阪神・淡路大震災を経験した私立灘中・高(神戸市)の元教諭前川直哉さん(39)が、同校の生徒たちと「東北訪問合宿」を続けている。復興を担うNPOや福島第1原発近くで医療活動を続ける医師、風評被害と闘う農業関係者…。東日本大震災の被災地で活動する「かっこいい大人」に出会うことが狙いだ。再び、どこで起きるか分からない大災害。「現地を知ることで、今、学ぶことの意味を知り、将来、支える側に」と願う。(石川 翠)

 自身も灘高出身。3年生のときに阪神・淡路大震災を経験した。尼崎市の実家の喫茶店は半壊し、学校は遺体安置所になった。「こんなときに勉強していいのか」。気持ちは揺れたが、担任教諭に掛けられた言葉に励まされた。「こういうときこそ学ぶんだ。形あるものは壊れても、学んだことは壊れない」

 東京大学教育学部を卒業後、京都大学大学院などを経て母校で教壇に立った。

 東日本大震災から5カ月後の2011年8月、岩手県釜石市でのがれき撤去ボランティアに初めて参加。生徒たちにも今、学び知り、力を付けることの意味を考えてもらおうと、12年3月、訪問合宿を始めた。

 中高校生が手伝える被災地でのボランティアが少なくなる中、福島県南相馬市立総合病院副院長の話を聞いたり、独自の放射性物質対策を施しながら米作りをしている村を訪ねたりするなど、被災や復興の現場に直接触れた。5年間で約250人が参加した。

 同時に、福島の子どもたちと関わるたびに、強い学びの意欲を感じていた。「きれいな言葉で表現すると『恩返しがしたい』。だが、率直な言葉で表すと『一生世話になりっぱなしは嫌だ』との気持ちを抱いている」。22年前の自分の気持ちと重なった。

 14年春に退職し、福島市内に移住した。一般社団法人「ふくしま学びのネットワーク」を立ち上げ、中高生らに向けたセミナーや勉強合宿を開催し、兵庫の生徒との交流も企画している。

 訪問合宿を続ける意義について前川さんは「自分の目で現地の姿を見れば、将来何ができるかを真剣に考え、今、何のために勉強しているのかが分かってくる。阪神・淡路についても自主的に知ろうとするようになっている」としている。