2016.9.23「もはや街路ではなかった。世界だ。落ちてくる灰で夜のように暗くなった時空間の世界。…これもまた世界だった−千フィート頭上の窓に見える人影が何もない空間に落ちていく」▼米の作家ドン・デリーロの小説「墜ちてゆく男」は9・11テロで崩壊する世界貿易センタービルの描写で始まる。生き延びたエリート・ビジネスマンと、彼を取り巻く人々。繰り返される「あの日」の記憶▼「あれは“以前”のことだし、今は“以後”なんだ」。新たな人生を歩む登場人物に、生々しい記憶が付きまとう。デリーロは9・11を、国際政治の高みから見下ろすことなく、個々の痛みの記憶に降りていく。そこから物語をつむいでいく▼封じ込めどころか、拡散し続けるテロ。9・11から15年の追悼行事を経て、国連総会開幕中のニューヨークで爆発事件が起きた。「同時テロを思い起こした」。新たな衝撃が、市民の癒えぬ痛みを倍加したことだろう▼テロの温床となる中東の難民問題にどう対処するか。国連サミットでは、難民受け入れや支援で各国が責任を公平に分担するとした宣言を採択。安倍首相も支援金の拠出を表明した▼国連難民高等弁務官事務所によると、紛争や迫害で強制的な移住を余儀なくされた人は約6530万人。個々の苦しみへ思いをはせることから、テロなき世界を展望したい。