豪オープン(車いすは25日開幕、オーストラリア・メルボルン)でのシングルス初制覇だ。過去2度の準優勝(14、15年)が最高成績。全豪で初優勝を果たせば、未勝利はシングルスが昨年に創設されたばかりのウィンブルドン選手権だけになる。キャリアで4大大会を完全制覇する生涯グランドスラムに王手をかけることになる。

 「20年東京大会で金メダルを取るために、しっかりと段階を踏める一年になれば良い」

 全豪制覇と合わせて狙うのが、14年以来、3年ぶりのシングルス世界ランク1位復帰だ。最新のランキング(9日発表)で、上地は3177点で2位。1位は、リオ・パラリンピック金メダリストのグリフィユン(オランダ)で4588点。絶対女王を上回る成績をコンスタントに残し、約1400点差を詰めていくことになる。

 「ランキングのことばかりを考えているわけではないけど、世界1位にはまた戻りたい。前回(14年に)1位になった時は、(実力不足で)自分がトップにふさわしいとは思えなかった。今度は胸を張って1番だと言える選手になりたい」

 自国開催の東京パラリンピックまで、残り3年半。今オフには試合用車いすの改良に取り組み、座面を5センチ高くして一体感と操作性を増すなど試行錯誤を続ける。女子ではオランダ勢が世界ランク1位、3位、4位を占めるなど選手層が厚い。上地が金メダルを争う上で、必ず倒さなければならないライバルだ。

 「(東京パラリンピックは)日本の中心となって盛り上げていくべき存在だと自覚している。焦らず、目の前の試合を一つ一つプレーしていけたら」

 日進月歩の先に、栄冠が待つと信じている。(ペン・細野 友司)

 ◆上地 結衣(かみじ・ゆい)1994年4月24日、兵庫・明石市生まれ。22歳。潜在性二分脊椎症で足にまひがあり、11歳から競技を始める。14歳の時、史上最年少で日本ランキング1位に。パラリンピック初出場の2012年ロンドン大会は単複8強だった。リオ大会はシングルスで日本女子初の銅メダル。4大大会シングルスでは、14年全仏で初優勝するなど2勝を挙げ、ダブルスは9勝。143センチ、45キロ。