(C)Satoshi Gunji

▼競争力をベースに今年こそ


ガンバ大阪との決戦を翌日に控えた公式練習を終えると、ミックスゾーンに現れた浦和レッズのDF那須大亮は、"一極集中"の姿勢を崩さなかった。

「いまはすごい緊張感で目の前の試合に向かっています。次の対戦相手を気にしている暇はないぐらいトレーニングに打ち込まないといけない状況ですし、毎日を戦っていかないといけません。勝たないと次はないと思っています。それが良い循環を生んでいるのかもしれません。2013年の決勝は高揚感がありましたけど、いまは集中することしか考えていません。目の前の試合に勝つことに集中して、その結果何かが付いてくると思っています」

常にポジションを奪われるかもしれないという危機感と戦っている今季の背番号4は、「毎試合が常に決勝戦だと思っている」という言葉を口々に発している。「勝ってるチームはイジるな」というサッカー界の格言に倣うように、自身が出場している試合でチームが結果を残せば、ポジションを明け渡さずに済む可能性は高くなる。シーズン開幕当初、自身のコンディションは問題がなくとも、"定位置"だった3バック中央のポジションに不慣れな槙野智章が起用されるなど、厳しいシーズンのスタートを強いられた那須にとって、あの時期に戻りたくないという危機感が常に彼を支配している。

今季の公式戦初先発は、AFCチャンピオンズリーググループステージ第2節、敵地での浦項スティーラーズ戦。ポジションはダブルボランチの一角だった。序盤は出場機会も限られた上に、浦和では慣れ親しんでいないポジションで起用される日々。ところがどうだろう。いまの那須は戦術上、先発メンバーから外れることはあっても、リオ五輪代表主将の遠藤航を押しのけ、3バック中央のファーストチョイスとして、終盤戦を戦っている。

こうした那須の置かれた状況に象徴されるかのように、目下公式戦8連勝中の浦和は、"競争力"に支えられて、ここまで絶好調を維持してきた。ルヴァンカップ準決勝第2戦・FC東京戦で連続ゴールが途切れるまで、3試合連続得点中だった高木俊幸も、その"競争力の象徴"とも言うべき存在だ。シーズン中盤、確立されつつあった興梠と李忠成、そして武藤雄樹で形成された相性抜群の前線トライアングル解体を促すほど、高木の台頭は著しかった。

また、阿部勇樹、柏木陽介で構成されたダブルボランチの牙城を崩すまでには至らないものの、加入3年目の青木拓矢は、指揮官からレギュラーで起用しても遜色がないといったお墨付きをもらうまでに成長を遂げている。

▼日本代表でも聖域はない


過去4年、タイトルを逃してきた"ミシャ・レッズ"は、指揮官が主力に全幅の信頼を寄せるがあまりに、核となる選手の負傷離脱や"勤続疲労"で終盤に個々の出来が低下し、それがチーム全体のパフォーマンスにも影響することで勝負どころでの試合を落としてきた。

しかし、今季は期せずして、W杯最終予選のほかに、リオ五輪という国際大会があったことで、メンバー入りしていた興梠や遠藤はJリーグ開催期間でもチームを離脱。その間、ポジションへの飢餓感を覚えているズラタンや高木、那須らが彼らの不在を補って余りある活躍を見せてきた。

「五輪でいない間にポジションがなくなるかもしれない」と危機感を覚えながらチームを離れた興梠も、五輪を終えてチームに復帰後、自身のメンタリティーの問題があったにせよ、途中出場の試合が多かった。もはや、いまの浦和には"聖域"と言われる立ち位置はないに等しい。そんな健全なる競争原理が働いているチームのバイオリズムは上昇気流を描いたまま、シーズンの佳境を迎えようとしている。

ファーストタイトルであるルヴァンカップの"ファイナリスト"として対峙する相手は、「これまで何度もタイトル獲得を前に悔しい思いをさせられてきた」(槙野)G大阪。「毎年この時期になると上がってくるイメージがある」と柏木が話すように、2シーズン前の三冠王者は、鹿島に次ぐ最多タイトル獲得数・10冠に王手をかけるなど、タイトルの獲り方を熟知しているクラブでもある。2週間前のリーグ戦では浦和が4-0で圧勝しているものの、その結果と試合内容は決して参考材料にはならないだろう。全公開だった浦和に対して、決勝前日の公式練習を冒頭15分のみの公開としたG大阪が、何らかの浦和対策を施してくる可能性もある。

"偶発性"を含んだ感も否めない、ペトロヴィッチ監督の競争原理を原動力としたマネジメントは、今季一定の成果を残しているものの、まだ何も手にしていない。たとえプロセスは素晴らしくとも、無冠に終わっては、そのシーズンの歴史にクラブの名前が残ることはない。それはこの4年間がすべてを物語っている。

ミシャ・レッズにとって、過去タイトルを逃してきたシーズンとは明らかに違うバイオリズムで迎える今季最初のタイトルマッチ。その結末は、果たしてーー。


郡司聡

茶髪の30代後半編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部勤務を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動中。2015年3月、FC町田ゼルビアを中心としたWebマガジン『町田日和』(http://www.targma.jp/machida/)を立ち上げた。マイフェイバリットチームは、1995年から1996年途中までの"ベンゲル・グランパス"。