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「気持ち的に追い詰められる苦しい役なので、私生活でも自分を崖っぷちに追いやりました。たばこやお酒をやめ、睡眠も削ってストレスにつかってみたんです」

そう語るのは、映画『函館珈琲』(9月24日より、東京・ユーロスペースほか全国順次公開)で主人公の小説家・桧山英二を演じる黄川田将也(36)。物語の舞台は函館の洋館・翡翠館。職人や作家ら、オーナーの目にかなった人たちが暮らす館の住人に、桧山も仲間入り。彼らはそれぞれに挫折感や孤独を抱えていた。桧山はここで古本屋を始める。が、彼は『不完全な月』という小説を書いて以来、会心の作を生み出せずに悶々としている。

「でも、あんまり効果はなくて。ガラス職人役の片岡礼子さんは『マサヤンは笑い上戸だから、笑わないって決めたほうが効果的だったね』って。なるほど、笑いを我慢すればよかったのか(笑)。自分が思ってる僕と、人が見る僕とは違うものなんだなぁ」

ストイックに桧山像をつくっていった黄川田だが、発見がもうひとつ。

「かかわる人たちがモノづくりに一生懸命でキラキラした現場を、俺が守らなきゃと思えた初めての作品です」

出演作品に自分自身が気づいていなかった面を教えられることは、これまでにもあったという。

「5年前、日中韓合作ドラマで共演した唐沢寿明さんいわく『もろそうなのに、乗り切ったね。長期の撮影では心がカサついて、仕事がうまく回らなくなるものだけど、おまえは日に日になじんでいく。最初はみんな将也を助けなきゃと思っていたのに、結局、いちばん強かったね』と。自分の意外に骨太なところに気がつきました」

作品を重ねるごとに「楽しかった」「演じることを好きだと思いたい」と感じてきたそうだ。

「それはそれで満足していましたけど、つらいことも含めて、大人たちがこれほど動いている現場ってなんて美しいんだろうと思うようになりました」

今までは自分のことで精いっぱい。でも今は、客観的に見られるようになった。俳優として実感するこの成長が、あがきながら自分を探し再生していく登場人物たちの姿と重なっていた。