企業の教育研修は本当に役立っているのか? 第3回 教育研修が浸透・定着しないメカニズムと改善のアプローチ
【短期集中連載】企業の教育研修は本当に役立っているのか?(3)
大野順也 おおのじゅんや
株式会社アクティブ アンド カンパニー 代表取締役
前回は、教育研修の組織や現場への浸透・定着は、『“組織や現場”と“受講者”』の関係の上に成り立っていること、教育研修を組織や現場に浸透・定着させるためには、“組織や現場”と、“受講者”の関係改善が教育研修の組織や現場への浸透・定着の一助になること、最後に、“組織や現場”を巻き込んだ教育研修の企画や工夫が必要であることを述べた。
今回は、前回コラムの内容を踏まえて、教育研修が組織や現場に浸透・定着しないメカニズムとアプローチ方法について考察したい。
■浸透・定着を阻害している要因
弊社では、二つの観点から組織・人事コンサルティングを行っている。一つは人的資源管理の観点。人的資源管理とは、人材を経営資源の一つとして位置付けた考え方であり、人材を有効的に活用することを目的に、制度や体系などの、仕組みやルールを構築して人材をマネジメントする考え方である。もう一つは組織行動の観点。組織行動とは、組織内での人の行動に着目した考え方であり、組織における人の行動特徴や法則性を用いて、組織をマネジメントする方法である。
前回コラムで一部述べたとおり、教育研修が組織や現場に浸透・定着しないといった事象は、組織と研修受講後の受講者との関わり合い、つまり、組織行動に解決の糸口の一つがある。
第2回のコラムで、“受講者が教育研修を通して新しいスキルや能力、発見を有し、組織や現場で体現する取り組みを試みたとしても、知らず知らずのうちに、その試みを所属長や所属する組織が否定してしまっている場合がある”と述べた。この状況は、「アッシュの同調実験」と同様の現象が組織の中でも起こっていると考えられる。
「アッシュの同調実験」とは、社会心理学者/ソロモン・アッシュが行った実験のうちの一つで、1人の被験者と7人の実験協力者でチームを作り、線の比較判断課題を用いて行った実験である[図表5]。
この実験では、実験協力者7人にわざと間違った回答をさせ、1人の被験者が正しく回答できるかを数回に渡って実施した。その結果、1人の被験者が真に正しい回答がいずれであるかが分かっていても、1回以上間違えた回答(同調)をした率は、74%にも上った。またこの同調は、課題の重要性や困難度、集団の凝集性(組織の一体感等)が増すほど増大し、さらに失敗体験や自信が低下している状況下においても、発生しやすいことが分かっている。
つまり、教育研修が組織や現場に浸透・定着しない要因の一つに、教育研修で学んだことを組織や現場で展開・実施・共有したとしても、組織や現場の多くの人が、その行為や行動を是としない環境を作っていることが考えられる。是としない環境とは、意図して是としないだけでなく、教育研修を通して学んだことを、組織や現場が知らないことも含んでいる。その結果、教育研修を通して学んだ内容は、組織や現場に浸透・定着することはなく、受講者は組織や現場で行われている旧態依然の方法や、考え方に同調する結果になることが考えられる。
■浸透・定着を円滑にするアプローチ
“組織や現場”と“受講者”の関係を改善していくために弊社では、教育研修に対して組織開発のアプローチを組み入れたコンサルティングを行う場合がある。
組織開発とは、組織の力を高めることを目的に、人と人、組織と人、組織と組織の関係性や業務プロセス、意思決定プロセスなどの改善を通して組織活動の効率を高め、組織と人が相乗効果を生み出している状態を作り、人の行動に変化を促す考え方である。具体的には、組織横断的な取り組み(クロスファンクショナルチーム等)や非日常的な目的に沿った取り組み(ワークアウト、ジュニアボード)を通して、人の行動に変化を促す考え方である[図表6]。
組織開発の考え方を含んだ教育研修を企画し、実施することで、教育研修の組織や現場への浸透・定着を実現している。
■第3回コラムのポイント
・組織や現場に同調状態が形成され、教育研修が組織や現場に浸透・定着しない場合がある。
・組織や現場の同調状態は、教育研修に対する関心の低さから、意図せずに発生している場合もある。
・組織や現場の同調状態を回避し、教育研修を組織や現場に浸透・定着させていく方法として、組織開発のアプローチがある。
参考: 教育研修内製化支援コンサルティングサービスの詳細はこちらから
http://www.aand.co.jp/consulting/inhouse.html
■代表者略歴
大野順也(おおのじゅんや)
株式会社パソナ(現パソナグループ)の営業を経て、営業推進、営業企画部門を歴任し、同社の関連会社の立ち上げも手掛ける。後に、トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト・トーマツコンサルティング株式会社)にて、組織・人事戦略コンサルティング業務に従事し、2006年1月に『株式会社アクティブ アンド カンパニー』を設立し、代表取締役に就任。現在に至る。
■事業内容
アクティベーションマネジメント(※)を用いて、組織活性化に寄与するコンサルティングサービスを提供。
<コンサルティング領域>
・方針・戦略策定領域(MVV/事業価値転換)
・HR領域(人事制度/人材育成/人材採用)
・コミュニケーション領域
・ワークプロセス領域(目標管理/顧客満足/業務改善)
・マーケティング領域
・診断領域(サーベイ)
※アクティベーションマネジメントとは、「人的資源管理」と「組織行動学」の考え方を基軸に、組織内部と組織外部に対するアプローチを行うことで、組織の活性化(及び再活性化)を図る弊社独自のコンサルティング手法です。
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