(佐々木圭吾 著 日経ビジネス人文庫 2016年7月)

 

 本書は、2013年に単行本として刊行された『みんなの経営学』(日本経済新聞出版社)の文庫版であり、著者は社会人向け大学院で教鞭(きょうべん)を執る経営学者です。「みんなの」というタイトルには、すべての人が身に付けるべき教養としての経営学という意味が込められているとのことです。

 第Ⅰ章では、経営学の最も基本的な考え方を、権限受容説という考え方を基に解説しています。著者は、経営学は儲けるための学問ではなく、よりよく生きるための学問であるとしており、それが「経営学はなぜ必要か」を問う第Ⅰ章のテーマにもなっています。第Ⅱ章では、企業とは何かについて、米国や日本の企業の生成や発展の歴史をひも解きながら、その本質に対する基礎的な知識を解説しています。ここでは、ドラッカーなどを引きながら、企業を単に営利を追求するためのものではなく、人間の理想を実現するための装置として位置づけています。

 第Ⅲ章では、モチベーションについて考察しています。代表的なモチベーション理論を歴史的な流れに沿って紹介するとともに、金銭的インセンティブの効果について、その"負の効果"も含めて捉え、内発的動機付けをもたらすマネジメントとはどのようなものかを考察しています。第Ⅳ章では、リーダーシップを取り上げています。リーダーシップ論の初期から今日に至る流れを追うとともに、なぜ優れたリーダーは少ないのかを探り、サーバント・リーダーシップという視点を通して、企業におけるこれからのリーダーの在り方を考察しています。

 第Ⅴ章では、経営組織について、組織概念の解説からスタートし、なぜ組織が必要なのかという基本的テーマを追っています。著者は、組織論はこれまで経営学の中心的な位置を占めてきたが、今日では、官僚制など大規模組織を無用の長物とする見解もあり、組織論は混迷の時代にあるとしています。第Ⅵ章では、経営戦略の本質的な特徴に迫っています。ここでは、経営戦略策定のための基本的な理論枠組みとツールを紹介し、よい経営戦略とはどのようなものかを考察しています。

 最終章である第Ⅶ章では、あらためて、経営戦略の活かし方についての基礎的な話をしています。例えば、日本発の世界的な経営学パラダイムであるナレッジ・マネジメント論などを紹介し、今日の経営を取り巻く環境の変化から、経営学の進んでいる方向についての著者の見解を述べています。

 経営学はそもそも人々の役に立っているのかという疑問からスタートし、著者自身がビジネスパーソンや経営者との関わりの中で、経営学と現実のギャップを感じたことなども素直に問題提起され、また真摯(しんし)に考察されています。そのためテキスト然としておらず、読みやすいものとなっています。

 一方で、中核部分で、モチベーション、リーダーシップ、経営組織、経営戦略という経営管理の根幹を成すテーマを扱っており、その中で、経営学の代表的な概念や学説は、ごく簡潔ながらも網羅されています。例えば、第Ⅲ章のモチベーションの箇所で解説されている、マズローの欲求段階説やハーズバーグの二要因理論は、人事パーソンの必須常識と言えるでしょう。

 必ずしもすべてのビジネスパーソンが大学等で一般教養としての経営学を学んだわけでもなく、それは人事パーソンについても言えることでしょう。こうした教養を身に付けるには、基本を先に押さえてしまったほうが効率的であると思います。本書の場合、ビジネス現場への応用となるとややもの足りないかと思いますが、入門書、おさらい書としてはお薦めできるかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2016年8月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき
 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー 
ジンジュール